変わらない地域の魅力、変わるその光の当て方 [コラムvol.221]

2014.08.29

観光文化研究部  柿島あかね
研究員コラム

◆はじめに

 8月が終わろうとしている今、夏の旅行に出かけられた方も多いのではないでしょうか。なかには、以前訪れた土地を何年かぶりに訪れ、「前に来た時とはずいぶん雰囲気が変わったな」と感想を持たれた方も多いのではないかと思います。
 かくいう私も幼い頃から夏休みに頻繁に訪れている観光地があり、最近その観光地のことをふと思い出しました。幼い頃の印象は、土産物店や飲食店、当時流行していたタレントショップ、歴史を感じさせる建物等、さまざまな魅力が混在しており、その中を多くの観光客が散策し、活気にあふれたものでした。ひさびさにその観光地を訪れた際、以前より圧倒的に店舗数も観光客数も減り、散策しやすくなったものの、得も言われぬ「さみしさ」を感じてしまいました。しかし、この観光地の別のエリアは商業施設や観光施設が誕生し、これらを核として今まで観光客が訪れなかったエリアにも観光客が訪れるようになり、新たなにぎわいが生まれていました。こうした経験から、同じ観光地であっても時代の流れとともに、観光客に魅力的に映る観光資源は移りゆく可能性があるのではないかと思うようになりました。

◆観光地ライフサイクル(Tourism Area Life Cycle)という考え方

 そんな思いを抱いている際、カナダの地理学者R.W.Butler(1980)が提唱する「観光地ライフサイクル論」*1(Tourism Area Life Cycle、以下「TALC」)を知る機会がありました。TALCとは観光地の成長を「開拓期」「登場期」「成長期」「確立期」「停滞期」に分け、その後「維持」、「減退」、「回生」を経ていくというものです(図1)。1980年代から現在までカナダ、イギリス、オセアニアの研究者を中心に研究が進められています。その流れの中で一つの観光地において複数のライフサイクルが存在するという見解が主流となってきました。複数ライフサイクルに関する研究は多数存在しますが*2、今回はLundgren*3が行った研究を紹介したいと思います。
 Lundgrenはカナダのイースタンタウンシップ地域を対象とした実証研究の結果から、主要な観光商品が時代とともにスムーズに入れ替わっていることが中長期的な観光地の成長につながっていると主張しています(図2)。イースタンタウンシップでは観光商品として最初に河川アクティビティが登場します。登場した当初はこのような遊びに詳しいごく一部の人が楽しむ程度(開拓期)ですが、次第に一般的な観光客や団体客も訪れ、全体的な観光客数も増えます。しかし、次第にそのテンポが落ち(成長期・確立期)、観光客数が減少し(停滞期)さらにその動きが加速します(衰退期)。すると、新たな湖岸アクティビティが登場し、河川アクティビティとほぼ同じ経路をたどり、最終的に減退傾向が強まると、新たな観光商品である山岳(スキー)が登場する…というものです。

図1:観光地ライフサイクル
図1:観光地ライフサイクル

資料:THE TOURISM AREA LIFE CYCLE VOL.1 Applications and Modifications The Concept of a Tourist Area Cycle of Evolution: Implications for Management of Resourcesより日本語訳を筆者加筆

食堂
図2:イースタンタウンシップ地域の観光地ライフサイクル

資料:THE TOURISM AREA LIFE CYCLE VOL.1 Applications and Modifications An Empirical Interpretation of the TALC: Tourist Product Life Cycles in the Eastern Townships of Quebecより一部編集して筆者作成

◆地域の魅力を効果的に理解してもらうために

 TALCは製品ライフサイクルを援用したモデルとされています。製品ライフサイクルの場合は新製品を市場に投入し、従前の商品を陳腐化させ、継続的に商品別のライフサイクルを生み出せるのに対し、観光地の場合は立地的な制約があり、地域資源も基本的には変わらない点が製品とは大きく異なる点です。
 これを踏まえると、Lundgrenの主張は「短いスパンで観光商品を交替させよ」という趣旨ではなく、観光地が持つ本質的な魅力は変化させず、時代とともに、それを観光客に分かりやすく理解してもらうための「手段」を変えていく必要があると解釈できるのではないかと思います。例えば、先ほど紹介したイースタンタウンシップの例のように、その地域の本質的な魅力が仮に「自然」だとすれば、これを理解してもらうための手段(河川でのアクティビティ、湖岸でのアクティビティ、山岳・スキー)はある程度観光客の指向性等も踏まえた上でスムーズに移行していくことが効果的だと考えられます。もしかすると、冒頭で紹介した観光地の場合も、地域の本質的な魅力は変化していないものの、それを理解してもらうための手段が変化しただけなのかもしれません。

◆おわりに

 観光地が中長期的によい状態を維持するために、まずは地域の魅力を地域内で議論・共有し、地域外に発信していくことが重要です。この魅力とは、地域住民、観光客がある程度共通で想起でき、時代が変化しても「ブレない」ものであることが期待されます。次に、今来ている観光客、これから来てほしい観光客の動向を調査等で把握し、これらの人々に地域の魅力を理解してもらうための「手段」として適した体験プログラムやアクティビティ等を定期的に検討することが重要ではないでしょうか。そしてそのタイミングも重要です。ある「手段」は未来永劫、集客できるわけではなく、そこにはライフサイクル(栄枯盛衰)が存在することを意識して、ある主要な体験プログラムやアクティビティがピークを迎えた頃には、次の一手を考え始めるくらいの準備が必要なのかもしれません。

*1: Butler, Richard W. 1980. “The Concept of Tourist Area Cycle of Evolution: Implications for Management of Resources.” The Canadian Geographer 24(1): 5–12.

*2:複数ライフサイクルについては、大橋昭一(2010):観光の理論と思想、文眞堂、pp.187-199に詳しい

*3: Lundgren, Jan O. 2006. “An Empirical Interpretation of the TALC: Tourist Product Life Cycles in the Eastern Townships of Quebec.” In The Tourism Area Life Cycle, Volume 1, edited by Richard Butler, 91–106. Clevedon: Channel View Publications.

 

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