世界遺産 富士山の魅力、その普遍的価値を伝えたい![コラムvol.262]
構成資産「吉田口登山道」(登山門)

富士山‐信仰の対象と芸術の源泉

 夏本番、富士山麓には、国内外から、美しく魅力的で壮大な雄姿の富士山を眺めに、また日本一の高さを誇る富士山に登りに、多くの観光客が訪れています。

 日本の“象徴”富士山は、古来より人々の畏敬を集め信仰の対象となり、巡礼路や神社なども数多く造られてきました。また、独立峰で円錐型の美しい山容は、時代を超えて多くの芸術家の創作意欲をかき立ててきました。いつの世も富士山は多くの人々を魅了してやまない御山だったのです。

 その文化的意義が評価され、富士山は、2013年6月26日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)により世界文化遺産に登録されました。登録名称は「富士山‐信仰の対象と芸術の源泉」。富士山に関わる文化財には、その山体だけでなく、周囲にある神社や登山道、洞穴、樹型、湖沼などがあり、これらは富士山の顕著な普遍的価値を構成する資産(構成資産/構成要素)として、現在に受け継がれています。

 世界文化遺産の富士山は、こうした25の構成資産(*1)から成っていますが、その眺めの美しさが先行してか、富士山の具体的にどのような場所がどういった理由で構成資産になっているのかは、残念ながらあまり知られていないようです。

*1:https://www.pref.yamanashi.jp/fujisan/kouseishisanshoukai.html

富士山、三つ峠からの眺め

  富士山、三つ峠からの眺め

構成資産「本栖湖」

  構成資産「本栖湖」

REBIRTH!富士講プロジェクト、始動!

 こうしたなか、今月(7月)、山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会(以下、協議会)は、「信仰の対象富士山の巡礼路、構成資産の価値及び相互の関係性などの理解促進」「構成資産をつなぐ巡礼路等を活用した新たな富士山観光の推進」を目的として、「REBIRTH!富士講プロジェクト」に取り組み始めました。

 「富士講」とは、富士山への登拝を目的として結成された山岳信仰の民間組織で、近世には関東・中部をはじめ全国の一般庶民にまで広がりを見せました。今も全国各地に残る「富士塚」は富士講と深い関わりを持っています。

 富士講は、明治以降、富士山麓までの交通網の整備や富士登山自体の観光化などにより、その活動は停滞していきますが、富士山麓には富士山信仰、富士講の歴史・文化を伝える「御師」(宿舎の提供、教義の指導や祈祷等、富士信仰の全般の世話役)が存在しています。また、全国各地からの「巡礼路」も富士山麓にその名残を色濃く残し、富士山への「登拝道」の多くは登山道となっています。

 「REBIRTH!富士講プロジェクト」では、協議会の下に作業部会が設置され、関係7市町村(富士吉田市・富士河口湖町・西桂町・山中湖村・忍野村・鳴沢村・身延町)より、企画課、観光課、教育委員会(学芸員)、観光関連団体、まちづくり団体等が集まり、議論を開始したところです。作業部会のミッションは、富士講の歴史・文化に着目し、その縁りの路(道)や文化財などを観光活用することで、富士山の文化的価値を分かりやすく紹介していく、広めていくことにあります。

 多様な関係者が集い協力・連携して事業を行っていくことは簡単なことではありませんが、協議会では同プロジェクトを5年間は継続する予定とのこと。丁寧な議論を重ね、具体的な取組方針を共有し、事業を実施していきたいと、担当者はお話になっていました。

構成資産「御師住宅(旧外川家住宅)」

構成資産「御師住宅(旧外川家住宅)」

構成資産「吉田口登山道」(登山門)

構成資産「吉田口登山道」(登山門)

熱き“想い”を表現し、伝えたい!

 当財団は、「REBIRTH!富士講プロジェクト」のお手伝いをさせていただいていますが、先日、学芸員の方々にヒアリングさせていただく機会がありました。

 学芸員の方々は口々に、プロジェクトの望ましいあり方としては、「信仰心を持っている方(富士講の方)を尊重することが重要。一般の方には富士講文化の一端に触れていただき、富士講文化のすそ野を広げられるとよい」「“本物体験”の提供が重要。本物の講の場に同席する形で信仰の様子を垣間見ることができる」等、また、巡礼路の観光的活用については、「信仰の山・富士山には“真向かう”意識が重要」「富士登山では“富士山=生まれ変われる山、シフトチェンジ出来る山”とのイメージを定着させたい」との考え方や想いを聞かせていただきました。

 言うまでもなく巡礼路は道(ルート)ですが、観光に係わる者の多くがこれを活用したコースを考えようとすると、ターゲットを意識し消費者が望むものを作ろうとすることでしょう。

 しかし、富士山に魅了され、富士山を愛してやまない学芸員の方々の「富士山を、富士山の歴史・文化を、富士講のことをもっとしっかりと知ってもらいたい」との熱き想いを伺うにつけて、観光の分野でもマーケティングで言う「マーケット・イン」ではなく「プロダクト・アウト」、すなわち、考え(コンセプト)や心(マインド)を世に問う「コンセプトアウト」、あるいは「マインドアウト」の発想がもっと大切にされるべきではないかと、私は改めて感じています。

 今年度、「REBIRTH!富士講プロジェクト」はまだ着手したばかりですが、関係者の一人として、今後の展開に期待を持って、久しぶりにワクワクしています。
 富士山ファンの皆さん、「REBIRTH!富士講プロジェクト」にも、是非ご注目ください!

学びの場、ふじさんミュージアム

富士山信仰の学びの場、「ふじさんミュージアム」