“不便な”旅のおもしろさ [コラムvol.333]

2017.01.30

観光地域研究部 研究員 門脇 茉海

旅行といえばバス

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 いまだに運転免許証を持っていない私の場合、旅行中の移動手段は公共交通機関に限られます。特に、まちなかの移動となると、路線バスに乗ることが多くなります。バスに乗るためには、観光協会や交通会社のHPにアクセスして、経路や時刻表、バス停の場所などを入念に調べておく必要がありますし、バス停まではスーツケースをガラガラ引っ張りながら歩かなければなりません。レンタカー移動に比べれば確かに不便なのかもしれませんが、利用可能なバスを調べることでそのまちの地理が事前に頭に入りますし、まちなかを自分の足で歩くことでそのまちにきちんと出会える気がしています。

 

 バスは様々な人との出会いのきっかけでもあります。バス停でバスを待ちながら地元のおじいちゃんとおしゃべりしたり、同じ運転手さんのバスに偶然3回も乗ってすっかり顔なじみになったり。時刻表を読んだり行程を組み立てたりするのが実は苦手な私は、バスに乗るのに失敗することも多いのですが、そんな時はよく地元の方に助けられています。逆方向のバス停に立っていて目的のバスを乗り逃がした時には、その様子を不憫に思った役場の方に車で駅まで送っていただきました(これは出張先でのできごと)。時刻表の確認が甘く、帰りのバスが来るまでバス停で仕方なく2時間待ちしていた時に、地元の方に港まで送っていただいたこともあります。

島原での出会い

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 そんなバスにまつわる思い出のなかでも、特に印象的だったのが長崎県 島原での出会いです。

 3泊4日の行程で桜島~鹿児島~島原~長崎をひとり旅した時のこと、旅行3日目、前日に島原に泊まってその日のうちに長崎に移動する日のことでした。島原城、武家屋敷、湧水と、島原のまちなかを楽しんだ後、“島原・天草一揆”の舞台である原城跡に、「ここまで来たんだからやっぱり行きたい!」と思った私は、原城方面行きバスの時刻表と長崎行きJR線の時刻表としばしのにらめっこの末(原城と駅は正反対の方向にあったのです)、大きな荷物をJR島原駅に預け、路線バスで原城跡を目指すことにしました。

 バスに一時間ほど揺られて原城跡に到着、「ここがあの一揆が起こった場所かー」と感慨にひたりながら、多くの人びとが逃げ込んだという空濠りの写真を撮っていると、後ろから「見るだけではよく分からないでしょう。よければご案内しましょうか?」という声がしました。振り返ると、分厚いクリアファイルを脇に抱えた方が立っています。確かに一人で見て周るのではよく分からないよなと思った私は、「ぜひ、お願いします」と答え、城跡を案内していただくことになりました。話をうかがうと、この“ガイドさん”は、仕事としてガイドをしているわけではなく、発掘調査の様子を毎日毎日見学しているうちに、誰よりも原城に詳しく、誰よりも原城が好きになってしまい、ほぼ毎日城に足を運んでは興味のありそうな方に解説をしているのだということでした。

 城の動線は敵の侵入を防ぐためにわざと急カーブを繰り返すように取り付けられていること、天草四郎が海の上を歩いたという伝説は城周辺にリーフが広がっていることから生まれたとも考えられること、この辺りの「築山」という地名は幕府軍が陣営を築いたことにちなんで付けられたこと等々、一人で見学したのでは決して分からなかったであろうたくさんのことを教えていただき、「なるほど」「へぇー」を繰り返しながら、予想以上に充実したお城見学となりました。

 ひと通り城跡を見学し終えると、「この近くにキリシタン関係の展示をしている資料館があるのですが、もちろんもう行かれましたよね?」と尋ねられました。「いえ、バスで来たばかりでそちらまでは行けていないんです。そろそろ島原駅行きの最終バスが出る時間ですし。」と答えると、「うーん、あそこは絶対に行った方がよいので、よければお連れしましょうか?」との言葉が! ガイドさんの申し出に甘えさせていただき、車で資料館まで連れて行っていただきました。移動中も、「ここが先ほど話した幕府軍の陣営の跡地で、向こう側が・・・・・」と解説は尽きません。資料館でも、ガイドさんの取り次ぎで職員の方に丁寧に解説をいただき、キリシタンの歴史に対する理解と興味を深めることができました。

 ガイドさんに出会えたことで、原城やキリシタンの歴史に対する理解がより深められたこともよかったのですが、何より、旅先で偶然出会った人と思いがけず意気投合し、楽しい時間を共有できたことそのものが、今でもいい思い出になっています。

“不便さ”が引き寄せる出会い

 レンタカーがあれば、大きな荷物を抱えてコインロッカーを探し回る必要もなく、電車やバスの出発時刻に拘束されることもなく、効率的に自由に動き回ることができます。ですが、“不便な”旅が生む“アソビ”がまちや人との出会いを引き寄せ、それが素敵な思い出になっています。

 私にとっての旅の醍醐味は、まちと出会い、人と出会うこと。そろそろ免許証を取らなくてはと思いつつ、バスの旅もやっぱりいいよなあと思うのです。

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