基地局データの代表性を考える [コラムvol.416]
図1 モバイル端末キャリア別の平均旅行回数(国内宿泊旅行・2019年1-3月)出典:JTBF旅行実態調査

 ここ数年、観光分野でのビッグデータ活用が注目され、国や自治体、DMO等で様々なデータが試験的に活用されてきました。その過程で、それぞれのデータの強みや弱みが明らかになったことで、活用できるデータが絞り込まれてきたと感じています。

 その中でも、今後の活用可能性が高いと考えられるデータが、通信事業者の基地局データです。基地局データとは、通信事業者の基地局で捉えたモバイル端末(スマートフォンや携帯電話など)の情報で、これを基に旅行者数(ある時期のある時間帯、地域にどの程度の旅行者が存在するか)や旅行者の流動(ある地域に来た人は、どこから来訪していて、次にどこへ向かう傾向にあるのか)などを把握しようとするものです。
 既に商品化されているサービスとしては、ドコモ・インサイトマーケティング社の「モバイル空間統計」や、KDDIとコロプラによる「Location Trends」があります。「モバイル空間統計」では訪日外国人についても基地局データから推計を行っていますが、今回は日本人の推計にのみ着目します。

 これらは、それぞれの通信事業者ユーザーのデータを用いて推計を行っているため、日本人全体の傾向を示しているかどうか(代表性があるかどうか)については留意しながら活用することが望まれます。
 例えば「モバイル空間統計」では、docomoユーザーのデータを用いて、docomoの普及率と住民基本台帳による人口から居住地別・性年代別に拡大推計を行っています。この場合、docomoの端末を保有していない人の旅行行動も、docomoユーザーと同じであるという前提が成り立っている必要があります。

基地局データの代表性

 そこで、当財団で実施しているJTBF旅行実態調査の結果(※1)を用いて、基地局データの代表性について検証したいと思います。JTBF旅行実態調査は、国内に居住する16~79歳の男女を対象に行っているインターネット調査で、旅行回数などの旅行実態を把握しています。旅行をしなかった人も含めると、調査1回あたり5万サンプル(スクリーニング調査の段階)を取得しています。

 このデータを用いて、「個人で主に使用している携帯電話・スマートフォンのキャリア」による、期間中の平均旅行回数(国内宿泊旅行)(※2)の違いについて検証します。今回は、2019年1~3月の旅行実態に関する調査結果を使用しました。

図1 モバイル端末キャリア別の平均旅行回数(国内宿泊旅行・2019年1-3月)出典:JTBF旅行実態調査

 まず、モバイル端末のキャリア間で比較をすると、どのキャリアも1回前後で大きな差は見られませんでした(※3)。3大キャリア間ではもちろん、3大キャリアとは価格帯の異なる「その他(MVNOなど)」(格安スマートフォン利用者)についても、平均旅行回数での差は無いようです。

 一方で「モバイル端末は持っていない」と回答した人の平均旅行回数は低く、モバイル端末保有者に比べると約半分です(※4)。モバイル端末の保有有無は年収などとも関係しており、旅行回数の違いにつながっているものと思われます。

基地局データを使用する際の留意点

 基地局データの代表性について、キャリアの違いによる影響は小さいことを確認しました。一方でモバイル端末の保有有無では平均旅行回数での違いが見られました。総務省「通信利用動向調査」によると、日本人の1割程度はモバイル端末を保有していないと見られており、この非保有者分については誤差が含まれている可能性があります。

 また、以上の分析は16歳から79歳までの年代を対象としていますが、ここから外れている年代の動きにも注意が必要です。特に子供は、長期休みによって旅行行動が大きく変動する上に、モバイル端末の保有率は他の世代に比べて低いため、影響は小さくないと考えられます。例えば「モバイル空間統計」の場合、そもそも15歳未満は集計の対象外となっているため、子供連れの家族旅行が多い観光地の場合は特に留意する必要があります。

 以上のように多少のクセはあるものの、旅行者の大部分を占めるモバイル端末保有者については概ね正しく推計できるものと考えます。こうした誤差が含まれている可能性も考慮した上で、データを有効に活用することが求められます。

※1:モバイル端末のキャリア情報は非公開のデータです。
※2:5回以上と回答した人を5回として簡易的に計算しています。
※3:モバイル端末キャリア間で若干の差が見られるのは、年代によってキャリアのシェアが異なるためであり、年代別に端末キャリア別平均旅行回数を比較すると、有意差がないことを確認しています。
※4:モバイル端末保有率は年代によって異なりますが、年代別にモバイル端末保有有無別の平均旅行回数を比較した場合も、モバイル端末保有者の方が有意に高くなることを確認しています。