2015年、印象に残った地域、人、そして“言葉” [コラムvol.285]

2016.01.12

観光文化研究部次長 吉澤清良

 私たち研究員は、仕事柄、多くの地域にお伺いします。観光魅力の高い地域や、素敵な人々に出会うと、ワクワクするものです。2015年も、多くの魅力的な地域や人との出会いがありました。

 今回のコラムでは、昨年、特に印象に残った地域、人、そして、特に“言葉“を振り返ってみたいと思います。

 2016年、晴天に恵まれた元旦、凜と張り詰めた空気の中、富士山と一緒に拝むご来光は、息をのむほど美しく、そして神々しく、多くの人々を魅了したに違いありません。

 その富士に抱かれた富士北麓地域(山梨県)に、昨年も通う機会に恵まれました。おかげさまで10年近くのお付き合いとなります。

 コラム262号でもご紹介させていただきましたが、2015年度、山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会では、「信仰の対象である富士山の巡礼路、構成資産の価値及び相互の関係性などの理解促進」、「構成資産をつなぐ巡礼路等を活用した新たな富士山観光の推進」を目的に、「REBIRTH!富士講プロジェクト」に取り組んでいます。富士山は、世界文化遺産に登録(2013年6月)されていますが、自然が創り出したその姿の雄大さ、荘厳さ、美しさ故か、文化遺産としての認識が一般的に高くないのです。

 昨夏、同プロジェクト事務局(山梨県富士山保全推進課・JTBF)は、富士講ゆかりの観光資源の洗い出しや、富士講のデモンストレーション効果を狙った「モニターツアー」の企画を行うため、関係市町村の観光担当課や学芸員の方々を、個別に訪ねて回りました。

 関係者からは、「富士講の観光活用では、神聖さと観光の両立が課題。」「富士講の観光化が進むと、先達の負担が大きくなる。後継者の確保・育成が大切。」「富士講の精神性が忘れられ、形骸化してしまうことを懸念。支援したいが、やり方が難しい。」などのご意見をいただき、プロジェクト実施の難しさを、改めて感じるところとなりました。

 そうした中、2015年9月、私たちは、富士講先達の「内八海めぐり(*1)」に同行させていただけることになったのです。
 内八海めぐりとは、富士山に登拝できない時期、3日間くらいかけて行う、湖辺で龍神への祈りを捧げて心身を清める修行のこと。早朝、富士吉田市(上吉田)の御師の家「筒屋」(*2)を発ち、四尾連湖から精進湖、本栖湖、西湖、、、と巡っていきます。

 私たちは、モニターツアーの検討や今後の事業展開に役立つ示唆を得ようと、先達に付かず離れず同行し、息を潜めて、その様子を見守り続けました。

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 だんだんと陽も暮れ始め、内八海めぐりも終わりに近づきつつある道中、先達がおっしゃった一言は、とても印象的でした。

 「角行(*3)は、富士に登拝することで「生まれ増す」と説いた。そんなに簡単に生まれ変わることはできないが、得るものはある。モニターツアーではこの感覚を大事にしてもらいたい。」と。 穏やかで優しい口調でありながら、力強く、訴えかけてくるものがありました。この「生まれ増す」という言葉が、その示す意味が、モニターツアーの企画の方向性を大きく決定づけることになったのです。

 モニターツアー(「富士みちと内八海めぐりツアー ~自分の中に何かが、生まれ増す旅」)は、平日の設定にも関わらず、老若男女、遠くは関西からの参加者を得て、無事に催行されました。行衣を身にまとった参加者が富士みちを歩き、ガイドの方の熱のこもった解説に耳を傾けている様子は、テレビ番組のニュースでも大きく取り上げられ、話題となったようです。

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 【参考】冨士みちと内八海めぐりツアー ~自分の中に何かが、生まれ増す旅
 ○日時:12月7日(月)~8日(火)
 ○コース
 1日目:
 (集合:甲府駅→)集合:富士山駅→①新倉山浅間公園(忠霊塔)→
  ②小室浅間神社→(昼食)→③金鳥居「おし街さんぽ」
  ~北口本宮冨士浅間神社等)→④山中湖→⑤ふじさんミュージアム→
  御師の宿 筒屋(宿泊)

 2日目:
  ⑥明見湖→⑦母の白滝→⑧冨士御室浅間神社→⑨西湖(竜宮洞穴)→(昼食)
  →⑩精進湖→⑪本栖湖/中之倉峠トレッキング→解散河口湖駅(→甲府駅)

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 2015年、最も印象に残った言葉は、先達のおっしゃった「生まれ増す」。

 そして、先達の内八海めぐりに同行して、改めて気づかされたことは、「一以貫之」(一つの道に、忠恕(まごころと思いやり)を持って、誠心誠意を尽くして貫く)の姿勢の大切さでした。

 2016年、私も「一以貫之」の精神で、観光研究者として、観光文化の振興に寄与し、豊かな社会の実現に向けて少しでもお役に立てるよう、調査研究活動に取り組んでまいりたいと思っています。

 本年も、ご支援を賜りますよう、宜しくお願いいたします。

*1:内八海は以下の通り。
  泉瑞、山中湖、明見湖、河口湖(母の白滝)、西湖(竜宮洞穴)、精進湖、本栖湖、四尾連湖。
*2:御師とは、宿舎の提供、教義の指導や祈祷等、富士信仰の全般の世話役のこと。
*3:角行(1541年2月10日~1646年7月15日)は、江戸時代に富士講を結成した人びとが信仰上の開祖として崇拝した
  人物。

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