JTBFの持続可能性指標に係る取り組み [コラムvol.343]
フェリー待合所における観光客アンケートへの協力を呼びかける案内

持続可能な観光国際年

 今年2017年は、国連の定める「持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development)」となっています。国連による決議文の中では、観光が経済を潤す重要な役割を持つ一方で、コントロールが不十分な場合には伝承文化・古代遺産の消滅や、脆弱で貴重な自然環境と生物多様性の破壊、不平等な労働環境などを招く可能性があることを指摘、計画性と責任のある持続可能な観光を普及・浸透させるよう促しています。

 持続可能な観光の普及・浸透は新興国における課題と捉えられがちですが、日本国内の観光地においても十分に大事な問題です。特に、これまであまり観光地化されていなかった地域において急激に観光客数が増加した場合や、あるいは稀少な自然資源などが観光の目玉となっているような場合には、観光による負のインパクトが地域に生じないよう、その影響について注意深く観察しておく必要があります。

 その観察のひとつの方法が、持続可能性指標を使ったモニタリングで、私たち公益財団法人日本交通公社(以下、JTBF)では「観光地の健康診断」と呼んで国内観光地への導入を推進しています。この健康診断では、ヒトが血液検査やレントゲン撮影、血圧測定などによって身体に不具合が出ていないかのチェックをおこなうように、観光地が健康(=持続可能)であるかどうかを複数の測定項目に分けて検査します。その項目は、「利用面」「居住面」「経済面」「環境面」の4つに分類され、「観光客に愛され続ける観光地になっているか」「地域住民にとって観光がウェルカムなものになっているか」「地域へ適正な経済効果が生まれているか」「観光地の自然・文化資源が高い質のまま守られているか」といったことから評価を行います。

座間味村から始まった取り組み

 沖縄県座間味村は、沖縄本島那覇市の西方40kmに位置する小規模島嶼群からなる離島村で、ダイビングや海水浴、ホエールウォッチングなどを目的に年間を通じて多くの観光客が訪れています。近年では、国立公園への指定、沖縄県観光の堅調な伸び、国内におけるインバウンドブームも受けて、さらに観光客数が増加しており、経済面でのプラス効果の反面、環境負荷の増大への懸念が高まっている地域です。

 そうした背景もあって、観光地の健康診断プロジェクトの最初の実践地域として座間味村が選ばれ、村および村観光協会との協働の下で、2015年より各種取り組みが始められています。

 そのひとつが、観光客を対象にした調査で、モバイル機器(主にスマホ)を用いて観光客自身で回答を行ってもらう形式でのアンケート調査「JTBFモバイルアンケート」を実施しています。このアンケートでは、年間に2000人もの観光客からの回答を得ており、観光客の「満足度」や座間味村での「滞在日数」、「消費額」などを尋ねることで、健康診断における「利用面」や「経済面」の指標についてのデータを得ています。ICTを活用することで調査員の配置や紙アンケートにおけるデータ入力におけるコストを極力省き、低コストで多くのデータを得ている点が特徴的で、座間味村のような小規模自治体でも調査にお金をかけずにモニタリングを継続できている良い実例となっています。

 また、この冬に実施した調査に、住民を対象とした観光に対する意識調査があります。座間味村内における阿嘉島の住民を対象に、観光客の印象や島の観光振興のあり方、利用客が増加しているビーチに対する考え方などを尋ね、「経済面」および「環境面」の指標データを収集しました。その他、現地実査や村史等文献調査による資源調査なども実施、各指標項目のデータ収集を行っています。

 

今後に向けて

 座間味村では、集められたデータを一元的にまとめた上で島内の関係者で共有し、今後の観光振興の進め方を話し合う場を来月にも持つこととしています。JTBFでは、座間味村における持続可能な観光を推進するこうした取り組みを今後も継続的に支援していくとともに、他観光地においても取り組みを拡大していく予定です。

 なお、JTBFの持続可能性指標に係る取り組みの内容は、随時ホームページでも公開・更新をしていますので、興味を持たれた方はそちらも是非ご覧ください。

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写真2 座間味村を代表する観光スポット:古座間味ビーチ