■冷蔵庫と中心市街地
突然ですが、皆さん、ご自宅の冷蔵庫の大きさってどれくらいですか?
以下の経産省の資料(図4、表3)によると、140L 以下は小型、141-300L は中型、301-400L は大型、401L以上を超大型に区分するそうです。
超大型というカテゴリーは1990年に追加されたもので、それまでは301L以上は1つのカテゴリーでした。さらに言えば、調査開始の1975年時点では、大型はシェアゼロでした。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g51115b07j.pdf
その後の推移をみると、中型は大型、超大型へと推移していく事がわかります。
ちなみに、旧大店法が制定されたのは1973年。当時、私は幼稚園生ですから、状況は解りませんが、ダイエーの沿革をみると1960年代の半ばには、チェーン展開を開始していますので、そうした動きが大規模なものになり、いわゆる「中心市街地問題」の第一波がやってきた時期と言えるでしょう。
中心市街地問題や、地場商工業者問題となると「外部」の「大資本」がやり玉に挙げられやすいですが、前述した冷蔵庫の販売経緯を見れば、需要側も「週末に一週間分を買いためる」というスタイルに変化していった事が見て取れます。
実は、先ほどの資料を見ると、小型もシェアアップをしています。
この解釈は、いろいろあるのでしょうが、セブンイレブンの1号店が1974年ですから、おそらくは、コンビニを「冷蔵庫」代わりに使う単身者が増えたのが理由かと。
いずれにしても、需要と供給は、ある種、一体的なものであり、かつ、一対一ではなく、多対多の関係にあるということがイメージ出来ます。
なぜなら、スーパーが出来たって、家電メーカーが大型冷蔵庫を提供しなければ、週末買いだめは不可能でしたし、大型冷蔵庫が販売されても、顧客が購入しないまたは出来ない(例:大型を買うだけの所得がない、場所がない、電力契約ができない)状況なら、同じく週末買いだめは不可能だったわけですから。
(もちろん、モータリゼーションも平行して動いています)
■旅行実施の有無の背景
さて、観光に視点を移してみましょう。
私の講演をお聴きになった方、または、拙作「観光地まちづくりのマーケティング」をお読みいただいた方には繰り返しになりますが、我が国の観光市場は1997年以降減少傾向にあります。
これだけを見れば、原因について、いろいろな仮説を立てられますが、藻谷氏が「デフレの正体」で整理してくださったように、この市場縮小は、観光だけでなく、多数の分野で生じている現象です。
例えば、携帯やネットに市場が取られているということを原因として指摘される事も多いですが、携帯やネットの普及は、世界中で展開されており、その中で、市場は拡大基調にあることを考えれば、そんな単純なトレードオフの関係でもありません。
つまり、観光市場の縮小は、観光業界とか観光地の問題「だけ」ではありません。
昨年度、ある業務において、1年間の旅行回数別に、旅行に対する志向を尋ねる調査を行いました。
この中で、浮かび上がったのは、志向云々という以前に、旅行を一度もしていない人々と、した人では、世帯収入に明確な差があるということです。
まだ、公表前の資料であるため、詳細は省きますが、以下のようなことがわかっています。
1.世帯年収との関係
現在、給与所得者の平均給与は400万円を切っています。これは、パートタイマーなども入れたものなので、フルタイム勤務者では、もっと高くなりますが、400万円というのは一つの基準と考えられます。しかしながら、世帯年収と旅行回数の関係を見てみると、旅行ゼロ回層では、世帯年収が、この平均値である400万円未満が4割弱に達しています。一方、旅行実施層では、400万円以上が8割弱を占め、900万円以上も3割に達します。
つまり、世帯年収の高低と旅行回数は相関しているわけです。確認のため、長期レンジで、給与水準と市場量の変化を見てみると、両者に緩やかな関係があることが見て取れます。
図をクリックすると大きな図をご覧いただけます。 |
2.年代との関係
年代で見ると、旅行実施層は、30代(2割)、40代(3割弱)、50代(2.5割)、60代(2割弱)と年代のばらつきが少ないのに対し、ゼロ回層は、40~50代だけで約7割を占めます。
40~50代と言うと、いわゆるバブル世代も含まれ「どん欲な消費」を経験した世代でもあり、会社勤めならそれなりの役職につくことも多い世代ですが、子供の学費などがかかる年代とも言えます。
3.学歴との関係
さらに、学歴をみると、ここでも明確な差が見られます。旅行実施層は大卒以上が5割、短大・専門学校が2割強ですが、ゼロ階層は高卒以下が4割を占め、大卒以上は3割強にとどまります。学歴と収入との間には、おそらく相関がありますが、学歴による社会観、価値観などの違いも指摘できるでしょう。
■まとめ
このように、年収が低く、かつ、何かと支出が重なることの多い40~50代が、特にゼロ回層となっていること。そこに関連して学歴にも差が見られること。などを考えれば、旅行市場の減少を観光産業や観光地「だけ」の問題としたり、さらにいえば、経済の問題「だけ」にも出来ないでしょう。
現状の分析を誤ってしまうと、誤った対策しか出てきません。
「観光産業だけ」「日本だけ」「現在だけ」といった視点を廃し、視野を広げ、俯瞰して見る事が重要なのではないでしょうか。