まちづくりと観光事業の間にある壁① [コラムvol.205]

2014.01.16

観光政策研究部  後藤健太郎
研究員コラム

■はじめに-観光への期待と観光まちづくり-

 地域活性化の手段として観光に対する期待は飛躍的に高まっています。特に、この10年「観光まちづくり」という言葉を目にする機会は格段に増えました。従来の「観光は観光事業者のもの」「観光事業者のための観光」という限定的な捉え方は大きく薄れ、地域が一体となって地域住民の暮らしにも資する「観光まちづくり」に取り組む地域が非常に多くなっています。

■まちづくりと観光事業の間にある壁

 さて、本コラムでは、この「観光まちづくり」をあえて“まちづくり”と“観光事業”の二つの側面に分けて、「まちづくりと観光事業の間にある壁をどう乗り越えるか」を大きなテーマとしたいと思います。定着したと思える用語「観光まちづくり」を敢えて分けるのは、もう一度その間にある違いや観光まちづくりに取り組んできた各地域の現状と課題を踏まえて、今後の取り組みに向けた要点を整理することが重要だと考えるからです。
 まちづくりという地域の生活環境の向上を目指して“住民が主体となって”“地域一体となって”取り組む活動・運動と、主に地域外の観光客を顧客とし、地域経済の一部を担う産業として観光の事業的側面との間には、依然として壁があると感じています。まだその全体像を把握し切れていませんが、筆者が体験した(あるいは現場で活動する人から見聞きにした)個々の事例をもとに、地域がその壁をどう乗り越えて観光活性していくかについて、次回以降のコラムも含めて数回に分けて考えたことをお伝えしたいと思っています。

■事例1:A温泉地 ~地域一体となった取り組みの成果と観光課題としての戦略性の欠如~

○地域一体で取り組む「まちづくり」の先進地

 東日本にあるA温泉地は、都市部から車で一時間ほどの山間部に立地する温泉地です。地域住民の多くは観光事業者であり、観光協会は、会員構成、活動内容の両面において自治会としての要素も含んでいます。全国的な知名度は高くないものの、湯治客を相手にする温泉地として古くから存在しており、開湯400年以上を誇ります。もともと小さな温泉地でしたが、戦後以降に一部の宿泊施設が規模を拡大し、まちの範囲や収容規模も大きく変化しました。 
 近年においては、他の温泉地と同様、観光客が減少し厳しい経営状況下にあります。そこで、A温泉地は、地域自らが主体的かつ自発的にまちの将来について議論する場を設け、まちづくりからプロモーション活動まで含む観光計画を策定しました。その計画に基づき、地域にある廃屋を撤去し、その跡地を公共空間として整備するなど、現在の日本温泉地が抱える課題にも積極的に取り組むなど先進的な取り組みをしています。
 しかし、現場の方の話を聞いてみますと、いわゆる観光事業面では、必ずしも上手くいっていないようでした。例えば、「食」をテーマに地域の“皆で”取り組んでいるが、施設規模等が異なるため、地域として一つにまとめるのも大変。お客さんからは期待していたものと異なったのか、「こんな施設、料理でこんな値段を取るのか」とのクレームを受けたということでした。

○共同意識を醸成し、それを基盤としつつ、市場を意識して戦略的に行動する必要性

 さて、上記の取り組みに見える課題、観光事業が持つ特性とは何でしょうか。
 “地域一体となって”“皆で一緒に”“共同で”取り組むことは、地域の新たな魅力を創りだす上で不可欠です。A温泉地は、まちづくりの先進地で実績もあります。しかし、観光事業のある側面を十分に取り組みに反映できないでいるものと思われます。それは、市場との関係性の中で成立するのが観光事業だということです。
 先ほどの「食」について、地域が一体となって同一サービス・コンセプトに基づく一定のルール、条件を設けて取り組むことは、観光面における地域の魅力向上のみならず、地域における共同意識の醸成、人的ネットワークの強化といった効果も見込まれることから重視すべき点だと考えます。しかしながら、そもそもの施設特性の異なる施設群が一体(一つ)となって、一地域として市場に一律に訴求していくのは、効果的とは言えない部分もあります。“地域一体で” “皆で一緒に” “共同で”、という意識が、ある側面においては一つの足枷となって、市場に対して十分かつ適切に訴求できない状況になっているものと見てとれます。先のクレームは、魅力づくりと情報発信等を地域一体で行った結果、本来地域内の他の施設が受け入れるべきお客を別の施設が受けてしまったことによるものと推察されます。
 各施設のポジションや市場特性の違いなどを踏まえ、地域内で特性に応じたグループに分かれて、各市場に応じた取り組みを行う。そして、地域としてそれぞれがそれぞれの市場を意識して取り組むという細やかな観光戦略を、グループ間での情報共有と相互理解のもとで進めることが今後必要となってくるものと思われます。
 これまで育んだ共同意識や共同活動体制、信頼関係を基盤に、市場を視野に入れて、再度これまでの取り組みを見直す時期にあるではないでしょうか。これからは図1のような取り組みが行われることが期待されます。

図
図1 観光地におけるこれまでの取り組み(筆者作成)

■次回以降のコラムについて

 次回以降のコラムについて先に内容を紹介しておきます。今回と同様、テーマは「まちづくりと観光事業の間にある壁をどう乗り越えるか」です。事例紹介がメインとなりますが、その中で「地域における公平・平等的扱いと観光訴求の関係性(仮)」や「“住民が担い手となる観光”の地域における位置づけと事業面での配慮(仮)」、「環境保全と地域の産業力強化を一体的に進めるための要点(仮)」等について述べる予定をしています。行政の観光政策は、地域の内に対して遍く平等に、機会均等に、公平に行われることが多いですが、観光面ではこうした扱いは市場訴求を妨げてしまうこともあります。こうした内容について、現在進行形の事例を紹介しながらお話出来ればと思います。

 

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