「成功施設」では地域を救えない [コラムvol.170]

旭山動物園と言えば、近年の閉塞感のある観光業界において、大きなヒットを飛ばした施設として有名ですが、その旭山動物園は、昨年度、入場者数が16%減となり、200万人割れとなりました。


図1

旭山動物園は、1997年度に30万人、1999年度に42万人。これが、2006年度には300万人越えという、他に類を見ないペースで、その入園者数を増大させました。その結果、各所で注目され、全国の動物園が、旭山動物園の行動展示を真似た取組を行うほどでした。
いわゆる「成功事例」と言ってよい施設であると思います。
しかしながら、3年ほどでピークアウトし、その後、減少傾向。とうとう2011年度には、200万人を切るところまで落ちてきました。
旭山動物園の推移は、「ブーム」は、3年程度しか持たないという事を示していると言えます。

もう一つ、注目すべき事項があります。
旭山動物園が、客数を急増させている時、同時期の北海道において良く聞かれたのは「旭山動物園は注目されても、うちの客は、一向に増えない。むしろ、向こうに吸い上げられている」というコメントでした。実際、ある温泉旅館では、旅行会社が一泊二日の行程で「函館夜景と旭山動物園」という商品を作り、疲れ切った客が弾丸のように過ぎ去っていった(その旅館へのチェックインは23時を回り、朝は6時前にチェックアウト)そうです。
とはいえ、こうした意識には、ある種のやっかいもあったかもしれません。ほとんど無名だった旭山動物園が全国区となり、7年で、250万人も入園者数を純増させたという事を考えると、「そうは言っても、250万人も増えたのだから、少なくても周辺には波及効果はあったのではないか?」と考えたくなるところです。

そこで、以下のデータを使って、旭山動物園と周辺地域の観光客数推移に相関があるか検証を行ってみました。
・旭山動物園と、北海道、旭川市、富良野市、上川町、占冠村の観光客数データ
・期間は1997年度から2009年度までの13年間
・ただし、旭山動物園は実数。地域は延べ数(人地点)

結果は…。

図2


旭山動物園と旭川市の相関のみ正の関係(これは、データの性格上、当然)で、その他は、いずれも負の関係でした。
それも、北海道は-0.585、富良野市は-0.551、上川町-0.760、占冠村-0.681とかなり高い(ほぼ直線的)相関です。
統計的な有意性で見ても、富良野市だけ有意水準5.1%と5%を越えていますが、その他は1%水準です。

つまり、旭山動物園が、その入園者数を増大させた間、周辺地域は、逆に観光客数(人地点)を減じていたわけです。
意地悪い言い方をすれば、本来、他の施設や景勝地などに振り分けられるハズだった需要を、旭山動物園は吸い上げることで「成功施設」となったとも言えるでしょう。

このことは、旭山動物園のようにイノベーションを起こした施設であっても、市場規模を拡大させる効果は乏しいことを示しています。
つまり、旭山動物園クラスのインパクトをもってしても、市場規模は有限(縮小傾向)であり、その中で、どこかが増大すれば、他は減少するというゼロサム状態は打破できないわけです。

また、一つの人気施設が出来ても「そこに来た人が回遊してくれる」という効果は乏しいということも示しています。
近くに「大観光地」があると、その客を自地域に呼び込もうという取組が行われがちですが、旭山動物園と周辺地域の関係を見れば、それはとても難しい。交通網の発達によって、都市部に人員や資金が移動してしまった「ストロー効果」と同様に、むしろ、安易に連携を強めれば、吸い上げられてしまう危険性すらあります。

こうした「事実」をふまえると、結局の所、「自分の地域は、自分たちで盛り上げる」しか無いのではないかと思います。
そして、そこには観光地マーケティングの考え方が重要であると思っています。