はじめに
旅の楽しみのひとつは、お土産を探すことではないでしょうか。家族、会社の同僚、友達、そして自分自身のために、これこそは!という逸品を探し求める時間は、この上なく楽しいひと時です。
今回のコラムでは、最近の私自身の旅を振り返りながら、魅力的なお土産とは何かについて考えてみます。
兵庫県・丹波篠山
兵庫県の西部に位置する丹波篠山市の立杭(たちくい)地区は、日本六古窯のひとつ丹波焼(立杭焼)の生産地です。南北約4kmある丹波焼の郷には40を超える窯元が点在し、それぞれ個性的な焼きものを生み出しています。
約1年前、出張で丹波篠山を訪れた際に宿泊した一棟貸切の宿には、個性豊かな丹波焼の食器類が備え付けられていました。その翌日にランチを食べたイタリアンレストランでも、丹波焼の器が使われていました。ぽってりとした有機的なフォルムからは、大量生産品にはない手仕事のあたたかさが伝わり、食卓にもあたたかな表情を与えていました。以前はお土産にお菓子を選ぶことが多かったのですが、この丹波篠山での経験をきっかけに器のおもしろさに目覚め、最近は自分自身へのお土産として器を手に取ることが増えました。
丹波焼の郷のちょうど中間あたりには、全ての窯元の焼きものを一か所に集めて展示販売する施設があります。地元タクシーの運転手さんの話では、まずそこに立ち寄って自分好みの焼きものに目星をつけてから、実際に窯元を訪れるのがおすすめとのこと。たくさんの窯元の、たくさんの種類の中から絞り込むのも一苦労。さらに、同じ商品でも1点1点表情が異なるので、その中から自分に一番しっくりくるものを選び出すのにも一苦労。結局1時間以上かかって、白いしのぎのマグカップを購入しました。購入してから1年以上経ちますが、日々のコーヒータイムに欠かせない存在となっています。
長野県・松本
長野県のほぼ中央に位置する松本市は、松本藩の城下町として栄えた古いまちです。城下町時代から和家具の生産が盛んだった松本ですが、戦争により生産は休止状態に。そこへ柳宗悦らにより提唱された民藝運動の影響を受け、松本民芸家具と呼ばれる家具作りが盛んになったそうです。現在の松本はクラフトのまちとしても知られ、焼きもの、木工製品、紙モノなど、様々なクラフト作家の店が点在しています。
松本を訪れたのは2023年9月初旬のこと。この時は紫檀(ローズウッド)製のスプーンを購入しました。店内には木のスプーンだけで何種類もあるなか、手に持った時に妙にしっくりくる1本に出会いました。値段をみるとなんと5,000円!一度頭を冷やそうとお店を出て他にも数件巡りましたが、やっぱり何とも言えずしっくりくる感じが忘れられません。清水の舞台から飛び降りるつもりで購入した思い出の一品です。
沖縄県・那覇
つい最近は、沖縄県・那覇市でやちむん(注:「やちむん」とは沖縄の言葉で焼きもののこと)のお皿を購入しました。国際通りから商店街を抜けて少し歩いたところある壺屋やちむん通りには、個性豊かな陶芸工房や直売店、ギャラリーが軒を連ねています。最近では、ずっしりと力強さを感じさせる伝統的なものから、爽やかで軽やかなもの、ポップなもの、鮮やかな色合いのものまで、商品のバリエーションも格段に増えたように感じます。
ここでは少し冒険して、沖縄らしい紫色の個性的な器を購入しました。色あいのインパクトが大きいので、何を盛り付けても美味しく見えそうと思ったことが購入の決め手です。こちらは、使い始める時期を見計らっているところです。
おわりに
大学3年生の時に受けた博物館資料論の授業では、「博物館や美術館のミュージアムショップは展示室の延長。優れたミュージアムグッズとは、所蔵資料の価値を伝える教育的効果の高いものである」と教わりました。これを旅に置き換えれば、「お土産は旅行の延長。優れたお土産とは、その土地の個性を効果的に伝えるものである」となるでしょう。
出張先や旅行先では、時に、包装紙を差し替えただけで中身は他の地域でも売られているものと同じお菓子、民芸品調でありながら「海外製」の表記が刻まれたもの等、残念に思うお土産を目にすることもあります。
地域に根付き、地域に育まれた商品の販売は、単に消費単価をあげるだけでなく、地域内の経済循環向上につながります。なにより、旅人が日常生活に戻った後も、日々の暮らしにそっと寄り添いうるおいを与えながら、地域の魅力や品格を伝え続けることができます。まさに、お土産は旅行の延長なのです。