真摯な観光地域づくりによるブランディングへ [コラムvol.461]

振り回された2021年

ローラーコースターのような1年だった。2021年について、多くの観光関係者が持った感想なのではないだろうか。

2022年が観光にとって、どういう年となるかを見通すことは難しい。

コロナ禍について言えば、我々はmRNAという強力なワクチンを手に入れており、また、ウィルスへの対処方法も整ってきたことを考えれば、COVID-19を抑え込み、共存していくことになっていくだろう。

問題は、そうやってCOVID-19を抑え込んだ後に、どういう観光活動を展開していくのかということである。

サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムへの注目

ポストコロナの観光では、サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムが重要になると各所で指摘されている。これは、今回のコロナ禍によって、観光、旅客の地域を超えた移動が与える地域へのポジティブ/ネガティブなインパクトが再認識されたことに加え、コロナ禍以前からゼロ・カーボン、SDGsといった動きが出ていたことや、一部地域で生じていたオーバー・ツーリズム問題などが重なったことが背景にあるだろう。

訪問目的となるような観光魅力が、地域が長年かけて形成してきた自然や文化資源、コミュニティによって形成されている以上、観光客や観光事業者が一方的に、それらを消耗させたり既存したり、コミュニティと衝突することは避けるべきであることに異論は無いだろう。

VICE(ビジター、インダストリー、コミュニティ、エンバイロメント&カルチャー)の調和は、観光地マネジメントの主題だが、国際旅行市場の伸長によって、価値観や習慣、宗教が異なる人々が交流するようになっており、地域と観光客の衝突も起きやすくなっている。このことも、サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムへの関心を高めることに繋がっているだろう。

○○ツーリズムは、多く提唱されているが、それらの○○ツーリズムとサスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムでは大きく異なる点がある。それは、○○ツーリズムは「○○」の部分が、観光魅力を表現するものであるのに対し、サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムは、VICEモデルを実現するための手段であるということだ。つまり、サスティナブルとかレスポンシブルというのは、地域側にとって重要な概念であるが、観光客にとっての価値を示すものではない。そのため、「サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムに取り組みます」と言っても、それだけで、観光客が来るわけではない。観光客の誘客には、別途、魅力創造が必要となる。すなわち、サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムは、既に観光地として認識されており、一定の観光客が訪れている地域が「次のステージ」に進むために取り組むものとなる。

観光地マーケティングの限界

ここで問題となるのは、サスティナブル/レスポンシブル・ツーリズムへの取り組みには、追加的な費用がかかるということである。例えば、ノーカーボンの取り組みは、脱プラやEVシフトなど、多くの投資やシステムづくりが必要となる。観光客が、これらの取り組みを「顧客も金銭負担すべきもの」と考えなければ、価格に転嫁することはできず、地域側が負担することになる。

そのため、地域としては「取り組みを評価してくれる顧客」が訪れてくれることが望ましい。この考え方は、レスポンシブル・ツーリズムに繋がるものであるが、自地域に魅力を感じてくれていて、かつ、地域の持続性にも関心が高いという顧客に特化しようとすれば、対象市場を狭めてしまうことになる。

これは、セグメンテーション/ターゲッティング/ポジショニングを基軸としたマーケティングの限界を示している。

これに対するには、誘客手法をマーケティングから、ブランディングに切り替える必要がある。持続性への関心が高い顧客を選定しアプローチしていくのではなく、持続性確保に取り組んでいる姿勢を示し「ブランド」化することで、それに惹かれる顧客が自身の意思で集まってくるようにするということである。

ポスト・コロナに求められる戦略の立て直し

ブランド形成には、しっかりとしたコンセプトにもとづいた観光地域づくりに、相応の時間取り組んでいくことが必要となる。

すなわち、観光地域づくりに真摯に取り組むということが、今後のサステナビリティを高めていくことに繋がっていくと考えられる。

ポスト・コロナにおいては、これまでの発想を一度、棚卸しし、何のために、何を目指して観光振興に取り組むのかについて検討し、体制を再構築していくことを期待したい。