令和時代の観光地域づくりに向けて [コラムvol.411]

2019.12.16

観光政策研究部長 主席研究員 山田雄一

平成から令和へ

 2019年は、元号が平成から令和へと変わる特別な年となった。

 観光面では、2016年に成立していた特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)にかかる政令が3月に閣議決定され、各地でIR誘致に向けての動きが活発化する中、秋には2002 FIFAワールドカップ以来となる大型の国際スポーツイベント、ラグビーワールドカップ2019日本大会(RWC)が開催され大きな注目を集めた。さらに10月には、北海道倶知安町にて、G20観光大臣会合が開催され、観光面における国際的なプレゼンスが高まる1年となった。

 他方、京都市など、一部、地域においては「観光客が多く来すぎているのではないか」という懸念が広がり、メディアを賑わすようになってきている。また、台風15号や19号を始めとした防風、豪雨災害が相次ぎ、災害に伴う交通機関のダウンや、その後の需要減などが、大きな影を落とすようになっている。
 さらには、隣国との国際関係の悪化によって、当該国からの訪日客が大きく減少する事態も生じており、九州地方をはじめとした地域は、深刻な需要減に見舞われている。

 こうした影響もあり、2018年、3000万人を超えた訪日客数は、やや失速気味に推移しており、2019年10月の訪日客数は、2018年、2017年のそれを下回る結果となった。
 来年度は、東京オリンピック・パラリンピック開催の年であり、RWCに続き、国際的な注目が高まる年となることが予想されるが、その足元については、必ずしも楽観視できる状況ではなくなっていると言えよう。

顕在化する課題

 現在の国を挙げての観光振興の取り組みは、2003年の観光立国懇談会(当時の小泉純一郎総理が主宰)から始まり、2016年の「明日の日本を支える観光ビジョン」で体系化されているものである。この「明日の日本を支える観光ビジョン」は、2014年から始まった「地方創生」の取り組みと密接な関係をもっており、単なる観光客誘致ではなく、観光を手段とした地域振興に視点が向けられている。

 こうした視点から過去数年を振り返れば、観光と地域振興とのリンクが、大きな課題となっていることが指摘できる。

 近年、需要面においては、好調に推移してきている。1990年代後半以降、減少し続けていた国内観光需要は、底打ちしてきたし、訪日客数も2014年から2018年の5年間で倍増以上の伸びを記録しているからだ。

 問題なのは、発生した需要が、一部の地域に集中的に向かっており、大きく偏在していることだ。これは、需給構造から考えれば自然のことではあるが、地方の活性化を考える上では課題となる。さらに、需要が集中する地域においても、必ずしも、観光の効果を、地域活力の増大に繋げられていない状況にある。例えば、G20の開催場所となった倶知安町は、国内ではかつてない国際的なリゾート地域となったものの、地域住民の生活改善への寄与は限定的なのが実情である。同様の状態は、京都市や沖縄県など、人気の観光地においても多く指摘されている。
 統計上、観光消費による経済波及効果が高いことは各所で確認されているにもかかわらず、観光が振興されても(=観光客が増える、観光消費額が増える)、地域が元気にならないという矛盾は、どこにあるのか。この問題に真摯に向き合わないと、観光によって持続性の高い地域を創造していくことは難しいだろう。

サービス経済社会の価値創造

 その理由は、現代社会が、サービス経済社会であり、知識経済社会であるためだ。
 現在は、かつての製造業社会と異なり、取り組みの労働量と対価とは、必ずしも一致しない。付加価値を生み出すモデルを発想し、実現できる主体が、生み出した付加価値の多くを獲得していくからだ。そして、その付加価値を生み出す主体は海外へとシフトしてきている。

 例えば、G20観光大臣会合の会場は、香港資本が所有しており、運営しているのは、米国を拠点とする国際企業である。これに限らず、近年、相次ぐ高級ホテルの多くは海外企業グループがオペレーターとなっている。自社ブランドのホテルも擁する国内有数の不動産企業でさえ、自社ブランドを使わず、海外ブランドでホテルを展開するようになっているのが実情である。
 これでは、付加価値の多くは、それら海外企業に流れていくことになる。

 とはいえ、ここでナショナリズムを発揮し、海外企業を排斥するというのはナンセンスである。付加価値を生み出す事業者がいなければ、需要を高めることもできないからだ。
 ただ、観光によって地域を元気にするには、単に観光客を呼び込めば良いということではなく、呼び込んだ需要を、しっかりと地域の中で消化する仕組みが必要だということに気がつく必要があるだろう。
 これに気づけば、地域において観光に対応した「観光産業クラスター」を形成していくことの重要性が見えてくる。

 今日の観光は、行政だけでできるものでないし、単体の民間事業者だけでできるものでもない。地域が観光面において競争力を持ち、しっかりとその成果を地域に取り込んでいくには、官民がパートナーシップを組み、役割分担をしながら、戦略的に事業を進めていくことのできる体制構築が重要となる。これが、観光産業クラスターである。

求められる中長期的な時間軸

 地域は観光産業クラスターを持つことによって、初めて、「観光」による効果を地域の振興に繋げていくことが可能となる。5年、10年という時間軸の中で、クラスター形成に取り組んでいくことが求められる。

 これまで、地方創生以降の観光振興は、毎年増大する訪日客数を後追いする短期決戦的な様相を呈していた。しかしながら、これからの観光振興は、長期戦だと考えていくことが必要となる。産業クラスターの形成には、多くの時間がかかるからだ。

 中長期的な時間軸の中で「観光地域づくり」を考え、着実に取り組みを進めていくことができるのか。各地域の観光振興の姿勢や体制が問われている。

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