変わる観光協会 [コラムvol.93]

 観光地の振興を考える上で、行政と民間の間にある観光協会の役割は重要です。しかし、全国の観光協会は観光を取り巻く時代の変化の中で、いくつかの課題を抱えています。筆者を含め我々は各地の観光協会の方々と知り合う機会も多いのですが、特に最近では「これからの観光協会の役割、在り方について再検討している」といった相談をいただくことが多くなりました。

■観光協会に求められる新たな役割

 観光協会は、地域の観光事業関係者が少しずつ資金を出し合い、あるいは行政の予算を基に、地域の観光振興のためのPR活動やイベント実施、案内所の運営等の活動をしてきました。



 しかし、こうした従来の観光協会の役割に加え、近年では多様な役割が期待されはじめています。例えば、観光庁等の観光地支援事業では以下のような点が求められているのではないでしょうか。

○観光地づくりの企画・立案・実行機関であること。
  • 現在、国等では様々な形で観光地づくりの支援を行っていますが、その多くは単独の企業を支援するものではなく、観光地単位の支援策です。また、地域自治体を介すよりも、実際に観光を担っている現場を支援する方向にあります。(観光庁の支援事業は地域協議会やATA(Area Tourism Agency:地域観光振興に取り組む民間組織)等、行政を含めた地域の観光関係者をコーディネートし、実効性のある取組ができる組織に期待しています)
  • 観光協会は地域の中心になる存在として、企画を練り、国等の支援策を獲得し、地域の観光関係者の協力を仰ぎながら実行していくことが求められています。
○地域の観光資源と観光客をスムーズに結び付けること。
  • 10年以上前から観光客の志向・価値観が変化し、マス・ツーリズムからオルタナティブ・ツーリズムへ、と盛んに言われて来ています。従来の観光資源をこれまで通りにパンフレットやホームページ等で発信する、イベントを行うだけでは「これまでとは異なる価値観」で動く観光客に伝わらなくなって来ており、新しい手法が求められています。
  • わかりやすい具体例の一つは、着地型旅行の取組です。地域の知られざる観光資源をプログラム化し、観光客が体験できる仕組みを作ることが盛んに行われています。観光協会が地域の旅行会社となってこうしたプログラムを観光客に発信・販売する地域も増えてきました。また、まちづくりと観光地づくりの連携も重視されてきています。町並みや地域の文化を観光に結びつける、体験活動や町歩きガイドを取りまとめるといった役割も、観光協会に期待されています。

■制度改革の波が観光協会を見直す契機に

 近年、「観光協会」がそのあり方を見直す契機となった大きな出来事が2つありました。

 1つは1998年に議員立法によって制定された特定非営利活動法人法(NPO法)です。当財団の自主研究(観光地経営に関わる基礎的研究/2006年)によれば、全国の観光協会の77%が任意団体、11%が社団法人、3%が財団、残り9%がNPOや株式会社となっています。

 観光協会の役割の拡大・多様化の中で、一定の社会的権利能力を有する法人格取得の必要性が生じ、NPO法の制定を契機に、任意団体であることを見直してNPO法人を取得した観光協会が話題になりました(NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構等)。また、この時期には株式会社としての観光協会(ニセコリゾート観光協会)、中間法人としての観光協会(白馬村観光局等)等、多様なタイプの観光協会が登場しています。



 多様な法人格の観光協会が現れた背景には、その地域の観光のあり方、考え方が大きく反映しています。例えば、NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構は地域の観光振興とまちづくりの一体化、国立公園の自然の保全といった公益的性格の強い将来像を描きました。ニセコリゾート観光協会は公益的役割を担いつつ、民間企業の経営手法による自立した運営を目指し、株主である地域への確かな利益還元を目指しています。白馬村観光局は欧米の観光局をモデルとした行政と民間との間に一定の距離を持つ第三者機関的な組織を目指しました。



 2つ目の契機はまさに現在進行中のもので、2008年12月に施行された新しい公益法人制度(いわゆる公益法人改革)です。都道府県や市の観光協会は、社団法人あるいは財団法人であることがほとんどで、公益法人改革の対象となることから、2013年までに一般か公益かのいずれかへの移行を求められています。

 さらに、NPO法の時と同様に、公益法人改革を契機に任意法人から一般社団法人として新たなスタートを切る観光協会も出始めています(墨田区観光協会、神奈川県秦野市観光協会など)。関係するのは社団法人や財団法人の観光協会ばかりではないのです。

■時代に合わせて変わる観光協会

 繰り返しになりますが、観光協会は地域の観光事業関係者が少しずつ資金を出し合い、あるいは行政の予算を基に、地域の観光振興のためのPR活動やイベント実施、案内所の運営等を行といった役割を担ってきました。

 右肩上がり経済の時代はこうした役割だけでも地域の観光振興に一定の役割を果たせたと思います。しかし、現在は、経済の停滞、人口減少・少子高齢化、成熟化社会、訪日外国人観光客の拡大等、観光地にとって厳しい現実への対応が迫られています。これは、個々の企業だけでは対応しきれない。行政だけでも対応しきれない。その中間的存在である観光協会に期待する部分は大きいが、従来のような観光協会運営では対応しきれない。

 こうした状況に対応するためには、これまで以上に高度な、いわば「観光地としての経営を担う観光協会」が求められているのではないでしょうか。



 法人格の変更そのものが観光協会のあり方を左右するものではありません。しかし、地域の観光のあり方、考え方を見直し、観光協会がどのような役割を担っていくべきかを検討する大きな契機となることは間違いないと思います。

 今が、観光協会を中心とした新たな観光地づくり・観光地経営がはじまる契機となる、というのは少々大げさかもしれませんが、今後の観光協会の動向を注視する価値は十分にあると思います。

【参考 NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構の概要】
まりむ館 まちづくり推進機構
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