ドイツ・デンマークのサステナブルな交通 [コラムvol.487]

2022年9月末から10月上旬にかけて、Sustainable Tourismの視察のためドイツとデンマークを訪問しました。DMOやホテルがどのように持続可能な観光・地域づくりに向き合っているのか様々なお話をうかがいましたが、このコラムでは少し視点を変え、町中で見つけたサステナブルな交通についてレポートします。

欧州では旅行者向けに公共交通が1日乗り放題となるパスが普及しており、気軽にバスや電車で町中を移動することができます。例えば「フランクフルトカード」を購入すると公共交通に1日自由に乗ることができ、また博物館や劇場等各種施設への入館、ツアー参加、レストランでの食事等様々な体験にかかる料金が無料/割引となるため、移動した先でそれらの体験を楽しめます。「コペンハーゲンカード」も同様のサービス内容ですが、電子化されておりアプリでの利用も可能となっています。

また下表のように、大都市だけでなくドイツの小規模な地域や温泉地でもカードが作成されています。Bad Mergentheimのように近隣住民への追加特典を設けてマイクロツーリズムを促進したり、Bad Lauterbergのように近隣地域と連携してサービスを提供することで周遊を促したりといった工夫をするケースも見られます。このようにサービスの内容は地域により少しずつ異なりますが、やはりどのカードも環境に優しい公共交通での移動を促したり、地域での体験参加や施設利用が無料/割引になったりと、地域をより楽しんでもらうためのものとなっています。

カードを作成しているドイツの温泉地の例※


※Bad Griesbach市HP https://www.bad-griesbach.de/kur-tourismus/gastgeber/gaeste-kur-karte
 Bad Mergentheim市HP https://visit.bad-mergentheim.de/de/gesundheit-erholung/kur-gaestekarte/
 Bad Lauterberg市HP https://www.badlauterberg.de/events-wichtige-infos/tourist-info/gaestecard-kurkarte

(2)自転車・電動キックボードの環境整備

フランクフルトでは、町中のあちらこちらにレンタル用の電動キックボードが置かれていること、多くの人が電動キックボードを利用して移動していることに驚きました。日本でも電動キックボードの普及は始まっていますが、専用ポート間での利用に限定されており、乗り捨てはまだできません。私たちもフランクフルトで実際に体験しましたが、アプリで簡単に乗車・乗り捨てができる仕組みが整っていました。

一方コペンハーゲンでは、電動キックボードよりも自転車の利用が目立ちました。どの道にも自転車に乗る人がおり、また町中に整備されているいくつもの駐輪場はどこもいっぱいで、自転車が日頃の交通手段として支持されていることが見てとれました。

フランクフルトの
歩道に置かれた電動スクーター

自転車で埋め尽くされた
ストロイエ周辺の駐輪場

ストロイエ

コペンハーゲンでは、自転車に乗りやすい環境の整備が進んでいます。例えば自転車専用レーンは多くの道で整備されていますが、幅が自転車2台分ほどでレーンの中で自転車どうしの追い抜きが可能であったり、路上駐車の多い場所ではレーンが歩道に設けられていたり、バスの停車場所とレーンが重ならないように設定されていたりと、安全に乗りやすい工夫がなされています。また歩行者専用エリアとなっているストロイエ周辺には大規模な駐輪場が整備されており、歩行者専用というルールを守りやすくなっています。私たちも歩行者として快適に歩くことができました。また二段階左折・手信号等のルールが徹底している、ヘルメットをしている人は多くないものの首に巻くタイプのエアバッグ等様々な安全グッズが普及している、等とソフト面も充実していました。

ホテルのレンタル自転車置き場

さらにコペンハーゲンのDMO(Visit Copenhagen)はHPに自転車の利用に関するガイドラインを載せ、観光客に自転車を利用したコペンハーゲンの楽しみ方やルールを伝えるといった取組を行っています。実際に宿泊したホテルではレンタル自転車の利用率が高く、昼間のレンタル自転車置き場はガラガラになっていました。

(3)まちなかに自家用車を入れない仕組み

今回最後に訪れたバーデンバーデンは歴史ある温泉リゾートですが、1970年代以降様々な交通政策を推進し、歩けるまちづくりを実現しています。バーデンバーデンでは、かつては市街地に住民や観光客の自家用車、また通過交通が大量に流入し、住民の生活や観光客の滞在の質が悪化していました。そこで町中の自動車交通量を減らし、渋滞の解消、住民の生活の質の確保、低排出ガス都市の実現、広場等公共空間の再整備による町中の魅力向上等を目指して様々な取組を行ってきました。

施策の一つにMichaelsトンネルの開通があります。Bundesstraße 500(B500)という国道を、バーデンバーデン付近でのみ地下化したのです。これにより町中の交通量が大幅に減少し、またそれに加え、大きな広場の一つであるLeopold広場でバス以外の車の進入禁止が実現しました。

駐車場の地下化も重要な施策の一つで、景観改善や公共スペース拡充のために、クアハウス、劇場、会議施設、スパ等の主要施設近辺に大型地下駐車場が設けられました。私たちも、ホテルから10分程度歩いた場所にある地下駐車場を利用しました。また、バーデンバーデン駅等市街地から離れた場所にはパーク&ライド施設が整備されているため、観光客はその施設に車を停め、市街地には公共交通機関を用いて移動することができます。パーク&ライド施設の拡充は、2030年に向けての開発計画においても重視されています。

Leopold広場

Kongress Hausの地下駐車場入口

環境・住民・観光客に優しい交通

今回ドイツ・デンマークの様々な交通に関する取組に触れましたが、それらの根底には、自家用車の利用を減らし公共交通・自転車・歩行者の割合を高めることで、環境に優しく、また住民・観光客が快適で楽しい生活・滞在時間を過ごせる空間を作るという考えが存在していました。

日本でも環境への意識の高まりや若者の車離れ等を受け、今後環境・住民・観光客に優しい交通の需要はさらに高まると考えられます。実際に、既に多くの地域がそのような交通の実現に取り組んでいますが、定着にはまだ時間が必要と思われます。

バーデンバーデンは、1970年代から50年ほどの時間をかけて交通政策に取り組んできました。交通の取組は一朝一夕に実現できるものではありませんが、今後日本の観光地においてどのように住民・観光客・環境に優しい交通の取組が行われていくのか、注視していきたいと思います。