まちづくりと観光事業の間にある壁② [コラムvol.227]

2014.10.17

観光政策研究部  後藤健太郎
研究員コラム

 さて、今回のテーマは「“住民が担い手となる観光”の地域における位置づけと事業面での配慮」です。住民が観光の担い手としてガイド役をつとめ、直接観光客に接し交流する。そうした観光がここ10年の間で大きく全国に広がりました。
 以前から観光と住民の関わりがなかったわけではありません。しかし、それは住民による積極的な観光への関わりというよりは、生活環境を脅かすものとして距離を置いて捉える観光としての見方が強かったように感じます。依然として両見方が存在するとは思いますが、観光に関わるものとしては、この10年の流れをなんとか上手く将来に結び付けていきたいものです。
 以上のような想いから、観光まちづくりに取り組む住民の方、そして観光事業によって生計を立てられている方に向けて、その要点を簡単に整理してみます。

■3分の1が観光で3分の2はまちづくりが目的!?

 “まち歩き”のまちとして全国に知られた長崎市の「長崎さるく」。住民による“さるくガイド”が顔となり、お客さんを楽しませています。準備段階も含むと10年間も続いているこの「長崎さるく」。立ち上げから関わられた田上市長(当時観光振興課主幹)は、取り組みの目的を次のように述べています。

  • 3分の1は観光だけども、3分の2はまちづくりが目的 1)
  • 住民の皆さんが自分のまちのことを知って、「自分のまちってこんなにいいまちだったんだ」「本当にあらためて歩いてみるといいよね」「こんな歴史があったんだ」ということを知ることで、それがまちづくりのエネルギーになって、「少しでも住みやすいまちにしよう」、「自分ができることをしよう」、という風につながっていく、そのエネルギーをつくる場が「さるく」だというふうに位置づけています 2)
  • 長崎さるくの目的の1つは新しい観光スタイルを作ることだが、もう1つは長崎の人自身がまちの魅力や個性に気付き、引いてはまちを大事にしよう、もっと綺麗にしようという動きになり、まちづくりにつながっていく。実はこちらの方が大きいと企画段階から思っていた 3)

 住民が担い手となる観光は、住民が住むまちを舞台にその暮らしそのものを活かす観光です。その取り組みにおいては、観光客の集客のみを意識するのではなく、まちづくりへつなげる意識が重要です。取り組みを通じて、まちを見直し、その魅力を再認識するとともに、まちの現状や過去を見つめ、まちが抱える課題やまちの未来を考えていく。今後、自分が住む、住み続けていくまちをどう磨いていくか。観光振興に留まらない視点で取り組んでいくことが重要です。

■これからも同じコミュニティの中で生きていくための配慮

 さて、担い手が住民となると、従来の観光事業とどのような点が異なるのでしょうか。先にも述べたよう、観光事業を通じて生計を立てていくとなると、事業者の方が必死になるのは当然です。利益追求を意識せざるを得ないでしょう。また、観光の取り組み全般に対する見方もそうした視点にならざるを得ないかもしれません。しかし、住民が担い手となる観光は、観光を通じた外貨獲得の商品ではなく、住民自らが自分の時間を費やして発掘し磨きあげた「作品」としての側面を持ち合わせます。そこには、住民個人の想い、まちへの想いが込められていることが容易く想像されます。それゆえ、いわゆる市場に流通している商品を扱うのとはことなる配慮が必要です。
 もちろん売れ筋のプログラムとそうでないプログラムがあり、棚卸しをせざるを得ないという時は来るかと思います。しかし、担い手である住民は、今後も同じコミュニティで生きていく構成員の一人なわけですから、事業視点からの判断とは異なる判断、配慮が求められます。プログラム自体の改善に向けた取り組みや顧客の確保に向けた動きを今一度考えてみることが重要です。

■異なる主体が歩調をあわせて楽しく取り組む

 実態としては、今回取り上げた住民ガイドで得られる収入は、各組織や参加事業者の収益性の向上にはそれほど大きくは寄与していない状況にあるかと思います。観光を生計の糧としている事業者の方にとっては、その取り組みの効果を問う声もあるようです。しかし、まち自体の魅力を今後も磨きあげ続けていかなければ、観光事業も継続できないのではないでしょうか。リピーターの確保に向けて、地域に関する深い情報や定期的な話題を市場に提供していくためには、住民による観光の取り組みは必要不可欠なのではないでしょうか。
 住民と観光事業者が共同でこうした取り組みを行う場合は、観光客へのプログラムの提供や商品化、目に見える成果を急がず、住民との対話を重ねながら、活動自体をともに楽しみ、距離を縮めていくことも重要です。先に述べたような、まちづくりにつなげる視点を持ちながら、活動を展開していく地域が増えていくことが期待されます。

■マーケットの違いを相互に理解して、リスタート

 さて、最後に参考までにマーケットについて。住民が担い手になる観光のマーケットは、観光事業者(特に宿泊事業者)のマーケットとはその集客圏が異なるようです。昨年度、弊社で実施したオンパク4)実施地域を対象にしたアンケートによると、参加者の居住地構成比は次の通りです。

図

図1 オンパク実施地域の参加者の居住地構成
出典:「平成25年度観光実践講座」資料より

 「地元住民」の割合が「61~80%」を占めると回答したオンパク実施地域が最も多く、53%と約半数を占めました。さらに「地元住民」+「地元を除く県民」の合計で見ると、「81~100%」を占めると回答したオンパク実施地域が94%を占めています。宿泊事業者の集客圏とは幾分重なりつつも異なるという現状においては、まずその状況を住民、観光事業者の方がお互いに理解し、その上で、どの部分において連携できるのか、どの部分なら相互乗り入れできるのかを今後詰めていくことがポイントになってくるでしょう。必ずしもみんなで一緒に取り組むことだけが効果的ではないので、その点を見極めてある段階からアプローチを変えていくことも必要です。

 今回は、「“住民が担い手となる観光”の地域における位置づけと事業面での配慮」について現場の方から伺った話や現場で感じたことを中心に書いてみました。次回も引き続き、まちづくりと観光事業の間にある壁と題して感じたことを整理したいと思います。

(注)

 1) 参考文献(6)、pp.22

 2) 参考文献(6)、pp.22

 3) 参考文献(1)、pp.22

 4) オンパクは、温泉泊覧会の略語です。「プログラム」と呼ばれる小規模の体験交流型イベントを集約して短い期間に開催するものです。

(参考文献)

(1) 井上明彦(2008):自治体維新 首長インタビュー 長崎市長 田上富久氏、日経グローカル、No.112、pp.20-23
(2) (公財)日本交通公社(2013):平成24年度 観光実践講座 講義録 人を活かし、まちを活かす観光の考え方~見えない価値を見せる「まち歩き」の実践
http://www.jtb.or.jp/publication-symposium/jissen-kouza-kougiroku-2012
(3) (公財)日本交通公社(2014):平成25年度 観光実践講座 講義録 オンパクに学ぶ、観光まちづくりの理論と実践 ~“地域活性化”の秘訣、“課題解決”のヒント!
http://www.jtb.or.jp/publication-symposium/jissen-kouza-kougiroku-2013
(4) 後藤健太郎(2013):視点3-1.生活文化を活かす、「観光地経営の視点と実践」、丸善、pp.39-44
(5) 後藤健太郎(2013):事例9.“まち歩き”を通じた観光の質の転換、「観光地経営の視点と実践」、丸善、pp.203
(6) 田上富久(2010):<基調講演>長崎さるく博成功の秘訣、第2回都市セミナーシンポジウム、福岡アジア研究所、p.11 -22

 

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