ポケモンGOをプレイして ―観光地の動きと今後の可能性―[コラムvol.312]
図1-ポケモンgoのマップ画面

ポケモンGOにはまる

 当財団のコラムでは以前に、相澤主任研究員が「位置ゲー」※1について吉谷地主任研究員が「仮想現実(VR)・拡張現実(AR)」技術について紹介しました。今年7月、その「位置ゲー」と「拡張現実(AR)」の両者を組み合わせたスマートフォンゲームアプリ「ポケモンGO」がリリースされ、現在、世界中で大ブームを引き起こしております。

 小学生時代にゲームボーイでプレイしていた、初代ポケモン世代である私も見事にはまり、リリース直後の1週間は寝ても覚めてもポケモンの事ばかり考えている堕落した生活を送ってしまいました。ゲームでは、ポケモンをゲットするため、スマートフォンを片手に街なかを歩き回る必要があります。テレビ等でも報道されている通り、街なかのいたるところにポケモントレーナー(ポケモンGOをプレイしている人)が昼夜を問わず大量発生する社会現象が起こりました。特に、ゲームをプレイする上でのポイント地点となる「ポケスト」が集中している場所や、ポケモンをバトルさせるための「ジム」、特定のポケモンが多く出現する「ポケモンの巣」と呼ばれる場所では、常に多くのポケモントレーナー達が集まっています。

 私も、とある日の退勤後(21:00)、友人と「ポケモンの巣」のひとつである世田谷公園へ行きましたが、遅い時間であったにもかかわらず大量のポケモントレーナーがいる事を確認できました。恐らく公園内にざっと500人程はいたかと思います。それだけこのゲームは、人を動かすだけの魅力を持っているという事だと思います。

ポケモンGOを禁止した事例と活用した事例

 当然、こうした現象に対しては賛否両論の意見があり、観光地でも様々な動きが見られます。

 まずは、ポケモンGOのプレイを禁止する動きです。靖国神社や出雲大社、法隆寺、長崎の平和公園、青森の恐山などでは、エリア内におけるゲームプレイの禁止を発表しました。宗教的な施設や、いわゆる“神聖な”場所において禁止する動きが多いようです。そもそも、そのような場所でポケモンを捕獲することは、例えゲーム内の話であっても少し不謹慎かもしれません。加えて観光の面から見ても、神聖な場所の雰囲気を保つためには、禁止する以外に良い方法はないと思われるため、これらは当然の対応かと思います。

 一方、ポケモンGOを積極的に活用する動きも見られます。

 山形県の小野川温泉や、秋田市の竿灯まつり会場、阿蘇市の門前町商店街などでは、課金アイテムを使用することでエリア内のポケモン出現率を高め、ポケモントレーナーの集客を図っています。このうち小野川温泉の「鈴の宿 登府屋旅館」では、「ポケスト」に近い部屋の中でポケモンをゲット出来るプランや、100種類以上のポケモンをゲットすることで宿泊料金を10%割引するプランなどを提供しています。また、「ポケスト」が多い鳥取砂丘では、鳥取県がポケモントレーナーを歓迎する「鳥取砂丘スナホ・ゲーム解放区宣言」を発表し、PRにつなげています。

 ゲームの特性上、このようなちょっとした工夫で人を集められる可能性があると思います。

ポケモンと場所との関係性

 更に大津市では、市内における新たな「ポケスト」の設定や、ご当地ポケモンの開発を検討しようと、ゲームの開発会社に問い合わせを行っているようです。

 しかし現在のところ、プレイヤー側から「ポケスト」や「ジム」を追加する手段はありません。もちろん、どこにどんなポケモンが出現するのか、プレイヤー側から操作することはできません。

 また、実際に歩き回る必要がある一方、徒歩以外の手段で長距離移動するメリットがありません。位置ゲーの元祖である、コロプラ社の位置登録機能を利用したゲーム※2のように、長距離移動によりゲーム内での報酬がもらえる仕掛けなどがあれば、旅の誘発という意味での効果も期待できますが、ポケモンGOにそのような仕掛けは無く、今のところ、旅行や観光への効果は限定的だと思われます。

 ただし今後、ゲームの様々なルール変更や機能の追加などが行われると予想されるため、観光地側から働きかける場合、そこにゲームをもっと楽しくするための積極的な提案が出来れば、観光への活用方法が広がる可能性はあると思います。

 ゲームをプレイしていて感じるのは、どうしてそこにそのポケモンが出没するのか、どうしてそこに「ポケスト」や「ジム」があるのか、などといった場所との関係性の希薄さです。

 「ポケスト」や「ジム」の設定は、ポケモンGOの配信会社であるNiantic社が開発した別のゲームにおける位置情報※3が元となっており、もともとポケモンとの関連はありません。また、現れるポケモンは、繰り出すワザの種類によって「みずタイプ」、「でんきタイプ」、「じめんタイプ」など様々なタイプがありますが、出没する場所との関係性がはっきりとしていません。

 もし、「『こおりタイプ』のポケモンは北海道や東北で冬に出る」、「『じめんタイプ』のポケモンは土の見える公園にのみ生息している」、「『でんきタイプ』のポケモンは秋葉原でやたら出る」、等の意味づけがされれば、生息するポケモンと場所との関係性が強くなります。プレイヤー側も色々と考えながら移動することになりますし、観光地側が利用できる可能性も広がると思います。

 ポケモンはもともと、ポケモンを捕まえて、他のポケモンとバトルをさせながら“ポケモンマスター”を目指す「旅」の物語です。今後、ポケモンの物語に近い、本当の旅に連れ出してくれるようなゲームになってほしいと思います。

 ※1 位置情報を使って遊ぶ全般の略称、(株)コロプラの登録商標。

 ※2 コロプラプラットフォーム:http://colopl.co.jp/products/colopl/

 ※3「ポケスト」や「ジム」は、ポケモンGOを配信しているNiantic社が2013年に配信を開始したIngressというゲームにおいて、プレイヤーが申請した「ポータル」が元となっている。