アメニティ持参は「あたりまえ」となるか? [コラムvol.489]

2022年4月にはプラスチック資源循環促進法(プラ新法)が施行され、国内の大手ホテルチェーン等において、「無料アメニティ廃止」について実践されるようになりました。

筆者は長野県白馬村において、小規模宿泊事業者が主導し、地域全体の宿泊施設における脱・無料アメニティを目指す取組に携わる貴重な機会を得ましたので、本稿では本取組を紹介します。

白馬村では、温室効果ガス排出の1/4を宿泊業が占める

白馬村は、雄大な北アルプス白馬連峰のもと、パウダースノーや山岳自然環境、里山や姫川源流など、豊かで美しい自然と景観に恵まれています。このような雄大な自然を近年の地球温暖化から守るべく、白馬村は2019年12月に「白馬村気候非常事態宣言」を発出し、2020年2月には「ゼロカーボンシティ宣言」を行っています。また、これらを背景に、ゼロカーボンの達成に向けた基本計画として2022年1月に「白馬村のゼロカーボンビジョン」が策定されましたが、同計画の一環として調査された村内の温室効果ガス排出量の現状を確認すると、宿泊業で排出される温暖化効果ガスの割合は24%と、全体の約1/4を占めています。なお、白馬村の宿泊施設数は約900施設で、村内の従業員数の約4割を宿泊業が占めており、宿泊業は村の地域環境や地域経済に大きく影響を及ぼす産業であると言えます。

図 白馬村の温室効果ガスの排出割合
出典:白馬村のゼロカーボンビジョン

無料アメニティに対する意識

温室効果ガス排出抑制のためにできる取組は多岐にわたりますが、宿泊業ができることのひとつとして、「廃プラスチック等の廃棄物の抑制」が挙げられます。

白馬村の20程度の小規模宿泊事業者等(主に旅館・ペンション)をメンバーとし、持続可能な白馬村のあり方を宿泊業の観点から検討する「白馬村宿泊イノベーションチーム」では、取組の一環として「宿泊施設の使い捨ての無料アメニティの提供をやめることができるか」に着眼し、使い捨て歯ブラシを中心としたアメニティの意識について、村内の宿泊施設及び村内宿泊客を対象としたアンケートを行いました(2022年度)。なお、本アンケートの実施やとりまとめについて、当財団にて支援を行っています。

まず、宿泊事業者向けのアンケートの結果を見てみると、2022年現在で、無料アメニティ(歯ブラシ、髭剃り、ヘアブラシ、シャワーキャップ等)の提供を行っていない宿泊施設は、アンケート回答施設のうち約4割となりました。なお、直近で歯ブラシの無償提供をとりやめた村内の宿泊施設にお話を伺うと、宿泊客とのコミュニケーションをしっかりとれていたこともあり、歯ブラシの無償提供の廃止による宿泊客とのトラブル等は特段発生しなかったようでした。

図 白馬村の宿泊施設のアメニティに対する意識

続いて、宿泊客へのアンケートの結果を見てみると、村内への宿泊にあたり、歯ブラシを持参している宿泊客は半数以上に及ぶとともに、使い捨ての無料アメニティを廃止することについては、半数以上が賛成であり、反対は2割以下という結果となりました。また、宿泊先のアメニティが有料だった場合、アメニティを購入せずに、家からアメニティを持参すると考える人が全体の8割以上という結果となりました。

これらの結果から、白馬村で歯ブラシをはじめとした使い捨ての無料アメニティの提供をやめることは、村内外では、大筋では受け入れてもらえそうだ、ということが確認されました。

図 白馬村の宿泊客のアメニティに対する意識①

図 白馬村の宿泊客のアメニティに対する意識②

はぶく歯ブラシプロジェクト ~HAKUBA HABUKU HABURASHI~

図 はぶく歯ブラシプロジェクト

これらをふまえ、白馬村宿泊イノベーションチームは、「はぶく歯ブラシプロジェクト」として、白馬村に滞在する宿泊客は、マイ歯ブラシ等のアメニティを持参いただくことを目指すこととしました。

これを目指すための取組として、自施設では無料アメニティを提供しないことを表明する「白馬村『脱・使い捨てアメニティ宣言』の宿」という考え方を提唱しており、これに賛同する宿泊事業者を募集するとともに、自施設で掲示できるステッカー(図)と宣言書(図)を作成し、賛同事業者への配布を始めています。また、今後は、歯ブラシ等のアメニティを持参しなかった宿泊客に対し、有料で提供することを想定した、環境に配慮した「白馬村オリジナルのアメニティ」の開発についても視野に入れています。

歯ブラシをはじめとした無料アメニティは、使用後はそのままごみ箱へ捨てられることが多いですが、コロナ禍前は年間約200万人程度の延べ宿泊者数を記録していた白馬村において、アメニティ持参のマインドが広がった場合、燃やすごみの量や燃やすための燃料の抑制に大きな効果が出ることが考えられます。

図 「白馬村『脱・使い捨てアメニティ宣言』の宿」ステッカー

図 「白馬村『脱・使い捨てアメニティ宣言』の宿」宣言書

図 白馬村のペンション「めぞん・ど・ささがわ」で掲示された宣言書
滞在する外国人も興味ありげに宣言書を読んでいる

図 「山の郷ホテル 白馬ひふみ」のフロントでの宣言書の掲示

図 「白馬 山のホテル」のフロントでの宣言書の掲示

図 「信州白馬八方温泉 まるに旅館」のフロントでの宣言書の掲示

図 「白馬のペンション ダンクル ネッツ」のフロントでの宣言書の掲示

「アメニティ持参×小規模宿泊事業者同士の連携」は、ゼロカーボン実現に向けたひとつの手段となる

令和5年3月31日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、「地球環境に配慮した旅行の推進」も含めた「持続可能な観光地域づくり戦略」を基本方針として掲げており、白馬村においても、白馬村観光地経営計画(2016-2026)にて、「環境配慮型観光地の先進地」を目指す旨を重点施策として位置付けています。

近年、大手ホテルチェーンにおいて、ゼロカーボンに向けた顧客の目に止まりやすい取組の一部として、脱・プラスチック製品の調達と提供が進められていますが、地域の小規模宿泊事業者が短期間で同様の取組をすることは、海外含む地域外の資本との繋がりが薄い中では、可能な支出額の範囲内での製品調達が難しいと言えます。

そのような中、本取組のような、新たに脱・プラスチック製品を調達するのではなく「はぶく(=アメニティ持参の促進)」といった引き算による取組は、小規模宿泊事業者におけるゼロカーボンの取組のスタートとしてハードルが低く、また、地域一体で連携しながら取組を宣言書のような形で打ち出すことは、実施する宿泊事業者が地域内で浮いた存在とならない等、取組実施にあたってのメンタル的な障壁を下げる効果もあると考えられ、再現性の高い有効な手段と言えるのではないでしょうか。

おわりに

同チームでは、無料アメニティ廃止の取組のみならず、宿泊施設の断熱改修の試みや宿泊施設の運営後継者の仕組み化の検討等、持続可能な宿泊業を目指した検討を進めていく予定です。今後も、彼らの動きに注目していきたいと考えています。