外国人観光客の立場で考えたこと [コラムvol.310]

2016.07.25

観光地域研究部 研究員 門脇茉海

 先日、とある観光地で地元の方と打合せをしていた時のこと、話題はますます増えている外国人観光客のことに。「外国人を相手にするってなると、ちゃんと話さなきゃって身構えてしまう人が多いんだけど、別に話せなくたって、身振り手振りと表情で十分伝わるんだよね。」この言葉を聞いた私は、つい一週間前に自分自身が体験したことを思い出していました。

 今回は、外国人観光客への対応について、観光客の立場で感じたことについて書いてみたいと思います。

北京の下町でプチ冒険

 6月1日から5日にかけて、APTA(Asia Pacific Tourism Association)という学会に参加するため、中国北京を訪れました。

 学会終了後の自由時間、故宮博物院(紫禁城)や天安門広場等の有名な観光施設を訪ねるだけではなく、少しでも地元の日常に触れてみたい、地元の人とコミュニケーションしてみたいと思った私は、地下鉄に乗って“前門”という下町エリアへと向かいました。

冒険その1 老舗茶葉店にて

 天安門広場の南側に広がる前門は、明・清代、紫禁城の城下町として栄えた古い繁華街で、かつては皇族たちが買い物を楽しんでいたエリアなのだそうです。近年までしばらく雑然とした繁華街だったそうですが、2008年に開催された北京オリンピックをきっかけに街並みの整備が進められ、現在はレトロでおしゃれな雰囲気の通りとして、観光客の人気を集めています。

 まずは、大柵欄という商店街に向かいました。この大柵欄は、1420年に開かれた北京最古の商店街で、多くの老舗が軒を連ね、全国重点文物保護単位にも指定されています。ここでのお目当ては、老舗茶葉店「張一元茶荘」のジャスミン茶です。

 この店は、棚に並んだたくさんの茶葉の中から欲しいものを指定して、量り売りで購入し、一つ一つ手作業で紙に包んでもらう、という昔ながらのスタイルです。せっかくなら、空港でも買えるようなありふれたものではないお土産が欲しい!と、勢いこんで店に入ったものの、店内には英語表記はおろかメニュー表すらありません。途端に言語の壁が立ちはだかりおろおろしていた時、ふと、ガイドブックに「中国は漢字の筆談で会話できる」と書いてあったことを思い出しました。早速持っていた地図のすみっこに、「茉莉毛峰、50g、7個」と書いて見せたところ、見事希望通りの茶葉を購入することができました。お店の方は中国語しか分からないようでしたが、日本語式の漢字を使うことでコミュニケーションを取ることができました。

写真①

↑「全国重点文物保護単位 大柵欄商業街建築」とある。北京オリンピック開催の2年前にあたる2006年
の指定。全国重点文物保護単位への指定は、国務院(中華人民共和国の最高国家行政機関。日本の内閣
に相当)の公布という形で行われる。

冒険その2 老舗文具店にて

 次に向かったのは、瑠璃厰という商店街です。中国では硯、墨、紙、筆のことを「文房四宝」と呼びますが、これらを扱う老舗文具店が集まっているレトロな趣の通りです。次のミッションは、ここで自分の名前のハンコを作ってもらうことです。

 茶葉店での成功体験をふまえ、「私 名前 茉海」と書いて渡すと、とてもスムーズにオーダーすることができました。お店の方は片言の英語が話せる程度、日本語は全く話せない方でしたが、受け取り時刻の連絡も全て筆談で確認したので、まごつくこともなく買い物を終えることができました。

写真②

↑瑠璃厰の通り。清代の街並みが復元され、レトロ感あふれる通りとなっている。
ほとんどの店が文具店で、写真左側の店の窓には「筆」とある。

冒険その3 古民家カフェにて

 ハンコの完成を待つ間、ガイドブックには載っていなかった素敵な路地(=胡同)でオシャレなカフェを発見したので、少し休憩することにしました。

 「ブルーベリーティー」を注文したかったのですが、私の発音では通じなかったようで、お店のご主人と一緒に壁にかかったメニュー表を指差し確認しながら、なんとか注文。注文を終えてからも何か質問されたのですが、全く分からないので困った笑顔を浮かべていると、一度お店の奥にひっこんだご主人がアイスコップに氷を入れて戻ってきて、「(これか?)」と聞くように私の目の前に差し出しました。ホットかアイスかと聞いてくれていたのです。 結局、いただいたのはブルーベリーティーではなくマンゴーティーでしたが、こちらの欲しいものをなんとか提供しようという思いを感じられた、非常に嬉しい体験でした。お店を出る時、ご主人がくれた「再見!」という言葉は、ただの「さようなら」以上の意味を持っていたように思います。

写真③

↑古い民家をリノベーションした路地のカフェ。
周辺には同じように古民家を再活用したカフェやレストランが数多くあった。

コミュニケーションが生まれる外国人受入体制づくり

 今回訪れた茶葉店でも文具店でもカフェでも、外国人観光客専門のスタッフが常駐していて、何のそつもなく対応されていたら、これほどまでに印象深い思い出にはならなかったことでしょう。言語も文化も異なる相手と分かりあえる瞬間こそ、海外旅行の醍醐味なのだと思います。そのような海外旅行者を受け入れる側にとって大切なことは、相手の言語に合わせて“ちゃんと話す”ことではなくて、相手を思いやり、相手のために何かをしてあげたいという素朴な思いを持つことなのだと思います。

 もちろん、交通情報や緊急時の対応等、確実に情報を伝える必要がある分野については、多言語表記等も含めたよりきめ細やかな対応が求められると思います。

 かといって全てを多言語対応させるのではなく、地元の人と観光客とのコミュニケーションが生まれる余地を残した、受入体制の整備が進んでいけば良いなと感じています。

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