地域ならではのサステナビリティの見せ方 [コラムvol.497]

コロナ禍が明けた今、サステナブルであることは旅行先として選んでもらう上で大切な条件となりつつあります。では、地域がサステナブルな取組をしているということを、どのように観光客に伝えればよいのでしょうか。

例えば太陽光発電を導入する、再生素材で作られた歯ブラシを販売する、等と、古いシステムを刷新したり新たな取組を始めるというのも重要な手法の一つです。しかしそれだけではなく、地域で長らく続けられてきた取組をサステナブルなものとして捉え、見せていくというやり方も有効です。

当財団は「温泉まちづくり研究会」という、全国の7つの温泉地が集まり、共通の課題について解決の方向性を探り各地の温泉地の活性化に資することを目指す研究会を運営しています(https://www.jtb.or.jp/project/non-profit/network/onmachi/)。研究会に参加する地域の取組の中から、地域ならではサステナビリティを発信している事例をご紹介します。

海とのつながりを発信する鳥羽温泉郷

鳥羽の観光にとっては、海の恵みは欠かせない資源です。伊勢海老、アワビ等の海産物に加え、海女、真珠養殖等鳥羽の文化も重要な観光資源となっています。しかし近年は海の環境変化により漁獲量減少が続いていたり、漁業者や海女の人口が減少していたりと、鳥羽の海とそこで育まれてきた文化は危機にさらされています。鳥羽市では、それらを守るための取組が以前から数多く行われてきました。

  • 海の植林活動
    海産物の生育には海藻が不可欠ですが、鳥羽の近隣の海では、磯焼けと呼ばれる藻場の減少が進んでいます。そのような状況を受け、海に藻場を造成する取組が長年にわたり行われています。当初は水産関係者の手により行われていましたが、現在は様々な主体を交えて取組が続けられています。
  • 漁業と観光の連携促進事業  ―漁観連携
    漁業が直面する様々な課題を踏まえ、鳥羽市観光協会、市、鳥羽磯部漁業協同組合による連携が2014年より開始されました。鳥羽の海産物の情報発信、地産地消、海を舞台にした体験、海女さんや食文化の保全、漁業の活性化を戦略分野とし、多岐にわたる活動を行っています。
  • 海女の支援活動
    海女の支援を目的に、2015年に鳥羽市観光協会内に「海女さん応援基金」が設立されました。一部の宿泊プラン料金の1%や、宿泊施設等に海女が訪れてトークをするプログラムの料金の一部を基金として積み立てます。積み立てた資金は、海女さんの応援事業や海の環境保護、水産資源の保護に活用されます。

海や、海で育まれてきた文化を守るこれらの活動は、サステナブルなものとして捉えられるでしょう。近年は、これらを観光客に改めて発信する取組が行われています。鳥羽市役所は教育旅行や企業研修旅行を見据え、鳥羽で今まで行われてきた取組をSDGsに当てはめてまとめています。また鳥羽温泉振興会では、「海藻」「海女」というテーマにフォーカスして、鳥羽が大切にしてきた資源やそれにまつわる思いを観光客にPRしています。

「鳥羽のSDGsまなブック」

図 「鳥羽のSDGsまなブック」

 

鳥羽温泉郷HPの海女PRページ

図 鳥羽温泉郷HPの海女PRページ

”循環“型温泉地を目指す黒川温泉

黒川温泉は1986年以降、入湯手形の導入、景観づくり活動、共同資源の活用に取り組んできました。活動を開始した当時から、それらは今でいう「サステナブル」な考えに基づいたものだったと言うことができます。入湯手形は地元の杉を活用して作成され、利益は地元の老人会に還元されます。また景観づくりにおいては累計2万本に及ぶ植林を行っていました。その後現在にいたるまで黒川温泉では、地元の自然や経済に寄与する様々な取組が行われてきました。

    • 湯あかり
      放置竹林から地域の環境や景観を守るために、竹の間伐・再生活動の一環として2012年より「湯あかり」の取組が始まりました。竹で作られた灯籠を、自然の景観に溶け込むように配置して点灯させる湯あかりは、毎年好評を得ている冬のイベントです。

      図 黒川温泉の湯あかり

      図 黒川温泉の湯あかり

    • 野焼き
      阿蘇の草原は、何百年もの間野焼きによって保たれてきました。毎年黒川牧野組合の組合員が総出で行う野焼きは、早春の風物詩となっています。
    • Farm to Tableプロジェクト
      地産地消への取組を深めるために、熊本県立大学、南小国町と連携して、地域独自の食文化を調査するプロジェクトです。調査により得られた南小国町独自の食の文化を、宿の食事に活かします。

このように黒川温泉は、以前から地域の自然や文化の持続性を意識した取組を行ってきましたが、熊本地震やコロナ禍という危機を受けて、地域の持続可能性の向上のために何を行うべきかを改めて検討し、地域資源の”循環”という新たな理念を掲げるにいたりました。その理念のもと、入湯手形の売上の一部を環境に還元する取組、旅館の生ごみを利用して堆肥を作るコンポストプロジェクト、地元・南小国町で育てたあか牛を旅館で提供することで草原や農法の継承を目指す「あか牛”つぐも”プロジェクト」等、今までの活動を基盤としつつ新たな取組を開始しました。このような長年をかけて培ってきた黒川温泉ならではのサステナブルなスタイルを、観光客だけでなく、企業・行政・大学等、様々な主体にも発信し、ブランディングを行っています。

図 黒川温泉2030年ビジョン

図 黒川温泉2030年ビジョン

まとめ

鳥羽と黒川の取組は、地域で受け継がれてきた考えや取組を「サステナブル」「SDGs」といった視点から切り取って、外部にわかりやすく、地域の魅力として発信しようとしているものと言えます。

温泉まちづくり研究会では引き続き、こういった会員温泉地の取組を注視しつつ、全国の温泉地や観光地の活性化に資する取組や発信を行うことを目指していきたいと思います。