引き込むのか押し出すのか [コラムvol.120]

2010.07.09

観光調査部 山田雄一
col-120

 6月の下旬、iPhone4が発売になりました。
例によって、販売店は大混雑であったようですが、同日、人気恋愛ゲームの続編も発売になりました。
そのゲームソフトの名前は「ラブプラス+」。

http://gamez.itmedia.co.jp/games/articles/1006/23/news070.html

従来の恋愛ゲームは、「彼女を落とす」までがゲームであったのに対し、このゲームは、「彼女が出来てからもゲームが続く」「出来てからが本番」というゲームであり、豊富な台詞や、朝や昼など、時間に応じて変化するイベントなど、リアリティの高いものでした。

このゲームデザインは、単にゲームをヒットさせただけでなく、ゲームの中の仮想の「彼女」との生活が、現実の生活と一体化し、DSを屋外に持ち出し、屋外で、ゲームではなく、彼女とのデートを楽しむという現象を引き起こしました。
さらに、一部のプレイヤーは、実際に、「エクストリーム・ラブプラス」と称した旅行に出ることになりました。
http://gamez.itmedia.co.jp/games/articles/0910/07/news087.html
同ゲームの内容が、ゲームプレイヤーの日常生活と一体化し、「彼女とデートに出かけたい」という思いをかき立てさせたわけです。

ゲームの内容から、こうした現象について眉をひそめる人も少なくないとは思いますが、ここで重要な事は、ゲームプレイヤーが、ゲームを行う中で、旅行に対する「プッシュ・モチベーション」を持ったと言う事です。

旅行の動機には、観光地が自身の持つ各種資源(例:温泉、風光明媚な自然資源など)で顧客を誘引するプル・モチベーションと、顧客が旅行に出かけようと思う(旅行に押し出す)プッシュ・モチベーションの2つがあります。この2種の内、プッシュ・モチベーションが、ゲームによって創造されたという点は、注目すべきではないでしょうか。

さらに、本ゲームの新作では、ゲーム世界の中で、「熱海旅行」が加わりました。
熱海という具体的なディスティネーションが示され、熱海の詳細がゲーム内で示されるということは、熱海を旅行先として選ぶ「プル・モチベーション」を持たせることに繋がるでしょう。 実際、記事に寄れば、実際の熱海をロケハンして、かなりの精度でゲーム内に再現しているようです。

もともと、プッシュ・モチベーションを持っている人達ですから、そこにプル・モチベーションも持たせることで、実際に、熱海への旅行を行う人達は、少なからず出てくる事が予想されます。 この旅行先が、例え、無名の温泉地であったとしても、同様だったでしょう。
彼らは、「旅行に行きたい」のですから。
つまり、プッシュとプルでは、どちらがより重要なのかと言えば、プッシュであるということです。

さらに留意すべきなのは、観光地では、自らの地域づくり、魅力づくりを進めることでプル・モチベーションを創造する、高める事が出来るものの、プッシュ・モチベーションには基本的に関与できないと言う事です。なぜなら、プッシュ・モチベーションは、観光地の取り組みとは関係なく、顧客の心の中で生まれたり、喪失してしまったりするものであるからです。

例えば、この夏、ハウステンボスでは人気アニメ「ワンピース」をテーマにしたイベントを開催しますが、これは、ワンピースの人気によって、旅行先として選択してもらうという効果(プル・モチベーションを抱かせる)はあっても、「夏休みに家族旅行をしよう」と思わせる効果(プッシュ・モチベーションを抱かせる)は基本的にありません。夏休みの家族旅行に対するプッシュ・モチベーションは、家族の構成や価値観、ライフスタイルなどから生まれてきます。

ところで、旅行というのは、各種の調査が示すように、「行いたい」という意識も高いし、実際の実施率も、他の余暇活動に比して高位にあります。
すなわち、「プッシュ・モチベーション」は潤沢にあるわけです。しかしながら、実施率は高位であっても中期的に低下傾向にありますし、「行いたい」という意識が、実際の旅行に繋がりにくくなっている事は、各所で指摘される事です。
つまり、プッシュ・モチベーションはあるのに、それが、旅行という実需には結びついていない。結びつきにくくなっているという状況にあります。

ここで改めて考える必要があるのは、プッシュ・モチベーションとは何か?という話です。プッシュ・モチベーションとは、必ずしも、旅行にそのモチベーションが限定されている訳ではないのです。
「彼女と仲良くしたい」というプッシュ・モチベーションは、様々な方向に向かうことがあり得ます。高価なアクセサリをプレゼントすることかもしれませんし、雰囲気の良いレストランでの会食かもしれませんし、漫画喫茶でまったりと時間を過ごすことかもしれません。
一方で、冒頭で示したゲームのように、旅行とは、全く関係がなさそうな欲求が、旅行という活動のプッシュ・モチベーションになる事もあるわけです。
知識を得たい、健康になりたい、他者から認めてもらいたいといった欲求であっても、旅行のプッシュ・モチベーションになり得ます。

余暇の選択肢が多様化している現状において、旅行需要を顕在化させるには、顧客が有している欲求、プッシュ・モチベーションを、効率的、効果的に旅行という活動に向かわせることが必要なのです。
このことは、観光地はプッシュ・モチベーションに関与する(左右する)事は出来なくても、そのプッシュ・モチベーションを理解し、それに相応するようにプル・モチベーションを創造していく事が重要な事を示しています。

人はなぜ、旅行するのか。いや、人はどんな目的の達成手段の一つとして旅行を選択しているか。 改めて、しっかりと考える事が求められているのではないでしょうか。

 

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