全体は部分の総和に勝る(by アリストテレス) [コラムvol.144]

突然ですが、質問です。
東京ディズニーリゾートの魅力は何でしょう?

シンボリックなシンデレラ城? いやぁ、あんなパースを効かせただけの張りぼて。実物の城郭には敵いませんね。
刺激的なアトラクション? いやぁ、もっとスリルのあるローラーコースターは他の施設にも多々ありますねぇ。
魅力的なショーイベント? いやぁ、花火はしょぼいし、もっとレベルの高いショーは他の施設にも多々ありますねぇ。

あれ? 東京ディズニーリゾート、何が凄いの?

別に、一流の施設やアトラクション、ショーイベントを集めている訳ではないのです。部分に注目すれば、もっと「上」の物をもっている施設は少なくありません。
それでも、開業30年近くなりながら、年間2,500万人以上という膨大な集客を実現しているのが、東京ディズニーリゾートなのです。

部分、部分に分割して、分析すれば、必ずしも高い競争力を持っているわけではない。
しかしながら、それが集まると、ある種の魔法がかかったかのように、非常に高い魅力を発揮する。

その好例が、この東京ディズニーリゾートだと言えるでしょう。

ちなみに、「これ以上分解すると、違う性質の物になってしまう」状態を、ゲシュタルトと呼びます。
TDLは、それ自体の単位でゲシュタルトな状態にあり、部分と全体では、異なる存在であるという事も出来るでしょう。

さらに、この「魔法」の原材料には、実は、お客さん側の意識も含まれています。

例えば、ただのファミレスでも、恋人と語らい合う場であれば、そのファミレスへの好意的な思いは高まりますし、逆に、高級レストランであっても、そこで恋人に振られたら、名前を聞くだけで嫌な所になってしまうでしょう。
同行者とのやりとりがその店舗のサービス内容を無意味な物としてしまうのです。

一例を「定量的」に示して見ましょう。
当財団が主催する「観光地マネジメント研究会」が実施した、CSロイヤリティ調査(全国52地域対象)に寄れば、満足度(CS)やロイヤリティ(紹介意向、再来訪意向)は、「誰と来たのか」で有意(1%水準)に別れます。
同じように観光地を訪れ、同じようなサービスを享受しているのに「誰と来たのか」だけで、満足度やロイヤリティは変わるのです。
(夫婦旅行が低位なのに、カップル旅行が最上位に来るのは、なかなかに象徴的です。)

同行者 CS 紹介意向 再来訪意向
カップル旅行 5.90 5.90 5.34
子供連れ家族(小学生) 5.88 5.80 5.37
大人の家族旅行 5.83 5.85 5.32
子供連れ家族(未就学児) 5.82 5.88 5.52
友人との旅行 5.80 5.86 5.29
子供連れ家族(中高生) 5.77 5.61 5.08
夫婦旅行 5.77 5.79 5.26
職場や団体などの旅行 5.70 5.76 5.02
一人旅 5.67 5.77 5.46
その他 5.60 5.71 5.37

私は、数年にわたって、観光地における満足度やロイヤリティについて研究を重ねてきました。
こうした研究の中で明らかになって来たのは、その施設や地域の様々な要素、商品サービスの水準などを集めても、満足度やロイヤリティは半分以下しか説明できないと言うことです。どんなサービスを受けたのか、それをどう感じたのかという事をどんなに積み重ねても、それは満足度やロイヤリティの一部にしかなりません。全体は、部分の総和以上なのです。

TDLが、TDLであるのは、TDLが強いテーマの元に、いろいろな要素を組み合わせ特別な魅力を創造していることに加え、来訪客が「TDLは特別な場所・活動である」と思う「心」があるためです。
提供サービスと、顧客の「心」が符合することで、単純積み上げの何倍にもなるような集客力が生まれているのです。

観光地の魅力とは、観光地と観光客が織りなす交響曲なのだと言う事を、我々は深く理解すべきではないでしょうか。
個々の奏者の出来不出来ではなく、観光客をも巻き込んだ全体としての調和、ハーモニーが重要だと言うことです。

ハーモニーを形成するテーマ、ストーリーの設定。そして、調和へと誘導する指揮者の存在がとても重要なのだと思います。