「持続する」ということ [コラムvol.76]

■25周年を迎えた東京ディズニーリゾート

このコラムが掲載されるのは、2009年度であるが、終了した2008年度は、わが国の観光リゾートにおいて、少しばかり特別な年度であった。
それは、1つの時代を作ったリゾート施設が四半世紀、すなわち25周年を迎えた年であったということである。
リゾート施設で、25周年というと、おそらくは真っ先に想起されるのは「東京ディズニーリゾート(以下、TDR)」であろう。TDRは、1983年、すなわち25年前にわが国初の本格的テーマパークとして開業し、バブル期には多くの模倣テーマパークを誕生させつつ、四半世紀を経て現在に至っている。そして、25周年を記念して、ディズニーランドホテルや専用シアター、また、様々な催事を展開したことは多くの人々がご存じであろう。

■トマムも同じく25周年を迎えていた

ただ、25周年を迎えたリゾート施設は、TDRだけではない。実は、北海道占冠村の「アルファリゾートトマム(以下、トマム)」もTDRと同じく、1983年開業なのである。
バブル期に多く開設されたテーマパークのリファレンスとなったTDRと同様に、トマムは、リゾート開発のリファレンスとなった施設である。
具体的には、「高級で都市的な雰囲気の高い空間構成とする」「単体施設ではなく、ホテルとゴルフ場とスキー場をセットで開発する」「ホテルやゴルフ場に会員権販売システムを導入する」といった事が挙げられる。それぞれの要素だけを見れば既に取り組まれている物ではあったが、これらをセットで、かつ、大規模に展開した事は、当時、関係者に大きなインパクトを与えた。
さらに、その開発が行われた場所が、占冠村という人口が2,000人にも満たない地域であったことも、注目度を高めることに繋がった。当時も地方の活性化は大きな注目テーマであり、トマムの地域振興とリゾート開発が直結した事例は、社会的にも大きなインパクトがあったのである。
この他、25周年を迎えたリゾート施設には、例えば、宮古島の東急ホテルがある。沖縄の先島諸島は、近年、冬期を含め観光客が増大しているが、宮古島において現在もなお核となる宿泊施設となっているこのリゾートホテルも1983年開業である。ちなみに、お隣の石垣島の全日空ホテルは1980年、ホテル日航は1984年開業であり、これらも概ね開業から「四半世紀」を迎えている。

■25周年を迎えることの出来なかった施設群

一方、25周年を迎えることが出来なかった施設もある。好例は「長崎オランダ村」である。TDRと同じ1983年に開業した長崎オランダ村は、「外国村」というTDRとは異なるコンセプトを持ち、バブル期のリゾート開発に大きな影響を与えた。また、オランダ村自身も、1992年には新規増設の形で「ハウステンボス」を開業させている。しかしながら、そのハウステンボスの経営不振もあり、同村は2001年、開業から18年で閉園となった。この他、多くのテーマパークが「25年」を持たず閉園に至っている。
実際、前述したトマムも、経営自体は続けているものの、その経営者は現在までに2転し、現在では開業当初とは全く異なるコンセプトにて運営されているし、宮古島東急ホテルも、東急グループ内でのホテル事業を再編している。この他、石垣島全日空ホテルも、インターコンチネンタルホテルズグループへ、ホテル日航も投資ファンドに売却を行っている。
このように、25年間、経営を持続させていくというのは、リゾート施設にとって、とても大きな課題なのである。

■この四半世紀はどういう時代であったのか

それは、この25年間に、非常に大きな社会経済環境の変化が生じている事でも指摘できる。
1983年という年を振り返ると、70年代のオイルショックの混乱が収まり、円高不況などを背景に「内需」への関心が高まりつつあった時代である。その後、1987年頃からはバブル景気に突入するなど、開業から10年間は、順風満帆といってよい状態であったろう。しかしながら、その後、景気は低迷し、「失われた10年」へ突入していくのである。すなわち、この25年間には、順風満帆な10年間、失われた10年、そして、新しいパラダイムに突入したその後の5年という全く異なる3つの社会経済環境が詰め込まれているのである。
この25年を生き抜くことが、いかに大変で、困難であったのかを示す、証左といえよう

■持続性の観点からTDRの成功から学べること

そうした中、圧倒的な強さを見せつけてきたのが、TDRである。
では、なぜ、TDRは、社会経済環境が激変する中でも、持続的に経営を拡大してくることが出来たのであろうか。TDRの成功要因は、様々な場所で様々に語られているが、ここでは3点ほどあげておこう。

  • マス・ツーリズムは必ずしも否定される物ではないこと
  • 本質的な「魅力」は変わらないこと
  • サービスプロフィットチェーンは実現できること

まず、TDRは、現在、年間2,500万人の集客を実現している。個々人レベルにおいてその楽しみ方はそれぞれではあるが、全体としてみればアトラクションに行き、ショーを見て、食事や買い物を楽しんでいるという行動には大きな違いは無い。これは、すなわち大衆が同様の観光行動を行うという「マス・ツーリズム」そのものである。現在、観光の世界では、マス・ツーリズムへの対義的な概念を持つオルタナティブ・ツーリズムへの注目が高いが、TDRの成功は、マス=時代遅れではない事を示している。

次に、注目されるのは、TDRでの滞在スタイルは、開業以来、その基本形は変わっていないということである。確かにアトラクションやホテルは、この25年の中で整備されてきた物も多く、2001年にはディズニーシーを開設させるなど、規模的な拡大は著しい。しかしながら、それらがTDRの本質的な魅力に取って代わっているか?といえば、答えはNoであろう。新しいアトラクションやホテルなどは、TDRの魅力の「厚み」を増やしているに過ぎない。すなわち、本質的な魅力は変えなくても、集客力は維持しうるのである。

さらに、年間2,500万人という規模は、リピーターによって始めて実現できる規模である。リピーターの確保には満足度の高さが重要であることが指摘できるが、TDRの場合はそれだけではない。従業員の満足度の高さも同時に実現しているのである。例えば、現在、TDRには1.5万人あまりの準社員(いわゆるアルバイト)が存在する。仮に年間の離職率が20%とすれば、年間3,000人、25年間のトータルでは、軽く数万人の規模となろう。しかしながら、こうした数万人の退職者からネガティブな情報発信は皆無と言って良い。現在のようなネット社会において、情報の完全統制は困難であることを考えれば、こうした従業員ロイヤリティの高さは驚異的と言って良いだろう。サービスプロフィットチェーンとは、顧客満足度と従業員満足度の双方を高めることで収益力の高い経営を実現させていくモデルであるが、TDRは、まさしくそれを具現化していると言えよう。

以上を考えると、持続的な経営を実現するには、以下の3点が重要なのではないだろうか。

1. 表面的な流行ではなく、顧客が「面白い」「楽しい」と感じるような、本質的な魅力をしっかりと見つけ出し、強く意識すること
2. その本質的な魅力を補完したり、相乗効果をあげたりするような周辺の取り組みを持続的に行い、魅力に「厚み」を持たせていくこと
3. これらの取り組みを通じ、顧客満足度と従業員満足度の両立と、収益強化を実現していけるような強力な経営力を有すること