「稼げる地域づくり」に向けたDMOの役割 [コラムvol.401]
図 観光地づくり法人(DMO、DMO候補法人)の登録件数の推移

2016年2月に観光地づくり法人(以下、DMO)の登録が開始されてから3年が経過しました。
全国的な取り組みとして拡大を続けるDMOですが、最近の取り組み等から今後の展開について考えてみたいと思います。

あらためて、DMOの目的と役割を考える

観光庁は「世界水準のDMOを2020年までに100組織を形成する」ことを目標に掲げており、「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」を設置し、「①DMO全般の底上げに向けた改善の方向性」や「②世界水準のDMOに関する次年度の具体的検討の方向性」等について検討を進めています。
(参考:観光庁「世界水準のDMOのあり方に関する検討会中間とりまとめ」http://www.mlit.go.jp/kankocho/iinkai/sekaisuijun-dmo.html)。

その検討の中で、DMOの目的は「観光で地域が稼げる仕組みづくりやオーバーツーリズム対策を含めた環境整備をすることによって地域経済を成長させ活性化させること」であり、その目的を達成するために「国、日本政府観光局(以下、JNTO)、各層DMO、自治体の役割分担、それを踏まえたDMOの目的・役割の整理が必要」と明記されています。

図 観光地づくり法人(DMO、DMO候補法人)の登録件数の推移

ところで、DMOの要件(日本版DMOへの登録要件)は、以下の5点とされています。

  1. 日本版DMOを中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成
  2. 各種データ等の継続的な収集・分析、データ等に基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立
  3. 関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作り、プロモーション
  4. 日本版DMOの組織(法人格を取得していること等)
  5. 安定的な運営資金の確保(収益事業(物販、着地型旅行商品の造成・販売等)、特定財源(法定外目的税、分担金)、行政からの補助金・委託事業等を想定)

このように、DMOは、地域のとりまとめ役(合意形成)、かじ取り役(戦略策定・進捗管理)、地域の一元的な情報発信役等が要件としてあげられている一方で、「稼げる仕組みづくり」や「環境整備」についての具体的な要件については明確には触れられていません。なぜなら、こうした取り組みは、地域の商工業や農林漁業者、観光事業者、行政等のDMOの構成メンバーが主体となり、それぞれが連携して取り組むのが前提とされているからです。DMOはマーケティング調査やそれに基づくビジョンの策定、効果的な情報発信、効果測定等を担うことが重視され、実際の「稼ぐ役割」は地域の中の事業者が担うといった形がとられています。

現在、「オーバーツーリズム対策を含めた環境整備」については、行政等の観光予算の充実とともに、出国税等を基にした国等の補助事業の充実、宿泊税や入湯税の観光財源化等によって推進する環境が整いつつあります。一方「観光で地域が稼げる仕組みづくり」については、民間の取り組みがベースとなりますが、人材、ノウハウ、資金が必要な中、地域の事業者が実際の稼ぐ役割を担うのは難しく、DMOの成果がなかなか現れない要因の一つともなっています。

「地域が稼げる仕組み」を生み出しはじめた株式会社のDMO

そうした中、積極的に「観光で地域が稼げる仕組みづくり」に挑戦しているDMOも存在します。
例えば、営利団体の法人格を取得しているDMOです(DMOの法人格は非営利団体が85%、営利団体は14%(すべて株式会社が33法人)と比較的少数派です)。

営利団体は、非営利団体と比較すると、収益事業に関する専門性や組織としての継続性、出資者への説明責任等による緊張感のある経営、顧客や旅行会社等ビジネスパートナーに対する社会的信用力の高さ、外部からの投融資を受けた事業拡大の可能性といったメリットがあります。(デメリットとしては、非営利団体と比較すると公益面の弱さがありますが、出資者を行政や観光協会等を中心に据える等によって公益性を担保できます。)
(参考:「日本版DMO」形成・確立に係る手引き P118、119.
http://www.mlit.go.jp/common/001229604.pdf)。

こうしたDMOは、旅行事業、宿泊事業、地域商社事業(特産品開発、販売・流通構築)、体験事業、飲食・物販施設運営等、地域の課題解決に向けて、あるいは地域の特性を生かした様々な事業に、主体となって取り組んでいることがわかります。

これらの事業の実績・成果については今後の検証が必要ですが、少なくとも「稼げる仕組み」を直接生み出すことに挑戦してるDMOが、一定数存在することが確認できます。

図 株式会社の法人格を有するDMOの事業例

非営利法人のDMOでも「稼げる仕組み」を生み出している

非営利法人のDMOにおいても、「稼げる仕組み」を生み出しているケースもあります。
例えば、(特非)阿寒観光協会まちづくり推進機構(以下、阿寒観光協会)では、地域集客の目玉となる事業を行うために、DMOが取りまとめ役となり地域内の企業・団体、地域外の金融機関や企業等からの出資によって株式会社(阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社)を設立しました。

DMOは持続・自走が可能な事業計画を作成し、それを出資者等に説明し、地域内外からの出資金を集める役割(資金調達)を担い、株式会社は事業を強力に推進するプロジェクトマネージャーの役割を果たしました。そして2019年7月5日にアイヌ文化と阿寒摩周国立公園の自然を活用した体験コンテンツ「阿寒湖の森ナイトウォーク KAMUY LUMINA(カムイルミナ)」を実現しました。

また、同時期に、商店街の活性化を企図し、DMOと阿寒アイヌ工芸協同組合が連携し、アイヌ文化の根付く地域をより広く理解してもらうため、アイヌ古式舞踊・現代舞踊・デジタルアートを融合させた新しいアイヌ文化の芸術作品(演目)を創出し、2019年3月15日から公演を開始しました。

図 「阿寒湖の森ナイトウォーク KAMUY LUMINA(カムイルミナ)」と「阿寒ユーカラ「ロストカムイ」」

(特非)阿寒観光協会まちづくり推進機構は地域の特性である国立公園の自然、多様なアクティビティ、地域に根差したアイヌ文化を生かし、「アイヌ文化に彩られた国際リゾート」をまちづくりの目標に掲げています。「自然を敬い感謝し、共存してきたアイヌ民族が大切にする世界観」「自然との共生の大切さ」をテーマにした2つの体験コンテンツは、阿寒湖温泉の地域ブランドの核ととして大きな期待が寄せられています。動画では阿寒湖温泉の自然を舞台にしたアイヌ文化のストーリーの一端を視聴できます。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000042153.html

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000042153.html

出典:阿寒観光協会、阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社プレスリリース

この他にも、非営利法人のDMOであっても、ビジョン(志し)を等しくするDMOの構成メンバー(営利組織等)との連携によって「観光で地域が稼げる仕組みづくり」に取り組んでいるケースがあり、優良事例と言われるDMOの事例も見られます。

  • 地域のまちづくり会社が「フラノマルシェ」を開設・運営して地域の農林業、商業と連携した中心市街地の活性化に取り組んでいる(一社)ふらの観光協会
  • JAびえいが取り組む地域商社「美瑛選果」と(一財)丘のまちびえい活性化協会の連携
  • 第3セクターとして道の駅の運営等を通して体験事業や地域産品の販売に取り組む(一社)信州いいやま観光局
  • 古民家・町家のリノベーションから施設運営の事業化領域を担う株式会社NOTEを設立した(一社)ノオト
  • 地元資本の商業施設と連携する(一社)北谷ツーリズムデザイン・ラボ

「地域が稼げる仕組みづくり」を支援するDMO

「地域が稼げる仕組みづくり」に向けたスタートアップや運営には、事業計画の策定や資金調達等のノウハウが不可欠になりますが、こうした取り組みを支援するDMOもあります。

せとうちDMO(広域連携DMO)は、せとうち活性化ファンドを用意し、さらに瀬戸内ブランドコーポレーションが経営支援、事業化支援等を行う枠組みを設けています。

こうした取り組みは、地域活性化ファンドなどの地方銀行の取り組みや、政府系金融機関(株式会社日本政策金融公庫、株式会社日本政策投資銀行、株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)等)等との連携を深めることによって、他の地域でも可能な取り組みと思われます。

戦略と実践の相互作用が優れた地域を創る

これからのDMOは、「地域経済を成長させ活性化させるために、観光で地域が稼げる仕組みづくりやオーバーツーリズム対策を含めた環境整備をすること」をこれまで以上に求められます。

「実行からの学びによる大胆な修正を組み合わせることで、優れた戦略が生み出される」

とは、経営学の大家であるミンツバーグが、著書「戦略サファリ」の中で述べている言葉です。

これからのDMOにおいても、戦略を策定する、それに沿って物事を進めるといっただけでは十分ではありません。地域のかじ取り役をベースにしつつも、スピード感やインスピレーションが求められる日々の実践をも担い、その中で試行錯誤を繰り返し、その蓄積から戦略に正を加え続け、「優れた戦略」を生み出すDMOが、世界水準のDMOにつながっていくのではないでしょうか。