スマホが作り出すマーケティングの潮流 [コラムvol.324]

2016.11.07

観光政策研究部次長 主席研究員 山田雄一

高性能コンピューターとなったスマートフォン

 2016年9月、Apple社からiPhone7が発表された。

 インターネットが民間ベースに普及を始めた頃の最新CPU「Pentium II」に対し、iPhone7が搭載するCPU「A10」は、その300倍以上の処理能力を持つとされる。スマートフォン同士での比較でも、スマートフォンが本格的に普及し始めたiPhone4(2010年発表)のCPU「A4」に対し100倍以上の処理能力を持っている。

 しかも、スマートフォンは、視認性に優れたモニター、高性能なデジタルカメラを凌駕するカメラ機能、加速度や運動方向を把握するモーションセンサー、地球上どこでも高精度で居場所を測位するGPS、IDやSuicaなどの近接通信決済機能、さらには動画のストリーミングすら実現するネット接続機能を有している。

 今日、われわれの手のひらに乗るスマートフォンは、電話機の延長ではなく、紛れもない「高性能コンピューター」である。

行動を記録するスマートフォン

 今日、スマートフォンは、ネットだけでなく、多様な機器と接続し「会話」を始めている。例えば、Apple WatchはiPhoneとの連携を想定した「時計」であるが、iPhoneのリモート操作ができるだけでなく、心拍数の測定が可能であり、新型では、腕の動きから泳ぎ方のレベルを記録するといったことも出来るようになった。この他にも、体重や体脂肪を記録し転送できる体重計、スキー場でコース案内すると共にエア(ジャンプ)や滑走状況を転送できるスキーゴーグル、同様にジョギングを支援するサングラス、スマートフォンによって施錠解錠する玄関鍵、スマートフォンが演算処理を行うことで簡単操作を実現するドローン、スマートフォンからの操作で出力を変更できる乾電池などなど。これはIoT(Internet of Thing/モノのインターネット)の流れに沿ったものであり、今後とも拡がっていくことになるだろう。

 このようにスマートフォンが、多様な機器と「会話」するようになった事で、スマートフォン単体の情報(例:検索データ、カメラ、決済など)だけでなく、多様なデータがスマートフォンに集積するようになっている。これらデータは、個別の状態では単機能しか持たないが、スマートフォンの標準機能であるGPSデータとヒモ付けされる事で、スマートフォンの利用者が、どこで何を、どのように行っているのかということを記録することが「可能」となっている。

秘書化するスマートフォン

 特定の個人を対象とした多様なデータが時系列的にGPSとヒモ付けされて蓄積されることで何が起こるのだろうか。

 現在、注目を集めているのはヘルスケア分野である。日常的に、どういった行動をしている人が、どういった健康状態となっていくのかを解析出来るようになるからだ。((いまいちブレークしていない)Apple Watchが新型でスポーツ系に振ったのもそうした流れを示している。)

 ヘルスケアは運動や食生活と密接な関係があり、さらにはメンタル面もかかわってくる。そのため、ヘルスケアの取り組みは、早晩、余暇活動全般に広がりを見せていくだろう。そして、スマートフォンは、将来的に「秘書」として、ビッグデータを背景に、所有者に対して、どういう行動をしたら良いかという助言をするようになっていくだろう。例えば、家族の週末のスケジュールが空いている場合、天気予報やイベント情報、ネット上の評価、所有者の行動履歴を検索し、お出かけ先を提言するといったようなことだ。

ソーシャル・ストーリー・マーケティングの先へ

 スマートフォンが個々人の「秘書」となっていく時代、観光地はどういったマーケティングを展開していく事が求められるのだろうか。

 いろいろなことが展望されるが、ひとつ言えるのは、マスメディアだけでなくDMOを含むサプライからの情報は、営業時間やアクセスといった情報(機能的価値)しか意味を持たなくなり、体験者の「経験」にもとづいた情緒的価値が、より大きな意味を持つようになるだろうということである。なぜなら、「秘書」が提言の材料に使うのは、ネット上にあふれる体験者の「声」というビッグデータであるからだ。この傾向は、既に生じ始めており、これに対するマーケティング手法として「ソーシャル・マーケティング」「ストーリー・マーケティング」が提唱されている。

 こうした時代を展望し、観光地が行わなければならないのは、IoT時代に観光客が地域で行う「経験」のレベルアップと、その「経験」の拡散方策の検討だろう。観光地の「魅力」を伝えるのは、一時的なプロモーションではなく、観光客の経験の積み重ねであるということを認識していくことが必要だろう。

参考:ソーシャルへシフトするマーケティングの潮流
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