旅行に行きたくなるビジュアルとは[コラムvol.265]

2015.08.24

観光文化研究部 研究員 柿島あかね

きれいな景色を見ると旅行に出かけたくなる!

 夏休みに日常から離れ、旅行に出かけてリフレッシュされた方も多いのではないかと思います。「旅行に行きたい!」と思う瞬間は人や状況によってもさまざまですが、映像や写真を見て「こんなところに行ってみたい!」と思うことは結構多いのではないでしょうか。その例として、最近書店では世界や日本各地の「絶景」を紹介する本を見かける機会が多くなりました。私が購入した本で紹介されていたのはアマルフィ(イタリア)、シャフシャウエン(モロッコ)、ミコノス島(ギリシャ)などなど…。こうした本は一度読んで終わりではなく、何度も読みたく(見たく)なるため、たまにパラパラとめくっては「サントリーニ島のレストランで眼下に広がるこの景色を前にシーフードを食べたいな」などと、自分がその場所にいることを想像し、まだ見ぬ地への思いをはせています。私のこうした体験は、あるビジュアルをきっかけとして旅行意欲が喚起されていると言えるのではないでしょうか。観光地の立場に立って言い換えると、ビジュアルの提示の仕方が旅行者の旅行意欲喚起に大きく影響するとも言えるかもしれません。具体的には、観光地のポスター、本、テレビ等を見て、「ここに行けばこんな体験ができるんだ!」「ここに行けばこんな時間を過ごせるんだ!」と現地での体験を想起してもらうことが重要になるのではないでしょうか。

どんなビジュアルが「旅行に行きたい!」と思わせるのか…

 では一体、どんなビジュアルを使えば、旅行者の旅行意欲を喚起できるのでしょうか。例えば、ある海浜リゾートの場合、ビーチ景観のみのビジュアルを用いて、それを見た観光客一人一人にその場での過ごし方を想起してもらうことが効果的なのでしょうか?(図1-①)、または、ビーチを背景に何らかの具体的な活動(海水浴、シーカヤック、シュノーケリング等)を加え、より具体的なビジュアルを用いてその場での過ごし方を想起してもらう方が効果的なのでしょうか?(図1-②)

 このような疑問を持ったため、各国の政府観光局等のサイトで用いられている写真を見比べてみたところ、日本を含めた東アジアでは①のタイプをプロモーションに用いることが多いのに対し、海外、特に欧米では②のタイプをプロモーションに用いることが多いことがわかりました。(図2)

図1:ビーチを例にしたプロモーションイメージ
①                      ②

 この結果から、国や文化によって効果的なビジュアルの活用方法は異なるのではないかと考え、日本、韓国、台湾、タイ、香港のアジアの5カ国、オーストラリア、ニュージーランドのオセアニア2カ国、アメリカ(ハワイ、グアム、サイパン)の計8カ国の政府観光局のウェブサイトに掲載されている観光プロモーション用のビジュアルを対象に、人物の描写に着目した分析を実施しました 。その結果、人物描写の割合が低い国は日本、台湾、香港、高い国はオーストラリア、ニュージーランド、アメリカという結果になりました。

 さらに、人物描写の割合が低い国では都市とともに、人物描写の割合が高い国では自然とともに人物が描写されていることが分かりました。また都市や自然の描かれ方にも特徴がありました。人物描写の割合が低い国の都市の写真に注目すると、人物描写が街を表現する一つの構成要素となっている(図3)のに対し、人物描写の割合が高い国の自然の写真の場合は、描写されている人物が2~3人程度と少なく、何らかの活動をしているものが多いことから(図4)見る人に活動を想起させるものが多いことが分かりました。

図2:ビーチを例にした各国の観光地プロモーション画像
2korea

韓国
(ウルワンニ海水浴場)

3japan

日本
(与那覇・前浜ビーチ)

4taiwan

台湾
(新金山海水浴場)

5nz

ニュージーランド
(マラハウ)

6aus

オーストラリア
(ゴールドコースト)

7us

アメリカ
(バックロービーチ)

出典:*各政府観光局のHP

文化圏によっても効果的なビジュアル活用方法は異なる!?

 こうした背景には、人物描写の割合が低い国(日本、台湾、香港等)では、抽象的で曖昧な表現によって意思疎通が可能なコミュニケーションスタイルであるのに対し、人物描写の割合が高い国(アメリカ、オセアニア等)では、具体的な表現を用いることによって受け手が送り手の意図を理解しやすいコミュニケーションスタイルであること が影響しているのかもしれません。これを踏まえると、同じビーチリゾートのビジュアルでも、日本人は景色だけで滞在イメージを抱くことができるのに対し、アメリカやオセアニアではビーチでどんな体験ができるのか?何を体験できるのか?をより具体的に表現する必要があるのかもしれません。と、いうことを踏まえると、なんとなく、日本でいわゆる「絶景」系の本がよく売れるのもなんとなく理解できる気がする今日この頃です。

図3:人物描写の少ない国の「都市」における人物描写*(分析対象画像)
8korea-city

韓国

9taiwan-city

台湾

10hongkong-city

香港

図4:人物描写の多い国の「自然」における人物描写*(分析対象画像)
11thai-nature

タイ

12hawaii-nature

ハワイ

13guam-nature

グアム

出典:*各政府観光局のHP

  • *1 研究の詳細については「観光文化」223号参照
    https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2014/10/bunka223_P43-47.pdf

  • *2 アメリカの文化人類学者Hallは、文化的な慣習や価値観があらかじめ共有されており、「行間を読む」ことができる高文脈文化(High Context Culture) (今回の分析対象国では日本、韓国、台湾、香港、タイ、ハワイ)と、文化的な慣習や価値観が共有されておらず、コミュニケーションにおいて言語化が重要となる低文脈文化(Low Context Culture) (今回の分析対象国ではオーストラリア、ニュージーランド、サイパン、グアム)が存在するとした。

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