年間40万円消費する“訪日常連客”に注目! [コラムvol.373]

 旅行者数が年々増え続ける訪日市場。足元の2018年1-3月期は、東アジア市場において訪日リピーター比率が再び上昇に転じました。そこで今回のコラムでは、東アジア市場を中心とする訪日客の来訪頻度に焦点を当て、最新の統計を用いて解説します。注目は、年に何度も日本を訪れる“訪日常連客”です。

 注)本コラムでは、韓国・台湾・香港・中国を東アジア、英国・ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・米国・カナダを欧米としました。

東アジア市場ではリピーター比率再び上昇、欧米市場では初訪日比率が上昇中

 東アジア市場では、中国からの初訪日客が増えた影響で2015年に訪日リピーター比率が減少し、その後は初訪日客も訪日リピーターも旅行者数がともに増えていたため、訪日リピーター比率は横ばいで推移していました。ところが、2018年1-3月期は訪日リピーター比率が前年同期の62%から65%へと再び上昇しました(図表1)。中でも訪日3回目以上の割合の増加が目立ちます。東アジアからの訪日客では、訪日経験度の高い人のウェイトが増してきた様子がうかがえます。

 一方、欧米からの訪日客では1回目の割合が年々上昇を続け、2018年1-3月期は50%となりました。欧米市場の訪日リピーターはビジネス客が中心なので、観光客割合の増加が1回目割合上昇の主因と考えられます。

東アジア市場では訪日3回目以上の旅行者数が急上昇

 次に、図表1で示した訪日経験回数の割合を旅行者数に乗じて人数の推移をみてみましょう(図表2)。東アジア市場では、割合が減少していた「1回目」の訪日客も旅行者数でみると引き続き増えています。一方、訪日リピーターでは「2回目」の旅行者数が減少する一方、「3~9回目」の人数が大きく伸びました。また、「10回以上」の人数も上昇しています。

 欧米市場では訪日「1回目」の旅行者数の伸びが目立ちます。訪日リピーターの人数は微増または横ばいです。

年に2回以上訪れる”訪日常連客”は東アジアからの訪日外客数の4割

 このように、東アジア市場では訪日経験豊富な訪日リピーターが増えてきています。そうすると、次に知りたくなるのが直近1年間における日本への来訪頻度です。

 1年に2回以上日本を訪れる“訪日常連客”は、旅行者数の増加に大きく寄与します。なぜならば、同じ「1人」の人でも年に「3回」日本を訪れれば、訪日外客数では「3人」とカウントされるからです(図表3)。近年の訪日外客数の伸びも、この“訪日常連客”が牽引しているものと推測されます。なお、観光統計では先の文章中の「1人」の方を数えた人数を「実人数」、「3人」とカウントする人数を「延べ人数」と呼びます。

 過去に訪日経験があったとしても、たとえばそれが10年以上前であれば、実質的には訪日リピーターというより初訪日客に近いといえるでしょう。訪日リピーターの中でも、訪日市場の維持・拡大への貢献度の高い“訪日常連客”の実態を把握するためには、過去の訪日経験回数だけではわからない、最近の訪日頻度について把握することが必要です。

 観光庁が四半期毎に実施している「訪日外国人消費動向調査」では、新たに日本への来訪頻度に関する調査項目が追加されました(図表4)。2018年1-3月期からは、過去1年間に日本に何度も訪れた”訪日常連客”がどのくらいいるのかが把握できるようになります。

 同質問の初調査である2018年1-3月期の結果を紹介しましょう。なお、この調査は日本を訪れた外国人を帰国時の出国港でつかまえて実施しているため、構成比の分母は訪日外客数と同じく「延べ人数」になります。
東アジアからの訪日客では、前回の日本来訪時期が過去「1年以内」と回答した人が42%を占めました(図表5左図)。つまり、東アジアからの訪日客の10人中4人が、年2回以上訪日する“訪日常連客”であるということがわかります。過去1年以内の訪日頻度(今回を除く)は、東アジアでは「1回」(つまり年2回)と回答した人が回答者全体の18%、「2回以上」(年3回以上)は24%という結果となりました(図表5右図)。

”訪日常連客”の年間訪日支出はおよそ40万円!訪日消費への貢献度高い

 “訪日常連客”の場合、1回の旅行での支出金額が低くても、たとえば年3回日本を訪れたら年間トータルではおよそ3倍の金額を支出していることになります。「訪日外国人消費動向調査」のデータを用いて、東アジアからの“訪日常連客”が日本滞在中に支出する金額の年間合計値を試算したところ、1人当たりおよそ40.9万円という結果となりました。この金額にはパッケージツアー参加費に含まれる国内事業者の受取分が含まれていませんので、これを含めればもう少し高い金額になります。この金額は、欧米からの訪日客の1人1回当たり旅行支出(およそ16.0万円)を遙かに上回ります。

 このように、1人1回当たり旅行支出の低い東アジアからの訪日客の中にも、年間トータルでみれば訪日消費拡大への貢献度の高い“訪日常連客”が少なからず存在するのです。

持続的な消費拡大に向けては、東アジアの“訪日常連客”も重要なターゲット

 飲食店や小売店などでは、継続的に売上を獲得するために常連客を増やすことが効果的であるといわれます。この法則は、訪日旅行にも当てはまる面があるのではないかと推測します。持続的な訪日消費拡大の実現に向けては、訪日旅行1回当たりの旅行支出が高い客層はもちろんですが、近隣の東アジアからの“訪日常連客”も重要なターゲットといえるでしょう。

 “訪日常連客”には、常連客になった確固たる理由が存在するはずです。その理由が解明できれば、“訪日常連客”を増やしたり、彼らの来訪頻度を高めたりするために効果的な方策が見つかるかも知れません。データの蓄積を待って、“訪日常連客”に着目した詳細分析を行いたいと考えています。