まちづくりと観光事業の間にある壁③ [コラムvol.251]

2015.05.08

観光政策研究部 研究員 後藤健太郎

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 今回のコラムで最もお伝えしたいこと。

 それは、観光を通じて地域の存続を図るのであれば、

 「市場の先にある地域を見据えよ」

 ということです。

 観光に取り組む地域がこの10年で大幅に増えましたが、地域の置かれた状況や関係する立場によって、観光の位置づけ、観光に対する見方は様々でしょう。限られた地域資源を何か観光利用できないかと新たに試みる地域と、観光事業を通じて生計を立てている地域とでは、その見方が異なるのも当然です。しかし、いずれの地域においても一度考えてほしいと思うことがあります。それは、観光に取り組むのであれば、“眼前”にある地域ではなく、“市場の先”にある地域を見据えてほしいということです。観光政策立案の場面、観光計画策定の場面、プロジェクト実施の場面等で、このことを強く意識していただけたらと思います。

■市場の先にある地域とは

 地域が観光に取り組む場合、その土俵となるのは地域ですので、地域資源及び地域住民の意向等を起点に考えることは重要です。限られた地域資源を観光利用して、課題を解決したい、こんな地域にしたい、地域を存続させたい。観光の見方は多少異なっても、想い描く地域の将来像、目標像を共有して、みんなで頑張ろう。地域が最初に大切すべきは、こうしたことだろうと思います。そして、その次に意識すべきこと。それは、市場の先にある地域、だと思います。

 観光が他分野のまちづくりと大きく異なる点があるとすれば、それは、地域の目標像は、観光者(市場)の来訪の先にあるということです。観光者の来訪が成立しない限り、地域住民の想い描く目標像にも到達できないということです。従来のまちづくりと異なり、ここが観光の厳しいところであり、難しいところでもあります。

■「目的」的に地域を見て、考える

 「地域にこのような資源があるから観光活用してみよう」という供給サイドの目線、意向等を起点に考えることは、地域が観光に取り組む上で必要な過程と考えます。しかし、生計を立てる一手立てとして観光を用いる場合、そうした目線から一度離れて、市場ないし観光者の目線で組み立て直すことが重要です。

 ・地域住民から観光者に視座を転換して、観光地での過ごし方を提示し、それを具現化する。

 ・観光者の立場から観光を「目的」的に考え、人間の心に立ち返って、

  ―それで本当に行きたくなるの?
  ―どういう地域(観光地)なら行きたいの?
  ―あなたならここがどうなったら行きたいと思う?
  ―私ならここで誰とどのように過ごす?
  ―本当に訪れた時にどうだったら満足する?
  ―どう地域が表現されたら価値が伝わり行きたくなる?

 など観光者の立場になって考え、具体イメージを打ち出すことが重要です。

図 観光における手段と目的の関係、観光における地域の目標像の位置 出典:参考文献1)の図をもとに、筆者作成

図 観光における手段と目的の関係、観光における地域の目標像の位置
出典:参考文献1)の図をもとに、筆者作成

■市場評価による痛みと応援をバネに

 地域が観光に取り組むということは、地域が市場から見た数ある選択肢(観光「目的」地)の一つに入ることも意味します。それは、自分が暮らす、人によっては唯一無二の地域が代替性のある地域の一つとして市場から捉えられることでもあります。そうした市場の目を地域の内側に取り込みながら、観光者に選好され来訪してもらえる地域として、地域魅力を磨き上げ、市場に訴求すること。これが観光とも言えます。

 市場の見方や評価には、受け止める側にとっては辛いものも含まれます。例えば、「あなたはこの地域に行きたいですか」という市場や観光者向けの調査。一度も自分の地域に来たこともない多くの人に、場合によっては「行きたくない」、あるいは勝手に他地域と比較評価をされます。市場側がそれほど時間をかけて下した評価でない可能性も高いことから、地域側が深刻に受け止め過ぎるのも良くないですが、市場との関係の中で成立する観光に地域が取り組むということは、そうした市場評価による痛みも当然伴うということです。

 一方で、そうした市場側の声によって、地域の新たな価値が発見されることもあります。市場評価をプラスに捉えて原動力として取り込み、より良い地域をつくっていく。そうした過程を通じて観光者の来訪を促し、地域の目標像に近づけていくことが大切です。

 観光における市場評価は、地域にとって正負の側面がありますが、観光に正面から取り組むのであれば、市場評価を受容していく過程が求められます。最後に繰り返しとなりますが、地域が観光に取り組むのであれば、地域を起点にしつつも、“眼前”にある地域(の目標像)ではなく、“市場の先”にある地域(の目標像)を見据えておくことが重要です。

参考文献

  • 1) 古賀学(2013):ホスピタリティの視点からこれからの観光を考える、観光とまちづくり,2013-2014SUMMER 512号,(公社)日本観光振興協会,p.21
  • 2) 西村幸夫(2014):観光研究への期待-まちづくりの視点から-,観光文化,220号,(公財)日本交通公社,p.9

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