世界で拡がる「シェア」
近年、「シェア」という言葉をよく聞きます。しかし「シェア」と一口に言っても、物や空間のシェアから、情報やアイディアのシェア、一緒に過ごす時間のシェア、更には感情や思い出のシェアまで、様々な文脈で使用されています。特に旅行や観光に関する領域では、このような「シェア」を目的とした様々なネット上のサービスが普及しているため、簡単に整理してみたいと思います。
まず、「シェア」もしくは「シェアリングエコノミー」と聞いて真っ先に思いつくのが、Airbnbをはじめとした民泊や、Uberなどといったライドシェアリングのサービスだと思います。これらは、一時的に使用していない「空間」や「物」の共有と言えます。またライドシェアリングについては運転代行もするので、運転者の余っている「労力」や「時間」についても共有していると言えます。日本では法規制の問題があり、そこまで利用が拡がっているわけではありませんが、国によってはかなり普及しているようです。一方、「情報」をシェアするサービスで最も有名なのはTripAdvisorでしょう。観光施設や飲食店、宿泊施設など、世界中の様々なスポットの口コミと評価に関する膨大な情報が、旅行者の間でシェアされています。更には、旅先での「楽しさ」や「感動」などといった「感情」の共有についても「シェア」という言葉が使われています。旅先で撮影した綺麗な写真は、感動の言葉とともにFacebookやInstagramなどを通じてすぐに仲間と共有することが出来ます。
旅行プランや一緒に過ごす時間の「シェア」
また、旅の「プラン」や「記録」、更には一緒に過ごす旅の「時間」のシェアを目的としたサービスもあります。
Compathy※1というサービスでは、旅の「思い出」や「旅行記」をシェアすることができます。旅の全てを丸ごと記録してしまおうというコンセプトで、写真やコメント、スポット情報、一緒にいた人、旅のルートなどとともに、旅の始まりから終わりまでの様子を時系列で投稿できます。多くの投稿は海外の旅行記で、普通の観光旅行はもちろん、世界一周の旅から、「ケネディ暗殺現場に行ってみた。」などといったユニークな旅まで様々です。全ての情報が旅行者目線であることに加え、時系列で紹介されているので、旅のイメージが湧きやすく、見る側にとっても面白いです。
一方、国内に関する投稿が多いのはHoliday※2というサービスです。自分が知っているおすすめスポットの写真や基本情報と一緒に、そこでの過ごし方をシェアすることができます。旅行プランというよりも、地元に住んでいる人による「おでかけプラン」の共有がメインなので、旅行者からすれば、ガイドブックには載っていない面白いスポットや過ごし方を見つけることができます。ただ、地元の人による「お出かけプラン」が多いのは主に都市部で、地方では、旅行者による割と普通の「旅行プラン」の方が多い印象です。
海外・国内を問わず、一緒に旅をする「時間」そのもののシェアを目的としたサービスも人気を集めています。trippiece(トリッピース)※3は、旅行やイベントなどのアイディアを持っている人が企画者となり、旅仲間を募集することができるサービスで、誰もが企画者としても参加者としても利用できます。企画としては、「オーロラを見に行こう!」「海外のお祭りに参加しよう!」などといった本格的な海外旅行から、「ダイビングのライセンスを取ろう!」「光るグッズを身につけてナイトゲレンデを滑走しよう!」などといったアウトドア、身近なところでは「代々木公園でピクニックしよう!」などといったシンプルなイベントまで様々です。一部、旅行会社の手配が必要となるケースもありますが、多くは同じ旅行者として、旅仲間を集めるというスタンスで企画されています。
広がる旅の選択肢
このようなサービスの普及で、旅の選択肢がどんどん広がっています。極端かもしれませんが、例えば、面白そうな旅行プランをcompathyで見つけて、一緒に行く仲間をtrippieceで募り、宿はAirbnb、現地での移動はUberで安く済ませ、TripAdvisorで情報収集しながら各地を巡り、旅の思い出をまたcompathyに記録する。なんて旅をしている人がいるかもしれません。このように、「シェア」サービスを組み合わせて利用するタイプの旅行は、海外では徐々に一般的なものになっているようですが、日本ではまだ、いわゆる「旅行好き」な一部の人によるものだけだと思います。これから一般の旅行者へどのような拡がり方をするのか、注目していきたいと思います。
※1:https://www.compathy.net/
※2:https://haveagood.holiday/
※3:https://trippiece.com/