![若年層に広がる「旅行への関心の縮小」と、高齢者層を直撃する「新たな阻害要因」。データで見る旅行意識の変化。[Vol.532]](https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2025/10/532-kawamura-1.png)
国内宿泊旅行市場は高齢者を中心に二極化が進行
国内宿泊旅行市場は「旅行をしない人」が増える一方、「旅行をする人」はますますたくさん旅行をするようになる「二極化」が進行しています。

国内宿泊旅行(観光・レクリエーション目的)の実旅行者数の構成比(図1左図)をみると、年に1回も旅行をしない人の割合は、2014年の46.8%から、2024年には50.5%に上昇しています。一方、年に4回以上旅行をする人の割合も同時に増加しており、旅行実施者(年に1回以上旅行する人)の平均旅行回数(図1右図)は2014年の2.37回から2024年の2.86回へと約0.5回も増加しています。
ただし、年代によって傾向は異なります。年代別に旅行実施率(年に1回以上旅行をする人の割合)の変化を見ると、2014年から2024年までの10年間で、60代や70代は大きく減少している一方、20代は増加しています。上の年代ほど、旅行実施率が大きく減少したために、二極化が進行したものとみられます。

「旅行の阻害要因」の変化
なぜ、年代によって傾向が異なるのでしょうか。様々な要因が考えられますが、ヒントとなるデータのひとつとして、「旅行の阻害要因」から考えてみたいと思います。「旅行の阻害要因」は、当財団が毎年実施している「JTBF旅行意識調査」において把握しているもので、過去1年間に一度も旅行をしなかった人に対して、その理由を尋ねた結果です。

まず、60代の阻害要因について、2014年と2024年を比較してみます(図3)。
2014年は「休暇がとれない」という阻害要因が最も大きく3割弱が選択していましたが、2024年には大きく減少しました。休暇のとりやすさという点からは、以前よりも旅行をしやすい環境になっているようです。
一方、2014年には1割にも満たなかった「ペットがいる」や、1割強だった「介護しなければならない家族がいる」という阻害要因が大きく増加し、2024年には全体の中でそれぞれ2位・3位になりました。加えて、2014年はほとんど選択されていなかった「旅行商品や宿泊・交通の値段が割高」という阻害要因も上昇しています。
以上から、60代はペットの存在や介護の都合、そして昨今の物価高など、新たな阻害要因の出現により、旅行をしない層が増加した可能性があります。

続いて、20代の阻害要因について見てみます(図4)。まず、60代と同様に「休暇がとれない」という阻害要因が減少しています。2014年には50%が選択しており、阻害要因のなかでは他を大きく引き離して1位となっていましたが、2024年には他の阻害要因との差が小さくなりました。前述のとおり、過去10年間で20代の旅行実施率は上昇していますが、これは働き方改革などの成果もあり、休暇の取りやすさという点で旅行をしやすい環境になってきたことが影響している可能性があります。
一方で、2014年はあまり存在感のなかった「旅行に関心がない」「旅行以外にやりたいことがある」「行きたいと思うところがない」といった阻害要因が、2024年には上昇しています。
10年前の20代は、旅行をしたくても休暇がとれなかったために、結果として旅行をできなかった人が、それなりの割合で存在していたと考えられます。一方、現在の20代は、「旅行に行きたくても行けない人」の割合は減少し、代わりに「旅行に行きたいと思わないから旅行をしない人」が増加している可能性があります。
20代の「旅行に対する関心の幅」の縮小
20代の旅行に対する意向の低下について、同じ「JTBF旅行意識調査」で把握している「行ってみたい旅行タイプ」からも深堀してみます。これは、図5にあるとおり、約30個の旅行タイプについて、それぞれの実施意向を尋ねたものです。20代の「行ってみたい旅行タイプ」をみると、2014年から2024年にかけて、ほとんどの旅行タイプが減少しています。

この変化は年代によって異なり、「行ってみたい旅行タイプ」の平均選択個数の変化(図6)をみると、若年層ほど大きく減少していることが分かります。
10年前は、若年層ほど「行ってみたい旅行」タイプがたくさんあり、それが年代の上昇とともに減少する傾向にありましたが、現在では、若年層も高齢者も、旅行における興味・関心の幅はそれほど変わらないようです。

まとめ
過去10年間における旅行意識の変化について、年代による違いを見てきました。
高齢者層は、新たな阻害要因の出現によって「旅行をしない人」が増える一方、「旅行をする人」はたくさん旅行をするようになる「二極化」が進行しました。
若年層は、休暇が取得しやすくなったことなどの環境的な要因から「旅行をする人」が増えている一方、同時に、旅行に対する意向の低下も見られています。若年層ほど、価値観や趣味・嗜好が多様化していると言われていますが、それは旅行以外の分野に広がっているようです。将来の旅行市場を占ううえでは、若年層の価値観や趣味・嗜好と旅行意向との関係について、今後の更なる研究が求められます。