ニュージーランドの森で考えた ~kiwiの国の実現力・改善力 [コラムvol.300]

2016.04.25

観光地域研究部 主任研究員 中島泰

 ニュージーランドの森にはサンドフライがいる。18世紀の探検家、ジェームズ・クックが「もっとも迷惑な生物」とその存在を日記に残した、その正体は小型のハエだ。蚊にも似ているが、異なるのは刺された後の痒さと持続性が蚊の比ではないことである。そんな森を訪れた。そして考えた。

アクティビティの聖地クィーンズタウン

 ニュージーランド・クィーンズタウンといえば、スキー・スノーボードから、バンジージャンプ、ジェットボートなど豊富なアウトドア・アクティビティを楽しむことのできる世界随一のリゾートタウンであり、「世界一美しい遊歩道(The finest walk in the world)」として有名なミルフォード・トラックの入口の街でもある。

 クィーンズタウンには、年間290万人(日帰り110万人、宿泊180万人)もの観光客が訪れるが、繁華街は15分もあれば端から端まで歩いて移動できるほどコンパクトにまとまっており、その小さなエリアに大小のホテル・ペンション、世界各国のレストラン・バー、そしてアクティビティを紹介・斡旋する観光案内所などが集中して集まっている。

 今年3月、そんなクィーンズタウンに沖縄県および沖縄エコツーリズム推進協議会のメンバーとともに視察に訪れた。

ニュージーランド公式認証制度・クォルマーク

 実は沖縄のメンバーとニュージーランドを訪れるのは、今回が2回目となる。前回は経済の中心地、オークランドを訪れた。ニュージーランドには、観光関連事業者を評価して品質認証を行う「クォルマーク(Qualmark)」という制度があり、前回はその運営事務局を訪問した。

 クォルマーク制度があることで、旅行者は安心して、安全面やサービス面のクオリティが保証された事業者を選択することができる。その際、参画事業者が少なければ、制度自体の利用価値も低くならざるを得ないが、同制度では約2,000の事業者が認証を受けており(2016年4月現在)、旅行者の選択の幅も確保されている。そうした意味でクォルマークは観光分野の認証制度における成功事例として捉えられることが多く、日本国内でもその内容、動向が度々注目されてきた。そして沖縄においても、前回の視察以降、沖縄版の導入に向けて検討が行われてきたが、事業者側のメリットが見出しづらく未だ具体化には至っていない。

事業者の本音 ~クォルマークって

 今回の目的は、認証制度を導入した側(運営事務局)の論理ではなく、導入された側(事業者)の本音を聞き出すことである。視察中、アクティビティ事業者3社を含めた計6箇所を訪問し、クォルマーク制度についてのヒアリングを行うことができた。

 結果、同制度の導入から数年が経て、いずれの事業者においても制度の内容および運用の現状については前向きに捉えているようであった。特に、認証取得に係る取組段階において自社のコストマネジメントを見直すことで、経営改善につながったというメリットを挙げる事業者が多かった。

 ただ一方で、同制度の影響が限定的であることについても、ほぼすべての事業者が認めるところであった。そもそも観光客がアクティビティを選択する際には、いかに自身が楽しみたい商品であるかが最大の選択理由で、その他価格や参加しやすさ、安心感などは付加的な要件でしかない。クォルマーク取得の有無はその付加要件のひとつでしかなく、最大の決定要因には成りえない。と彼らは語ってくれた。

サンドフライに刺された

 視察中、ミルフォード・トラックの一部を歩く機会に恵まれた。世界一美しい遊歩道を歩きながら、事業者の人たちから聞けた話を反芻し、つらつらと考えた。

 事業者は、クォルマーク取得に取り組むことは中長期的に経営改善や顧客獲得につながるものの短期的にはメリットはない、と語った。だからといって、彼らは参画を拒否するのではなく「メリット自体は少ないかもしれないけど、制度自体は良いものだと思うし参加している」と言う。この関係は果たして日本で、そして沖縄で成立するのであろうか。

 ただでさえ自転車操業の多いアクティビティ事業者が、短期的にメリットの出ない、そして手間のかかる認証制度に取り組むことはあるのか。いや、それは難しいだろう。しかし、ニュージーランドではできている。国民性が違うのか。いや、それを言っては元も子もない。頭はぐるぐる廻る。答えは出ない。

 ただ、そもそも認証制度の導入は業界が業界のために行うことである。それを、行政が一方的に用意した枠組みで制度を導入しても、遅かれ早かれ立ちいかなくなることは自明であろう。そうした中、業界がまとまって中長期的な方向性、必要な取組を議論することが難しいのは理解できるし、それはニュージーランドでも同様である。ただ、ニュージーランドで違ったのは行政がクォルマークを導入した後に、業界が「反対」するのではなく「参画、検証しながら改善」を訴えてきた点にある。学ぶべきは制度そのものよりも、そのプロセスにおける実現力・改善力ではないか。今後国内においても、いかにニュージーランドのように官民のフラットな立場での意見交換の仕組みを用意できるか、そして改善の場・サイクルを作れるかが肝となるに違いない。

 そんな結論に達した頃、私の手はぱんぱんに腫れていた。サンドフライめ。

湖畔にホテルやレストランが並ぶ

湖畔にホテルやレストランが並ぶ

クォルマーク認証を取得した観光案内所

クォルマーク認証を取得した観光案内所

帰国しても痒い

帰国しても痒い

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧

関連するタグ: