観光分野における我が国の国際貢献(その2) [コラムvol.313]
表1 APTA2016年年次大会における国・地域別発表本数

 さる6月1日から4日にかけて中国・北京で開催されたAsia Pacific Tourism Association(APTA)の第22回年次大会に参加し、研究活動を通して得られた知見を発表してきました。

 (APTAの概要については「観光文化228号:アジアの観光研究の潮流」をご覧ください。また発表の様子はフォトレポートでもご覧になれます)

 大会事務局の発表によると、今回は24の国や地域から計227名の参加があったとのことで、アジア太平洋地域における観光研究分野での人材の多様さと、その活況を肌で感じることができました。

 前回の研究員コラムでは、観光分野における我が国の国際的な貢献やプレゼンスの向上の可能性に関して述べましたが、今回もアジアにおける観光研究の分野で、我が国がどのように貢献し、存在感を高め得るかという点に主眼を置き、若干の所感を述べてみたいと思います。

「量」と「質」の向上

 今回の大会では口頭発表とポスターセッションを併せて136本の研究発表が行われました。

 発表者の国・地域別の内訳を見てみると、台湾が24本、アメリカが22本、中国とフィリピンが15本と続いており、日本はそれに次ぐ14本(全体に占める割合10.3%)となっています。また口頭発表に限ってみると、93本のうちアメリカが15本、台湾が14本となっており、日本はそれに次ぐ13本(同14.0%)となっています。

※配布された大会プログラムのリーフレットに記載された研究発表の数。複数名による発表の場合には筆頭者の国・地域で集計。発表者の欠席等により実際には当日に発表が行われなかったものも含む。なお、ウェブサイト上の事務局による発表と若干数が異なるが要因は不明。

※ここで示した「発表者の国・地域」はあくまで発表時点における所属先を示したもの。中国や韓国などアジアの研究者は、母国以外で職に就く場合が多いことから、この比率がそのまま発表者の出身国・地域の比率とならないことには注意が必要。

 昨年クアラルンプールで開催された第21回大会では研究発表104本のうち、日本からの発表が9本(全体に占める割合8.7%)であったとのことですので、今回その比率は若干向上する結果となりました。

 当財団ではアジアの観光研究の現状をウォッチしてきていますが、その取組を通じて国際的な観光研究の分野における日本の存在感を、より一層発揮する必要性を認識してきたところです。

 その点、前回および今回のAPTA大会では、「量」の面では日本の存在感は一定程度示せているのではないかと感じました。

 その上で、今後は研究発表の「質」の面でも、より一層のプレゼンス向上に貢献していけるとよいのではと感じます。具体的には、APTAの大会で毎回優れた論文発表に対して授与されるBest Paper Awardに日本の研究者が毎年のように名を連ねるようになると、アジアにおける日本の存在感は大きく高まるのではないかと思います。

実践と理論の融合

 「観光文化228号:アジアの観光研究の潮流」でも指摘があったように、APTAにおいて発表される研究は、旅行者や従業員の行動や意識について仮説に基づいたモデルを構築し、データを元に検証していくといった定量的なアプローチによるものが多くなっています。

 これは国際的な研究の作法・トレンドに沿ったものですが、私が参加したあるセッションでは興味深い議論が行われていました。

 そのセッションでは、たまたま登壇する予定だった発表者が急に欠席となり、余った時間を自由討論に充てるという主旨だったのですが、議論の内容が「特に若手の研究者が現場を知らないがそれで良いのか」という点に向かっていました。

 最近ではパソコンの上で直感的な操作を行うだけで本格的な統計分析が可能なソフトウェアが普及しており、比較的容易にアウトプットが得られるようになっています。そのおかげで、逆に現場の状況を踏まえないまま、単に数値の操作だけに終始した研究が多いのではないか、という問題提起がなされていたのです。

 アジアの観光研究者の間で、この様な「理論だけでなく実践も必要」といった課題認識がある中においては、我が国で蓄積されている観光地域づくりの知見や経験を元に、観光研究分野の発展に貢献できる部分も大きいのではないかと感じた次第です。

年次大会の誘致

 APTAの大会は今回を含めて22回開催されていますが、開催国としては韓国が最も多く、これまでに5回開催されています(ちなみに、来年2017年は韓国・釜山で開催されることが決定済み)。次いで中国、台湾、タイがそれぞれ3回、オーストラリアが2回と続いており、日本での開催は2004年の第10回大会が長崎を会場として行われた1回のみとなっています。

 こういった国際会議・国際学会の開催地の決定には様々な要因が影響するため、簡単ではないと思いますが、近い将来に年次大会を再度日本に誘致できると、日本の存在感の向上にも一層寄与するのではないかと感じました。

表2 APTAのこれまでの年次大会の開催国および開催都市

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最後に

 当財団でも、「実践的な学術研究機関」を目標として掲げ、受託調査や自主事業など、日々現場に即して行う実践活動を通じて得られた知見を、学術研究として理論化し、それをさらに実践の面で応用する、という取組を行っています。

 私個人としても、今回のような国際的な発表の機会を捉え、今後も積極的に研究成果を発信していくことにより、観光研究の分野における我が国の国際的な貢献やプレゼンスの向上に寄与していければと考えているところです。