シェアリングエコノミーを測る
昨年11月、イタリア・ベネチアで開催された、OECD主催のグローバル観光統計フォーラムに参加してきました。このフォーラムは2年に一度開催される国際会議で、各国から観光統計に携わる専門家が参加し、研究発表や意見交換が行われます。テーマは、地域レベルの観光統計や文化観光の実態、環境面の持続可能性、経済的インパクト、モバイルデータやwebデータの活用など多岐に渡ります。どのテーマも興味深いものでしたが、特に参加者の関心の高さを感じたのが、「MEASURING THE SHARING ECONOMY」と題されたセッションでした。民泊やシェアライドなどといったシェアリングエコノミーの実態や影響を、いかにして把握するかというテーマです。特に民泊については、法令上の問題や、既存の宿泊施設との不公平性、家賃の上昇を招くなどといった負の影響が指摘されており、その実態を明らかにすることは喫緊の課題となっています。
民泊の影響とデータソース
セッションでは、例えばスペインのケースで、民泊の実態や影響に関する以下の点が示されています※1。
・民泊物件は既存の宿泊施設よりも都市中心部に偏っていること
・いくつかの都市では、既存の宿泊施設よりも民泊物件による宿泊容量の方が大きいこと
・民泊物件の約4割が複数の物件を扱っているホスト(民泊物件の提供者)によるものであり、バルセロナではホスト1人あたり平均で1.85件の民泊物件を扱っていること
・マドリードやバルセロナの中心部では家賃の上昇と人口の減少が起こっていること
・規制によるコストと税負担が少ないために、既存の宿泊施設よりも民泊物件の方が、1室当りの利益が大きいこと
・民泊が生み出す新たな需要(もし民泊物件の存在が無ければ来訪していなかった旅行者)は限定的である可能性
このうち民泊に関するデータは、需要側(宿泊者)では公的な統計や旅行者への独自調査、供給側(ホスト)では民泊仲介サイトの情報を用いています。日本では需要側の公的な統計として「旅行観光消費動向調査」と「訪日外国人消費動向調査」がありますが、現在のところ民泊の実態を捉えることはできません(そもそも違法であるため)。また供給側の「宿泊旅行統計調査」でも民泊物件は対象としていないため、需要・供給側ともに民泊に関する公的なデータは存在しない状況です。
一方で、民泊仲介サイトの情報は収集可能です。民泊仲介サイトでは、各物件に関する部屋のタイプや宿泊料金、ベッド数、空室状況、位置情報、部屋の貸し手(ホスト)に関する情報などを取得できます。地域内の物件情報を全て収集することで、供給の実態についてはある程度把握することが可能です。
民泊仲介サイトのデータから
今回は供給実態の例として、2017年2月に筆者が収集※2した、新宿区におけるAirbnb掲載の民泊物件について見てみたいと思います。
まず民泊物件数は2017年2月の時点で2,326件※3存在します。このうち、部屋タイプ(図1)は、一軒家やマンションの一室を全て貸し切る「まるまる貸切」、寝室のみが個室となる「個室」、寝室も全て共用となる「シェアルーム」の3種類がありますが、ホテルやコテージと同じような「まるまる貸切」が大半を占めていることが分かります。
宿泊料金(図2)※4については部屋タイプごとに大きく異なります。「まるまる貸切」の場合、約半数が8千円未満であり、1人1泊あたりの平均宿泊料金も1万円を切るため、新宿区の平均的なホテルの宿泊料金より安い印象です。
各掲載物件が、1件のみを扱っているホストによる物件か、複数物件を扱っているホストによる物件かで分けてみる(図3)と、少なくとも約6割※5が、複数物件を扱っているホストによる物件であるようです。また、新宿区の掲載物件2,326件に対し、ホストの数は1,233人であるため、1ホストあたりの物件数は1.9件となり、前述のバルセロナの水準と同程度であることが分かります。
これらのデータについて、地域や時系列による比較をすることで更なる分析が可能です※6。また、空室状況やレビュー数から実際の延べ泊数や消費額を推計する試みもあります。民泊の実態をいかにして把握するか、今後の研究動向に注目しながら考えていきたいと思います。
注
※1:Dirk Schmücker, Ulf Sonntag, Philipp Wagner, Assessing the impact of “shared accommodation” for city tourism. / Óscar Perelli del Amo, Eva Hurtado ,Measuring the impact of short term rentals in Spain: decline of a myth. at 14th Global Forum on Tourism Statistics, http://tsf2016venice.enit.it/download
※2:Airbnb掲載情報はTom Slee氏の手法を参考に収集した。Tom Slee氏は独自に収集した世界中の各都市におけるAirbnb掲載情報(ローデータ)を公開している。http://tomslee.net/category/airbnb-data
※3:厳密にはここから、各物件についてアクティブ(本当に利用可能)な物件かどうかを空室状況等から判断し、アクティブではない物件を除く必要があるが、今回は省略している。物件数については10%程度の誤差が含まれている可能性がある。
※4:宿泊料金は季節や曜日によって変動がある。
※5:区内で扱っている物件しかカウントしていないため、区外の物件も含めると、複数物件を扱っているホストは更に多いとみられる。
※6:既に、同様のデータを収集・蓄積することで、分析結果を民泊ホストに提供するサービスが存在する。
AirbDatabank: http://airbdatabank.xyz/
BnB Insight: https://bnbinsight.com/
メトロデータ: https://minpaku-dashboard.jp/metrodata/page.html