観光地ができることは?
「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が出されて約1か月が経ちます。現在でも様々な業種への休業要請や外出自粛の中で、観光地においても営業を制限せざるを得ない状況が続いています。こうした状況において、観光地はどのような取り組みが可能なのでしょうか。各地の事例を調べながら考察してみました。
「STAY HOME」を支援する
観光地の中には、対面・接触を避けた様々なサービス提供に取り組む地域・事業者も多く存在します。その中で、特に非来訪ツアーや家飲み、体験学習等の取り組みが目を引きました。
これらは、動画配信・オンライン体験に加え、事前に地域の食材や体験キット等を参加者に送付することで、自宅で地域をリアルに体験してもらうことを意図している点に特徴があります。
実際の食材や体験キットを前にした、オンラインで観光地からのガイド(例えば生産の場でのオンライン中継)は、利用者にとって臨場感あふれる体験になります。観光地側にとっても、オンラインを活用しながら、地域の暮らしや物語を、リアルに提供できる取り組みです。
近隣住民を含めた日常支援サービスに取り組む観光地もあります。例えば、ポリタンク等での温泉の提供・宅配サービスといった温泉地ならではの取り組み、宿泊施設の空き室等を活用した子供預かりサービス(有資格者が必要です)、外出自粛のため人手が集まらない地元農家に対して施設従業員等を動員した収穫支援等が見られます。産業の枠を超え、地域一体でこの状況を乗り越えようという姿勢がうかがえます。
「STAY HOME」から「予防と両立した観光」へ
現在、一部の県では旅館・ホテル、飲食店、観光施設等を含めた休業要請の解除、県をまたがない外出を容認する等、緊急事態措置が緩和され、県内・地域内に限定されてはいるものの、徐々にではありますが旅行・観光が再開される動きが出始めました。
一方観光地側としては、「感染症の予防と社会経済活動の両立」を図る取り組みが求められます。来訪してくださる観光客はもちろんのこと、地域住民や自分自身(自社・スタッフ)を新型コロナ感染症から守り、感染症への不安を極力無くしながらも楽しんでもらえる観光地であることが求められます。地域住民の中には地域外から人が来ることに抵抗のある方も少なくありません。こうした方々にも理解・協力が得られるような観光の在り方を整えることも必要になるでしょう。
感染症予防対策を観光客との信頼関係につなげる
「感染症の予防と社会経済活動の両立」を図る取り組みは、「人との接触を8 割減らす10 のポイント・新しい生活様式の実践例(厚生労働省」「施設に応じた感染拡大を予防するための工夫例(内閣官房)」等を基に、いくつかの宿泊施設や観光施設等で実践が始まっています。
一方、マーケティングの観点から考えると、当面の観光客が地元や県内の方々に限定されること、予防対応の観点からも受入人数に限りがあること、コロナ感染症対策を理解し、協力いただくことが必要なことを踏まえる必要があります。
こうした状況に活用できるマーケティング手法の一つに、「顧客(観光客)との継続的な信頼関係を築くこと」に着目した「パーミッション・マーケティング」があります。
この手法のおもしろいところは、マーケティング活動を結婚や恋愛に例えるところにあります。
例えば、『婚活ではお互いのプロフィールと意思を確認し、まずはデートをする。何回か繰り返すと次第にお互いが理解し合えるようになり、関係が深くなる※1』というように、相手に承諾(パーミッション)を得るという段階を小まめに刻み、相互に信頼を高めることによって、継続的な関係を築くことを目指す手法であり、恋愛と同じような手順を強く意識することがマーケティングにも重要と説いています。
この手法を、現在の観光地の状況に当てはめてみると、どうなるでしょう?
まず、自己紹介です。観光地が取り組む健康・衛生面の配慮や三密の回避策、安全・安心な旅行・観光に最適な地であること、お客様にも協力していただく事があること等を整理し、それをしっかりと相手に伝えることが必要です。
次に、プレゼント。観光地のこうした姿勢にご理解・ご協力(承諾)いただける場合には、割引や無料サービス等のインセンティブを観光客に提供することも効果的です(「パーミッション・マーケティング」においても、ちょっとしたプレゼントは効果的とあります)。
そして、相手との小まめなコミュニケーションです。お客様が新型コロナ感染症に対する不安なく宿泊や体験、飲食等を楽しむために、旅行前、旅行中、時には旅行後にも細かい情報提供や問合せに対応する。
こうした観光地と観光客との間の「説明→承諾」というプロセスを繰り返すことで、互いに信頼を深め、最終的には再来訪や口コミの拡散につながる継続的な関係(いわゆる「ファン」)を築くことを目指します。
このような「予防のための体制整備(マネジメント)」と「観光客との信頼関係構築(マーケティング)」を両輪とする取り組みであれば、自治体や観光協会、地域住民の方々とともに地域全体で取り組む価値があるものではないでしょうか。
結び
新型コロナウイルスは観光地にも大変なダメージを与えました。休業せざるを得ない、あるいは観光客の来訪をお断りせざるを得ない観光地の方々の胸中は、察するに余り有るものがあります。
観光の再開は産業・経済的な意味のみならず、人々の生活に欠くことができない活動の再開といった社会的な意味も有しており、徐々にではありますが休業要請の解除や外出自粛の緩和といった動きは私たちに希望を与えます。
しかし、新型コロナウイルス感染症はまだ収まったわけではありません。観光地が取り組むべきコロナ感染症に対応したマネジメントやマーケティングは、引き続き重要な検討課題と考えています。
観光地にとって、観光客にとって、地域住民にとって、コロナ感染症に対する有効な取り組みとは何か、今後も一研究者として考えていきたいと思います。
引用・参考文献
- 世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた(永井孝尚著) 文中※1
- パーミッション・マーケティング(セス・ゴーディン著)