事業者、業界、観光客のための観光品質保証制度 -香港のQuality Tourism Servicesを事例として- [コラムvol.244]

2015.03.20

観光文化研究部 研究員 柿島あかね

はじめに

 先日、観光庁から2014年の訪日外国人観光客数は1341万人と発表されました。前年比では29.4%、2年連続で過去最高を記録しています。円安の影響や消費税免税制度の拡大が追い風となっているとはいえ、インバウンド市場はまさに絶好調と言えるのではないでしょうか。5年後にはオリンピック・パラリンピックの東京開催が決定しており、今後もこの勢いは続くものと予想されます。現在は、東アジアからの訪日外国人が中心となっていますが、今後は、欧米からの訪日外国人の増加やFITの進展等が予想され、インバウンドの量だけでなく、質も変化することが予想されます。以前のコラムでは、こうした時代に突入するにあたり、主に宿泊施設の情報提供のあり方についてお伝えしましたが、今回は、その先進的な事例として、香港の小売店、レストラン、ホテル等を対象とした認証制度、「Quality Tourism Services(優良店認定制度)」(以下、QTS)をご紹介したいと思います。

香港の認証制度「QTS」

 香港政府観光局では、観光客に対して高品質の商品やサービスを提供できる一定の基準をクリアした小売店、レストラン、宿泊施設に対して、優良店であることを認定する制度「QTS」を実施しています[1]。認定された店舗では、消費者の目の留まりやすい場所に「優」と書かれたステッカーを掲げているため、香港を訪れた経験がある方であれば、このステッカーに見覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ホテル入口に提示されている「優」マーク(ホテル)

ホテル入口に提示されている「優」マーク(ホテル)

飲食店のレジ脇に提示されている「優」マーク

飲食店のレジ脇に提示されている「優」マーク
※この飲食店では10年以上認定を受けているため、
特別ステッカーも合わせて提示されている。

事業者、業界、観光客にとって有意義な「QTS」

 制度実施の背景には、90年代後半、多くの中国人観光客が高品質な日用品を求め、小売店を訪れるようになったことが影響しています。なかには、正規品でないものを購入してしまう等のトラブルが頻発しており、観光客が増え続ける一方で、良質なサービス提供においては課題が残っていたようです。そこで、香港政府観光局では、事業者に継続的な業務改善を促すため、QTSを導入しました。事業者にとっては、審査をきっかけとして改善点を認識し、事務局のアドバイスを受けながら、改善に向けた取組を実施できるため、高品質なサービス提供を行うための管理ツールとして有意義な制度であるといえます。加えて、認定されれば、その証である「優」ステッカーを掲げ、優良店であることをアピールすることも可能です。そして、認定事業者が増えれば、業界全体のサービスレベル向上にも寄与します。また、サービスを享受する観光客にとっても、価格や正確な商品情報が提示されていれば、最低限のサービスが保証されているという安心感を持って買い物や滞在を楽しむことができます。このようにQTSは事業者、業界、観光客という三者のメリットを生み出している制度と言えるのではないでしょうか。

「QTS」が有意義な制度であるための運用

 では、実際にQTSはどのように運用されているのでしょうか?審査の回数は年2回、一回目は予告ありの審査、二回目は覆面調査を実施しています。評価は「環境」、「プロセス」、「サービス」、「システム」の4つの観点から行われ、バックヤードの管理に関する事項まで審査の対象となっています。審査結果は必ず事業者にレポートにまとめられて報告されます。特に、認定されなかった場合は、改善事項、審査通過のために必要なレベル、現状とのギャップ、審査を通過するためのアドバイス等が事務局から伝えられることになっています。また、万が一、QTS認定を受けた施設で苦情が出た場合には、覆面調査の実施とレポート作成が行われています。運用面からも、QTSが高品質のサービスを継続的に提供するための管理手段としての役割を担っていることが理解できます。また、観光客を対象にしたさまざまな取り組みも行われています。その一例として、春節期には、認定店舗のサービスを体験できるイベント等が開催され、香港の売りである「買い物」を安心して楽しんでもらうためのプロモーションが行われています。

おわりに

 今後、FITの進展や東アジア以外の市場から日本を訪れる外国人が増加すると、日本についての知識が十分でない訪日外国人が増えることも想定されます。そんな時、誰もが安心感を持って日本での滞在を楽しんでもらうためには、分かりやすい情報提供が必要となります。また、訪日外国人を受け入れる施設も増えることが予想されます。訪日外国人を受け入れていくために必要な一定のサービス水準を提示し、そこに到達するための仕組みづくりを行い、個別の事業者ではなく、関係する業界全体で受入体制のレベルを底上げしていくことも必要になるのではないでしょうか。以上のような観点からも、香港の「QTS」の事例は参考になる部分があるのではないかと思います。

[1] 参加事業者数は1300程度、店舗数8000程度の規模で実施(2013年12月現在)

参考

香港政府観光局「QTS優良店認定制度」
http://www.discoverhongkong.com/jp/plan-your-trip/qts-scheme/index.jsp

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