消費者から見たオンラインツアー [コラムvol.443]

 コロナ禍における新しい観光の形の一つとして、オンラインツアーに注目が集まっています。筆者はコロナ禍における観光地の取り組みとしてオンラインツアーについて調査していますが、今回は「消費者サイド」から見たオンラインツアーについて考えてみました。

オンラインツアーに関するアンケート調査を実施

 筆者は、当財団の機関誌『観光文化248号(2021年2月)』において、コロナ禍に対応した観光の新しい形の一つとして、オンラインツアー・体験について拙筆しました。取材にご協力いただいた地域、事業者の方々は、オンラインツアーは単独の収益事業として成り立たせることよりも、リアルとオンラインを組み合わせながら地域と観光客を結びつける効果、日本各地の知られざる魅力に焦点を当てた観光体験を広める効果等、コロナ収束後の世界を見据えた取り組みとして、オンラインツアーを捉えていました。具体的には実際の来訪の前段階として、オンラインツアーを通して地域の歴史や文化、特に「人」と出会う体験を提供し、実際の来訪や地域の特産品の購買につなげようとしています。

 本コラムでは、こうした提供サイドの想いを、消費者アンケート調査結果を通して検証してみたいと思います。分析には当財団が3月上旬に、緊急事態宣言下の1都3県住民を対象に実施した「オンラインツアー経験者に対するアンケート調査(以下、「本調査」)」を用います(調査概要は項末を参照)。

オンラインツアーの市場はまだまだ小さい

 オンラインツアーの市場は、広がりつつあるとは言えまだまだ小さいと言われています。本調査(一次調査)の結果でも、1都3県の回答者約3.3万人のうち、「オンラインツアーを体験したことがある」との回答は2.9%、「今後、体験する予定がある」との回答は1.1%、「機会があれば体験したい」が20.6%との結果となりました。また、オンラインツアーに関心のある層による希望価格帯も、1000円未満が18.6%、1000~2999円以内が29.0%と、それほど高い価格帯ではありません。

 オンラインツアーの事業性を参加者数×単価×催行回数で考えると、例えば1000人規模の人数が集まるオンラインツアーを複数回実施することができれば事業として成り立たせることはできますが、20~50人規模の単発実施の場合、事業として成立させるのはまだまだ難しいと言わざるを得ません。


図1:オンラインツアー体験の有無(単一回答)


図2:オンラインツアーに参加する場合の価格帯(単一回答)


オンラインツアー参加者はオンラインツアーとリアルの旅行を結びつけて捉えている

 本調査(二次調査)では、オンラインツアー経験者に対してコロナ収束後にもオンラインツアーに参加するかを尋ねています。その結果を見ると、オンラインツアー経験者の24.7%は「コロナ収束後も積極的にオンラインツアーに参加する」と回答し、40.9%が「体験したいものがあれば参加する」と回答しています(図3)。また、コロナ収束後にオンラインツアーに参加する理由としては、「実際に訪れる際の情報収集」が63.8%と最も高く、「行きたい場所を見つける」「現地の方と知り合う」が40%程度と続きます(図4)。

 このことから、消費者にとってのオンラインツアーは、コロナ禍における観光の代替サービスといった面だけではなく、実際の旅行に役立つ情報や行きたい場所、さらには会いに行ける現地の方を見つける等、実際の旅行を想起しながら参加していることが伺えます。つまり、実際の旅行をより豊かにする発見や出会いを得る、観光地とのコミュニケーションの場としての期待も大きいと捉えることができるのではないでしょうか。


図3:コロナ収束後のオンラインツアー参加意向(単一回答)


図4:コロナ収束後にオンラインツアーに参加する理由(複数回答)


オンラインツアー参加者から生まれる来訪者、購買者

 本調査(二次調査)では、オンラインツアー経験者のツアー参加後の行動も尋ねました。

 その回答によると、「実際に地域に来訪した」方が11.7%、「特産品を購入した」方が19.1%という結果になりました。「これから行動したい」という回答者を含めると60%近くが実際の来訪や購買を期待できる層と捉えることができます。

 一方、「該当なし」という回答にも注目する必要があります。例えば、オンラインツアー中に地域のメールマガジンへの登録、特産品を購入するサイトへの誘導、実際に地域を訪れるための情報等といった内容が含まれていなかった(もしくは認知されなかった)場合、「該当なし」といった回答につながります。今後、オンラインツアーの中に「次の行動」に誘う情報提供を強化することによって、オンラインツアー後の行動をさらに促すこともできるのではないでしょうか。


図5:オンラインツアー参加後の行動(複数回答)


まとめ:今後のオンラインツアーの可能性

 実際の来訪の前段階として、オンラインツアーを通して地域の歴史や文化、特に「人」と出会う体験を提供し、実際の来訪や地域の特産品の購買につなげようという提供サイドの想いは、消費者の意向とも合致していることが、本調査から分かりました。

 オンラインツアーは、現状では市場としてはまだまだ小さく、単体の事業として成り立たせるのは難しい反面、地域への関心を高め、実際の来訪や地域産品の購入にもつながるコミュニケーションツールとしての活用に、今後の可能性を見出すことができます。また、今後のインバウンド回復を見据えれば、海外の方に日本・地域の現状や魅力を伝え、安心して、またより深く地域の魅力を楽しんでもらう旅行前のコミュニケーションツールとしての役割を果たすことにもつながるでしょう。

 こうした今後の可能性を踏まえると、限られた時間で参加者とどのようにコミュニケーションを深めるか、地域の魅力をどのように効果的に伝えるかがオンラインツアーの重要なポイントになります。また、こうした質の高いオンラインツアーが増えることが、オンラインツアー後の実際の来訪や購買につながり、オンライン×リアルという形での市場拡大につながるものと考えられます。

 コロナ禍における緊急的な取り組みとしてスタートしたオンラインツアーですが、コロナ禍における特別な取り組みとして捉えるのではなく、コロナ収束後の世界に向けて、観光地と消費者を結びつける新たな取り組みとしても捉えていく必要があるのではないでしょうか。


補足資料:「オンラインツアー経験者に対するアンケート調査」概要