「地域愛」が雇用を守る?[コラムvol.269]
図表2 「辞めたいと思う意思」の平均評定値の比較 ※辞めたいと思わないほど点数が高い

観光地経営の面からも雇用の維持は重要な問題

 観光産業の中でも、人がサービスを提供することで成り立っている、いわゆる「ホスピタリティ産業」は、雇用の受け皿としても地域経済の中で重要な役割を担っています。

 また、全国的な人口減少が現実となっている現在、観光産業における働き手の確保は大きな課題となることが予想されます。

 そのため、能力とやる気を持った現場の働き手の皆さんに将来にわたって働き続けてもらうことは、各企業の業績向上や、安定的な経営基盤の維持といった点のみならず、観光地を経営(マネジメント)するという観点からも重要です。

働き手の「地域への愛着」への着目

 組織における働き手の皆さんの「辞めたいと思う意思」(あるいは「働き続けたいと思う意思」)には「職務に対する満足度(Employee’s Job Satisfaction、いわゆるES)」や、「組織への思い入れ(コミットメント)」など、様々な要因が影響することが、多くの既往研究で指摘されています。

 一方、特に観光産業においては、上記のような要因以外にも、働く方々が自分の「働いている地域(観光地)」に対して特別な「愛着」を持つことで、そこでずっと働きつづけたいと思うようになる、といった側面もあるのではないかと思われます。

 そこで、観光産業における働き手の皆さんの「地域への愛着(place attachment)」の程度の高低によって「辞めたいと思う意思」に違いがあるのか検証を試みました。

研究の概要

 分析に当たっては、全国で宿泊業に従事する206名を対象として実施したインターネットアンケートの回答データを用いました。  回答者は、フロント・受付・案内、客室係、販売スタッフ、ホールスタッフ(飲食)、調理スタッフ、仕入・物流担当といった現場レベルの他、初級管理職(例:チームリーダー、フロアマネージャー)および中間管理職(例:課長、部長)までを含んでいます。  ここでは、「地域への愛着」の程度を測る指標として、既往研究(Williams and Vaske,2003)から計11項目を設定し、各項目について「大変そう思う」から「全くそう思わない」までの7段階で評価を求めました。  また、「辞めたいと思う意思」の程度を測る指標として、「職場」、「業界」、「地域」の各対象について、「数年以内」、「将来」の離職(離脱意思)を尋ねる6つの質問を設定し、同じく7段階の評価をしてもらいました。  なお、本研究における「地域」の範囲は、「職場が立地する市町村」としています。

図表1 「地域への愛着」を表す質問項目

図表1 「地域への愛着」を表す質問項目

 次に、この11項目について、評価を点数化(7点:大変そう思う~1点:全くそう思わない)し、主成分分析を行いることで、これらの項目を統合する1つの概念(主成分)を作成するとともに、合成得点としての性格を持つ「主成分得点」を算出しました。

 さらに、この値が平均値以上のグループを「地域への愛着」の程度が高いグループ(N=112)、平均値以下のグループを「地域への愛着」の程度が低いグループ(N=94)として2グループに分類し、それぞれの「辞めたいと思う意思」に関する各項目の評価を点数化(7点:全くそう思わない~1点:大変そう思う)した平均値を比較しました。

地域への愛着が強いほど、辞めたいと思わない

 その結果、「辞めたいと思う意思」のいずれの項目においても、「地域への愛着」の程度が高いグループの方が、評価の平均値が有意に高い(つまり、より辞めたいと思っていない)結果となりました。

 ※「辞めたいと思う意思」は「地域への愛着」とは評価の点数化の方法が逆になっていますので、「辞めたいと思わない」ほど点数が高くなります。

図表2 「辞めたいと思う意思」の平均評定値の比較 ※辞めたいと思わないほど点数が高い

図表2 「辞めたいと思う意思」の平均評定値の比較
    ※辞めたいと思わないほど点数が高い

 以上から、観光産業で働く方々が自分の仕事や職場、働いている業界だけでなく、「働いている地域(観光地)」に対しても特別な「愛着」を持つことで、より長く働きつづけたいと思う傾向があることが示唆されました。

 このためには、企業単位で取り組む給与・待遇面での施策だけでなく、業界や地域をあげて観光産業の地域における位置づけとその重要性、または観光地域づくりの意義といった点についても広く周知していくことで、地域に対する愛着を高めていくといった方策が考えられます。

最後に

 観光立国の理念のもと、「住んでよし、訪れてよし」の地域づくりの必要性が提唱されて10年が経とうとしています。この“住む”という言葉には当然ながら“その地域に根ざし、なりわいによって生計を立てながら”という意味が含まれますが、地方創生の流れの中、改めて「住んでよし、働いてよし、訪れてよし」を意識すべきなのかも知れません。

参考文献

  • Williams D.R., Vaske J.J. (2003), The measurement of place attachment: Validity and generalizability of a psychometric approach, Forest Science, Volume 49, Number 6, December 2003, p 830-840