コロナ禍が続く中でのMICEの状況と今後 [コラムvol.482]

はじめに

新型コロナウイルスの感染が発生してから約3年が経過しようとしている。依然としてコロナ感染が拡大する時期が断続的に生じてはいるものの、2022年に入ってからは世の中の新型コロナに対する雰囲気も随分と変化してきているように感じている。10月には水際対策も緩和され、海外からの旅行者を目にする機会が増えてきた。こうした状況も踏まえ、本稿では、2021年からのMICE(主にC(国際会議)及びE(展示会))の状況を概観するとともに、コロナ禍の影響による訪日外国人旅行者(インバウンド)の嗜好の変化等を踏まえた今後のMICEへの期待について述べることとしたい。

国際会議及び展示会の開催状況

ICCA(国際会議協会:International Congress and Convention Association)により発表されている、世界で開催または予定されていた国際会議の件数等については、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受け、前年の13,254件から8,409件と大きく減少した。2021年は件数がさらに減少となり7,908件であった。なお会議形態の内訳をみると、オンラインが47%(3,718件)と最も割合が高く、2020年との比較で17ポイント増加となった。またハイブリッドも13%(1,040件)と、2020年との比較で11ポイント増加となった。一方、延期は27%(2,157件)と、2020年との比較で17ポイント減少となった(図1)。

また、アジア大洋州地域7カ国・地域の、2021年に開催又は予定されていた国際会議の件数及び開催形態をみると、日本は364件と最も件数が多く、2位に中国(233件)、3位に韓国(211件)と続く。開催形態をみると、日本はオンラインの割合が50.8%とハイブリッドの割合16.8%と比較して高く、他国・地域も概ね同様の傾向であるが、中国はゼロコロナ政策も背景にあってか、オンラインの割合が33.9%、ハイブリッドの割合が30.5%とそれほど大きな差はないことが特徴的である(図2)。

こうした状況をみると、コンベンションについてはオンラインで参加できる形(オンラインのみ、あるいはオンライン+現地のハイブリッド)が主流になりつつあるものと考えられ、今後はどれだけハイブリッドを増やしていけるか、また、現地参加者をどれほど増やしていけるかがポイントと考えられる。

 

図1 世界の国際会議の開催状況(2021年)

    出所) 観光庁「観光白書(令和4年版)」をもとに筆者作成

 

図2 2021年に開催が予定されていた国際会議の件数と開催状況

    出所) 観光庁「観光白書(令和4年版)」をもとに筆者作成

 

日本での展示会開催件数は、近年比較的堅調に増加してきていたが、新型コロナウイルス感染拡大の初年度であった2020年には、前年の764件から474件へと大きく減少した。しかし、2021年の開催件数は697件と前年から47.0%(223件)の増加となり、また出展者数も50,735社と前年比19.4%、8,237社・団体増となった(図3)。一方で、来場者数は2,841,096人(前年比2.8%、82,089人減)と、入場制限や往来自粛などが影響してか前年を下回った。

 

図3 近年の展示会の件数と出展者数の推移

    注:調査基準
    ①主催事務局への電話調査もしくはHPによる実数把握が可能なもの ※小間数は非公開のものを除く
    ②商談性の高い展示会
    ③一般来場者をターゲットにするイベントにおいても事務局が出展者への営業活動を展開しているもの
    ④関係者のみの来場者のため数値を公表しない展示会でも聞き取りが可能なもの
    ⑤企業単独のプライベートショーは除く

    出所) (株)ピーオーピー「EventBiz」をもとに筆者作成

 

2021年以降の月別の開催状況(図4)をみると、2021年上半期は2019年比で60~80%程度の月が多かったが、6月及び10月以降は2019年を上回る開催件数となった。2022年に入っても2019年を上回る月がみられ、件数については徐々に回復傾向にあることがうかがえる。一方、出展者数については、2021年から2022年へとやや増加傾向がうかがえるものの、2022年に入っても2019年比で50%を下回る月も多く、やや回復は鈍い状況である。来場者数については、2021年は2019年比で37%が最高であったが、2022年に入り徐々に回復してきている。

こうした状況をみると、コンベンションについてはオンラインへシフトする傾向がみられているが、エキシビションについては、やはり実物を見る、実際に会って商談などを行うといったリアルな形を望む傾向が、数値にも表れてきていることがうかがえる。

 

図4 2021年1月以降の展示会の開催件数や出展者数、来場者数の推移

    出所) (株)ピーオーピー「EventBiz」をもとに筆者作成

新型コロナ感染拡大の影響による訪日外国人旅行者の嗜好変化

当財団が株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と共同で調査を行っている「DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査」によれば、コロナ禍においては、海外の旅行者の嗜好も変化してきており、例えばサステナブル旅行やアウトドアアクティビティへの関心は一層高くなってきている。サステナブル旅行については、欧米豪の高収入層やZ世代(※同調査では20~24歳と設定)で重視する傾向が見られていることから、例えばMICE施設更には訪問地全体でのサステナブルな観光地への取組は今後ますます必要性が高まってくるものと考えられる。

また、アジアの旅行者では地方部の地域資源を活用できるアクティビティ(雪、植物、フルーツ、動物、星空、農山漁村等)への関心が高い。コロナ禍においてオンラインやハイブリッドでのMICE開催が増加しているが、こうしたアクティビティをプレ・ポストツアーで体験できるようにするなど、MICE参加の際に「わざわざ訪れる価値」を分かりやすく提供していくことも重要と考えられる。

おわりに

現在、新型コロナ感染の拡大傾向が強まっており、今後の旅行等の活動への影響が心配されるところではあるが、コロナ禍となってから約3年が経過し、リアル回帰への動きも着実に感じられるようになっている。一方で、このコロナ禍により、旅行実施やMICE参加などの経験をしていない人たちが増えてきた。それはコロナ禍になってから大学生になった方々や、新社会人になった方々である。こうした方々が旅行実施やMICE参加を経験しないまま更に時間が経っていくと、そもそもリアルを知らないままであるため、リアル回帰といった動きにも繋がってこない。こうしたことを考えると、新型コロナへの感染リスクを最小限に抑えながら、これまで以上にリアルを戻していく動きも今後必要になってくるのではないかと考えられる。

10月の水際対策の緩和により、ようやく各都市・観光地に外国人観光客の姿が目立つようになってきた。MICEについてはオンラインの良い面を活かしつつ開催地を訪れてもらえるような取組を進め、国内各地において業務目的の外国人旅行者も増えていくことを期待したい。