秋ノ宮温泉郷の現状と地域力ワークスやまもりの取組
過疎化や高齢化が顕著な農山村においても、旅行者の価値観の変化などを背景に、農山村の風景や農業、田舎の暮らしそのものを活かした取り組みが、さらに進展しつつある。当財団機関誌「観光文化232号」(2017年1月発行)では、責任者を務めて、「地方創生時代における農山村と観光」を特集したが、その一例として、秋田県湯沢市秋ノ宮温泉郷より、「一般社団法人地域力ワークスやまもり」(以下、やまもり)をコラムで取り上げている。
東京から秋田新幹線を利用して最寄駅まで最速で4時間強、秋田県内でも過疎化、高齢化が著しい秋ノ宮温泉郷。一時は、「秋の宮温泉郷ブラッシュアップ・ネットワーク」(2003年発足)に端を発する取り組み(湯めぐり、農業体験、かだる雪祭りの開催、JR・JTB共同商品等)が注目を集め、県内でも観光まちづくりの先進地として認められるようになったが、担い手の高齢化をはじめ様々な事情が重なり、少し停滞期に入っている。
同地域にあって、やまもりは、2013年7月より、活力ある地域づくりを目的に、来訪者と住民、住民同士の交流や支え合いを大切に、体験交流プログラム推進事業や地域力・相互サポート事業などに取り組んでいる(表1)。近隣からの来訪者を中心にリピーターも多く、秋ノ宮温泉郷の新たな人気のスポットとなっている。
※秋ノ宮地域都市農村共生対流推進協議会「秋ノ宮グリーン・ツーリズム」ホームページ
ふるさとの活性化を考える
2010年に湯沢市役所を早期退職し、やまもりの事務局長を務める柴田裕氏は、私が20年近くお付き合いさせていただいている仲間のひとりだが、先日(6/10-11)も秋ノ宮温泉郷にてご一緒させていただく機会があった。
私の滞在中、柴田氏は、
- 自然がある、温泉があるというだけでは、他の地域とは差別化ができない。また、1年のうち数日しか行わないイベントばかりに頼らないことも重要だ。
- 「いい場所ですよ」だけでは、お客様は来てくださらない。コミュニティを作ることが重要だ。事務所近くある空き家(温泉付き)を何軒か譲り受け、場所は確保できている。移住を考える方が活用できるシェアハウスのような場所を作りたい。
- 観光振興や移住促進は行政が全てできるわけではない。観光協会やDMOを、2~3年程度、支援する仕組みがあるとよい。組織と人材の育成が大変重要だ。
- これからは、地域の皆で未来のイメージを共有して、現状を打破するような活動をしていきたい。そのためには外の視点を持った人も必要だ。今が地域の分岐点。子供達に、この地で生きていきたいと思わせる故郷を残せるかどうか、地域力が試されている。
と語った。
かだる雪まつり、20回の節目にかける想い
秋ノ宮温泉郷では、1999年より毎年2月に、「かだる雪まつり*1」(かだる雪まつり実行委員会)を開催している。手づくりにこだわり、温泉旅館や飲食店、商店などの観光関連事業者のみならず、地域住民や地域外のボランティアが一致団結して実行委員会方式で開催してきた。ここ数年は、地元の秋田県立雄勝高等学校の生徒や、杏林大学外国語学部観光交流文化学科の学生なども加わり、さらに盛り上がりを見せている。
このかだる雪まつりに、初期の頃から長らく関わってこられた柴田氏は、来年2月、20回目となる節目の回に、この20年を振り返る催しを開催したいのだと言う。
柴田氏は、
とあつくお話になった。
実践的な学術研究機関の研究員として
私たちは、組織のミッションである観光文化の振興のため、自主研究や自主事業に取り組むほか、我が国では数少ない観光を専門とする学術研究機関として、国・地方公共団体・公的機関等から様々な調査研究業務を受託している。
そして、私たち研究員は、仕事柄、多くの地域にお伺いし、地域で観光まちづくりに取り組む実践者の皆さんから、多くの示唆と、“刺激“をいただいている。秋ノ宮温泉郷の柴田氏のように、今年度は、どんな“熱量の高い人”に出会えるか、これもこの仕事の醍醐味だと感じている。
こうした方々と出会うたびに、「実践的な学術研究機関」を目指す当財団にあって、私自身も実践者としての意識をもち常に現場の動きに敏感な研究員でありたいとの気持ちを新たにする。観光研究者の一人として、“地域が豊かになる”、“人を幸せにする”研究を、実践に活かせるように発信し、主体的に関与していきたいと強く思う。
表1 一般社団法人地域力ワークスやまもりの活動(自主事業)
資料:秋ノ宮地域都市農村共生対流推進協議会「秋ノ宮グリーン・ツーリズム」ホームページより作成
写真1 やまもりでの各種体験の様子(冬季)
写真2 かだる雪まつりメイン会場 3000個のミニかまくら
注
※1:かだる雪まつりの「かだる」とは、この地域の方言で「参加する」の意味を表す。