住民と「一泊住民」~渋温泉での滞在を通じて感じたこと~[コラムvol.266]

2015.08.31

観光文化研究部 研究員 門脇茉海

信州 渋温泉へ

 今年の夏は友達と長野に行きました。

 泊まったのは、志賀高原のふもとに位置する湯田中温泉郷のひとつ、渋温泉です。今から約1300年前に発見されたこの温泉は、江戸と信州善光寺とを結ぶ草津道の要衝にあり、地元、旅人、湯治客により愛されてきた名湯です。

“あこがれ”感じた外湯めぐり

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 渋温泉最大の特徴は、九つある外湯(共同浴場)。「一番湯・初湯」「二番湯・笹の湯」「三番湯・綿の湯」「四番湯・竹の湯」「五番湯・松の湯」「六番湯・目洗の湯」「七番湯・七繰の湯」「八番湯・神明滝の湯」「九番湯・大湯」という九つの外湯が、300年ほど前から次々と発見されたそうです。これらの湯はそれぞれ源泉や効能が異なっており、たとえば、白い湯花の多い「三番湯・綿の湯」は切り傷や皮膚病に、鉄分が多く褐色を帯びている「九番湯・大湯」は万病に効くと言われています。また、渋温泉のお湯はすべて「源泉掛け流し」。渋温泉では、自分の目的や体調に合わせて、様々な効能を持つ「地中から湧き出たままの温泉」を楽しむことができるのです。

 これらの外湯は、地元の人の手により大切に守られてきたもので、現在も地元の生活になくてはならないものとなっています。基本的には地元の人が利用している外湯ですが、渋温泉の宿泊客であれば、「一泊住民」として外湯の湯鍵を借り受け、外湯巡りを楽しむことができます。また、外湯巡りにはご利益があると言われています。「厄除巡浴外湯めぐり」と称して、九つの外湯をめぐるごとに「巡浴手拭い」にスタンプを押していき、最後に高薬師さんにお参りし印を授かると、満願成就となります。九(苦)労を流し、厄除け、病魔退散、安産育児、不老長寿のご利益にあやかることができるとされています。

 私と友達も3日に分けて外湯巡りを楽しみ、無事、満願成就を達成することができました。この外湯巡りは、温泉を大切に育んできた渋温泉の生活文化に感じ入ったひとときでした。地元の人に交じって温泉に浸かることで、温泉を大切に育み、温泉に寄り添って暮らしてきた地元の人の日常を体験することができ、豊かな渋温泉での暮らしに“あこがれ”を感じました。

住民と「一泊住民」がまじりあう

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 また、旅館のおかみさんもお菓子屋さんのご主人も射的屋さんのお姉さんも、地元の人たちがみなさん自然体で、旅行者を受け入れることに対して無理をしていないとも感じました。

 私たちの滞在中、渋温泉では「渋温泉夏祭り」が開催されていて、カラオケ大会、盆踊り、わたあめやヨーヨーすくいなどなど、様々なイベントが行われていたのですが、地元の人と旅行者との間に分け隔てがなく、一緒になってお祭りを楽しんでいる様子が印象的でした。渋温泉に暮らす住民も、渋温泉に泊まる「一泊住民」も、みんな浴衣姿で温泉の湯けむりとにおいに包まれ、夏の終わりの夕涼みを満喫していました。

 迎え入れる側が無理をしてしまっていたら、迎え入れてもらう側もどこか遠慮してしまったり、申し訳なさを感じてしまうものだと思います。そうした“窮屈さ”を、住民と旅行者の双方が感じていないことが、渋温泉の大きな魅力につながっているのでは、と感じました。

「一泊住民」に込められた思い

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 「一泊住民」という言葉には、

・住民のように、土地の暮らしを体験してもらいたい
・住民のように、分け隔てなく迎え入れたい

という受け入れ側の思いが込められているように思います。

 渋温泉のように、真に地元住民に愛されている生活文化を体験でき、また、住民も観光客もお互いが無理なく楽しめるような観光地がもっと増えるとよいな、と感じた旅でした。

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