観光振興と定住人口との関係 [コラムvol.215]

2014.06.06

観光文化研究部  山田雄一
col-212

現実性を増す人口減少社会

 ご存じの方も多いと思います(ネタとしては古い)が、国土交通省は2014年3月28日、「2050年を視野に入れた国土づくりに向けて ~新たな「国土のグランドデザイン」(骨子) 」というレポートを発表しました。

http://www.mlit.go.jp/report/press/kokudoseisaku03_hh_000067.html

 また、民間の有識者による日本創成会議では、消滅する可能性がある市区町村は全国に896あり、なかでも人口が1万人未満で消滅の可能性が高い市町村は532にのぼるという結果となっています。

http://www.policycouncil.jp/

 同じような地域別人口数の推計は、2005年に経産省が「人口減少下における地域経営について 02030年の地域経済のシミュレーション0」として推計を行っています。

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286890/www.meti.go.jp/press/20051202004/20051202004.html

 ブロックのとらえ方や推計時期が異なりますが、10年近くが経っても「少子化」の流れは大きく変化していない事が解ります。

「地元の人が食べているものを食べたい」を実現するには?

 こうした将来像は、観光に目を向けさせます。実際、国交省のレポートでも「滞在人口」「協働人口」というキーワードが提示されています。

 ただ、宿泊旅行で言えば全体の市場は縮小傾向にあり、多くの地域で、観光客数が減少傾向にあるのが事実です。多くの地域が、新しい視点を持って、観光地域づくりに取り組んでいるにも関わらず、です。

 私は昨年、国内、約500の市町村を対象に、90年代後半以降の宿泊客数と昼間人口の推移の関係について検証をおこなってみました。結果は、ゆるやかではありますが、両者に正の相関が確認出来ました。より、正確に言えば、人口1人あたりの宿泊客数が大きい市町村の多くは宿泊客数を中長期的に減少させていました。

 これは、どのように考えればよいのでしょうか。

 例えば、「地元の人が食べているようなものを、地元のお店で食べたい」という話は良く言われる話です。ただ、これを実現するには、まず、地元に「地元のお店」がある事が必要です。そして、「地元のお店」が事業として成立するには、それなりの後背人口が必要となります。

 どの程度の後背人口が必要になるか、試算してみましょう。
例えば、飲食店で1千万円程度(例:経営者とパート2~4名)の人件費(所得)を得たいとすると、求められる売り上げは、ざくっと3,000万円。年間300日営業したとして、10万円/日の売り上げが必要となります。
これは、単価2,500円とすれば、40人/日に相当します。

 ただ、観光客の立場から言えば、店舗の選択肢がほしい。
仮に、5件程度の選択肢がほしいとなれば、その地域に、200人/日の外食需要が発生している事が求められます。

 外食需要は、来訪している観光客と、住民双方から得られます。住民については、「ぐるなび」の調査では「ゆっくり夕食」の頻度は、週0.3回程度なので、1日0.04回とすれば、5,000人の人口規模に相当します。

http://gri.gnavi.co.jp/insight/2010/pdf/lifestyle_research_100120.pdf

 また、飲食店の商圏は、5分程度とされます。これを距離に変換すると、車を使うとしても2~3kmとなります。

 すなわち、観光客が「地元の人がたべているようなものを、地元のお店で食べたい」という欲求に対応するには、訪問先の半径3km程度に、数千人の人々が居住していることが必要なのです。

観光振興は定住人口と無関係ではない

 これは、机上の推計ではあります。ただ、地域そのものを観光魅力として出して行こうとすれば、最終的に地域の経済規模、人口規模が大きい都市部が有利になっていくことでしょう。特に宿泊滞在という点では、こうした傾向は高まっていくものと思われます。
前述した「宿泊客数と昼間人口の推移との間に相関がある」ということは、こういう事情の一端をしめしていると考えられます。

 では、人口規模の小さい地域はどうしていくべきか、ですが。
個人的には、地方の中小都市を核とした圏域を形成していくことが有効なのではないかと思っています。
モータリゼーションの進展などによって、都市域は外縁化、スプロール化し、まちなかは空洞化しました。
しかしながら、中小都市の中心部は、今なお、一定の人口が集積し、町としてのインフラや施設が立地しています。「地元のお店」も健在である都市は少なくありません。

 ただ、こうした都市だけでは「そこに出かけていく理由」も「宿泊する理由」も創造することが難しいのが実情でしょう。そうした理由を作るのが、周辺の地域ではないかと思うのです。

 これは一例であり、他にも多様な対応策は検討しうると思います。
ただ、人口減少社会が暴力的な勢いで迫ってきていること。「観光」に取り組むだけでは、その波に対応する事は難しい事は意識し、観光地域づくりを考えて行く必要があると思います。

 

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