TOKYO FUNECTION -コロナ禍の水辺で [コラムvol.442]
コロナ対応で屋根を外した屋形船
ー舟運事業者も頑張っています!ー

 東京で今年も桜が満開を迎えている。

 千鳥ヶ淵、隅田川、そして目黒川など東京中の水辺に、大小さまざまな舟が行き交う光景。コロナ禍によって例年通りとはいかないけれど、会話を控えめに、そして水面を抜ける風に吹かれながら桜を笑顔で見上げる人々の表情は、長く我慢を強いられた日常からの、束の間の解放感を楽しんでいるように見える。

水の都 江戸

 関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康が、江戸城を中心に大規模な町づくりを始めるまで、現在の東京周辺は人の住む場所も少ない、不毛の地であったといわれている。しかし、家康によって縦横に整備された水路網により、江戸の町にはさまざまな物資が海を通じてもたらされ、町なかの物資が荷下ろしされる場所は「河岸(かし)」と呼ばれ、その周辺には倉庫、問屋、市場が作られていった。こうして江戸の町は水路周辺を中心に栄え、百万人以上の住民と労働者が働き暮らす、賑やかで活気あふれる町へと成長していった。江戸時代、川や水路が網目のように都市を巡り、人や物を街まで運ぶ様々な船で賑わっていた様子や、江戸の人々が春の桜、夏の納涼、そして花火などを水辺で楽しんでいた様子は、多くの浮世絵にも残されている。

 水の都としての繁栄は明治以降も続き、今ほど道路・鉄道網が発達していなかった昭和初期には、隅田川を中心に6社もの舟運事業者が乗合航路の営業を展開していた。中でも、現在「ヒミコ」や「ホタルナ」などの人気の水上バスを運行している東京都観光汽船株式会社の前身・隅田川汽船会社では、永代橋付近から浅草の吾妻橋付近の間を、朝の7時から夕方17時過ぎまで5~6分置きの高頻度で舟を走らせていたという。

水辺に背を向けた時代と大阪の取り組み

 しかし、道路・鉄道網が発達し、そして戦災残土によって多くの水路が埋め立てられていく中で、東京の川や水路は人々の日常生活の舞台から姿を消していくこととなる。高度経済成長期には、川や水路は水害から町と社会活動、市民生活を守るための効率的な排水機能のみを求められ、多くのビルが川・水路に背を向けて建てられていった。そして、人々の心象風景から消えた東京の水路はもはや単なる空き地としかみなされず、1964年の東京オリンピックにあわせて日本橋川の上空に「ふた」をする形で高速道路が走ることになる。

 そして時代は変わり、平成から令和へ。近年では水辺の価値も再び見直され、全国で民間事業者などの手による水辺を活かした再開発も行われるようになっている。その先陣を切ったのは、大阪。契機となったのは、2001年の第3次都市再生プロジェクトにおける「水都大阪の再生」の採択である。以降、行政・企業・市民が連携し、水都大阪の再生に取り組んできた結果、都心部の河川に遊歩道・船着場が整備され、護岸・橋梁・高速道路橋脚には日常的なライトアップが施されるなど、水辺の風景が劇的に変化してきた。また、そうした動きと並行して、水辺空間を使ったクルーズや、規制緩和を活用した水辺の民間ビジネスが生まれるなど、日常的な水辺の利活用が進み、国内でも先進的な水辺のにぎわいを持った都市となっている。特に、大阪の「水都」としての知名度を向上させたのが、2009年にシンボルイベントとして開催された「水都大阪2009」である。市内各所において体験プログラムやワークショップ、マーケットの開催、社会実験としての川床の設置がおこなわれ、その後の更なる取り組みに資する仕組み・ノウハウが蓄積された。

TOKYO FUNECTION

 一方、東京においても、水辺の活性化に向けた継続的な市民活動、そして行政の予算投下も様々な形でおこなわれてきた。しかし厳しい言い方をすれば、大阪と比べて着実なノウハウの蓄積と、成果としての水辺風景の大きな変化には繋がっていない現状がある。

 そうした中、今月、鉄道、不動産、飲食など幅広い業種の民間事業者や学識経験者などによって、「舟運の分野で、多様な主体による連携協働により、いままでにない価値を創造する」ためのプロジェクト「舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021-TOKYO FUNECTION-」が動き始めた。すでに今月、2度のワークショップを開催し、オランダ・アムステルダムで人気の「プラスチックごみを集めて楽しむクルーズ」やリトアニアの「サウナ船」などの事例が紹介され、その上で東京でも“できるはず”の水辺コンテンツについて活発な意見交換がなされた。同コンソーシアムは現在設立準備中で、4月の設立以降、意見交換の結果を会議の場に留めず、具体化して継続的に社会実験を行っていくこととしている。

 人々の意識を変え、未来の景色を変えていくためには、まず動ける人が動き、未来の可能性を現実の場で具体化する。そして結果を検証し、改善して繰り返していく。そうやって、仲間・理解者を増やしていくことが必要なのだろう。今の動けない時期だからこそ、動き始めたこと。TOKYO FUNECTIONの取り組みに注目したい。


開催されたワークショップの様子


参照情報