ぴとぅるぴき むーるぴき [コラムvol.188]

2013.04.02

観光調査部 中島泰
研究員コラム

 ひとりが立ち上がれば、みんなも立ち上がる。
 あの森も、この山も、「木」一本から始まっていて、何事もひとつのことから始まる。
 沖縄の島に伝わる古い言葉、「ひとり(ぴとぅる)引(ぴ)き、群引(むるぴ)き」の意味です。

 沖縄観光は今、この言葉の下、環境共生型観光の実現を目指しています。

■ 観光のグリーン化は顧客と地球へのおもてなし

 2012年、沖縄県では、県内の自然とその自然から得られる豊かな恵みを、質の高い状態で次世代に継承していくため、長期計画「沖縄21世紀ビジョン基本計画」および中期計画「第5次沖縄県観光振興基本計画」において、環境保全に十分に配慮した観光振興を促進することを大きく掲げました。
 そして、計画の実現のため、観光事業経営者向けのガイドを作成し、県内に広く配布しています。

 今回のコラムではそのガイド「グリーンガイド」についてご紹介します。
 (当財団もその制作・監修に関わっています)

集落1 グリーンガイド 表紙

 まず最初に、このガイドでは環境に配慮した取り組みのことを「グリーン化」と呼んでいます。グリーン化は、“greening”という言葉で海外でも通じ、「今よりも環境にやさしい状態に変えていくプロセス」を表します。
 本来、変えていく「対象」は非常に多岐にわたりますが、今回のガイドでは、観光に関連する事業者の施設・設備や事業活動・サービス、しかも今すぐにできる簡単なものに限って掲載することとしました。
 というのも、専門的な技術書を目指すのではなく、観光関連事業者の中でもまだグリーン化に取り組み始めたばかりの方、あるいは意欲はあるものの何から始めたらよいのか分からない方々を読者として想定したからです。そうした方々に、グリーン化の意義やメリット、今すぐできる取り組みを紹介し、最初の一歩を具体的に踏み出していただくこと。そして、グリーン化のメリットを直に感じていただくこと。それが、グリーンガイドが目指すところです。

 内容は、大きく3部構成(第1章から第3章)となっています。
 第1章は、「なぜグリーン化をめざすのか」。観光と環境の関係性から、グリーン化に取り組む意義、ビジネスにおけるメリットなどについて整理しています。「グリーン化?そんなの必要ないよ」とか、「自分には関係ないさ」と思っている人たちに、「関係大アリだよ!」、しかも「グリーン化した方がおトクだよ!」ということを最初に強くお伝えする章です。
 第2章は、「取組ガイド」。今すぐできるグリーン化の取り組みについて、4つのステップに分けながら、なるべく具体的にその内容と方法を紹介しています。グリーン化のメリットを感じられていない観光関連事業者の方に、簡単、かつ効果を感じやすい取り組みを実践してもらい、さらにやる気になってもらうための章となっています。
 最後、第3章は、「取組における相談窓口と参考となるサイト」。グリーン化に対して前向きになっていただいた方々に対して、県内における相談窓口やインターネットサイトなどの有用な情報を整理しています。

 それでは、第1章の内容を少し見てみましょう。

■ 観光のよいところ、わるいところ

 そもそも観光には大きな価値や社会的な役割があります。観光を振興することで、観光消費の拡大やホテル、飲食店、旅行会社等の観光関連産業における雇用拡大へとつながります。また、観光は多様な業種によって支えられているため、観光産業への経済効果が上がることによる周辺産業への波及効果にも、大きなものが期待できます。
 そして、経済効果のみならず、観光客自身にとっても、その地域独自の自然・文化に触れることによって非日常性を味わい、そのことが心身のリフレッシュにつながり、生きがいや心の豊かさにつながるものと考えられます。また、国内外の多様な文化を理解し合うことで、国際交流や平和の実現に寄与していくことが期待できるでしょう。

 しかし一方で、やり方によってはイラストで挙げたようないくつかのデメリットが発生することも認識しておかなくてはなりません。これらのデメリットが生じないように、また、どうしても発生する際にはできる限り最小限に抑える努力をしていくことが、観光を将来世代にわたって続けていくための大事な約束事となります。

自然資源の劣化や枯渇
自然資源の劣化や枯渇
騒音や水質汚染の発生
騒音や水質汚染の発生
生物多様性への悪影響
生物多様性への悪影響
無秩序な都市化や乱開発
無秩序な都市化や乱開発
地域のコミュニティや生活への悪影響
地域のコミュニティや生活への悪影響

■ ビジネスにおけるグリーン化のメリット

 以上のような、観光の役割と意義、そして発生しうるデメリットについては、さまざまな場でお話しさせていただきますが、観光の現場では「企業活動にメリットがないなら、うちは取り組めないよ!」という声も多く挙がります。しかし、企業がグリーン化を進めることは非常におトクな話でもあるのです。

 グリーン化の取り組みは、まず水や電気・ガスなどの使用量を減らすこと、そしてゴミなど廃棄物の量を減らすことから始まります。それは光熱費や廃棄物処理代の削減に直結し、多くの場合、取り組みにかけたコストに勝ることになります。
 また、グリーン化の取り組みをおこなうことは、自社のブランドイメージを向上させ、同業他社との差別化につながります。それが観光地単位の取り組みになれば、環境に優しい観光地としてのブランド化につながるでしょう。また、そうしたイメージが徐々に伝わっていくことによって、グリーン化されているかどうかを重視するような新たな顧客層の獲得にもつながります。
 その他、先進的なことに取り組む環境で働いているといった意識と誇りを社員に持たせることができ、業務におけるやる気向上や、優秀な新人社員の獲得が見込まれること。また、将来的な法令・規制に対して余裕を持った対応ができること、などさまざまなメリットが挙げられます。

コスト削減
コスト削減
他社、他地域との差別化
他社、他地域との差別化
新規顧客の開拓
新規顧客の開拓
社員の意識向上
社員の意識向上
将来の法令/規制への準備
将来の法令/規制への準備

■ 「ぴとぅるぴき むーるぴき」の心の下に

 このように、グリーン化の取り組みは、地域の自然と文化を守り、観光客や将来世代への責任を果たすと同時に、自社および自地域の競争力をも高めていくものであり、どの観光関連事業者にも積極的に取り入れていただきたいものです。ところが、日々の業務に追われる中で、また昨今の厳しい経営環境下において、新たな取り組みに挑戦することはなかなか難しいのも現実です。

 しかし、そこでいま一度思い出したいのが、「ぴとぅるぴき むーるぴき」の言葉です。
 荒れ地に木を生やすのは難しいことかもしれませんが、最初の一本がなければ、将来にとって必要な森もいつまで経ってもできません。ですから、たとえ今は仲間が少なくても、自分だけでできること、小さな芽を生やすことからでよいので、スタートすることを勧めています。
 実際には、動き出してみると、小さな芽を育てるのに対して、さまざまな支援が充実していることにも気づくでしょう。また、時が経つごとに仲間が増えて行くことに、力強い思いもすることでしょう。私たちの先人たちにしても、「ぴとぅるぴき むーるぴき」の言葉が示すように、一歩一歩の積み重ねによって、今の恵まれた社会を作り上げてきています。

 実際、沖縄には、さまざまな場面で最初の一歩を踏み出した方々が増えてきています。
 機会があれば、次回は応援も込めて、そうした現場の動きについて紹介することにしましょう。

 

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