国際的な往来の開放に影響する要因とは? [コラムvol.473]

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的にまん延したことで、観光が前提としている人の移動・接触、交流は大きな制限を受け、我が国のインバウンドを含む観光全般の活動も停滞を余儀なくされました。

その後、現在までに、世界的にワクチン接種が進展し、それに応じて段階的に各種制限を緩和し、直近ではより踏み込んで観光活動を再開させようとする動きが見られています。

今回は、英国のオックスフォード大学が行っているプロジェクト「Oxford Covid-19 Government Response Tracker(略称:OxCGRT)」の公開データを元に、諸外国のCOVID-19に関する政策のうち、特に入国時の制限等に関するものに着目し、世界と我が国を比較しながらその全体的な動向を見ていきます。

このプロジェクトでは、2020年1月1日以降、世界の187か国をカバーし、各国の政府がCOVID-19に関して講じている政策の体系的な情報、具体的には「封じ込めと閉鎖に関する政策」「経済政策」「医療システム政策」「ワクチン政策」の4分野における計24の指標を日単位で収集、記録しています。また、合わせて、収集された指標をもとに、「全体的な政府の反応指数」「封じ込めと健康指数」「厳格度指数」「経済支援指数」「開放性指数のリスク」といた各種の指数も算出されています。

2.地域別に見た「国際的な渡航に関する管理」指標の割合の推移

ここでは、収集されている指標のうち、「封じ込めと閉鎖に関する政策」に含まれる「国際的な渡航に関する管理(C8_International travel controls)」指標に着目します。

この指標は、下記のような順序尺度でコード化されています。

 0:制限なし
 1:到着者に対するスクリーニング
 2:特定もしくは全ての地域からの来訪に対する検疫
 3:特定の地域からの来訪の禁止
 4:全ての地域からの来訪禁止もしくは国境封鎖

対象国187か国を、IATAの世界地域区分等を参考に「アフリカ」「南北アメリカ」「アジア・太平洋」「欧州」「中東」の5地域に区分し、上記の「国際的な渡航に関する管理」指標の2020年1月1日から2022年6月30日までの割合の推移を表現したものが下記の5つのグラフです。

図 地域別に見た「国際的な渡航に関する管理」指標の割合の推移





出所)Oxford Covid-19 Government Response Tracker(OxCGRT)データより(公財)日本交通公社作成

これらの5つのグラフから、主として2022年に入ってからの直近の動向を見ると、特に「欧州」地域で国際的な渡航を制限なく開放する対応が早い時期に始まり、かつ広範に広がっているのに対して、「アジア・太平洋」地域では欧州地域等と比較するとより慎重な傾向にあることが伺えます。

3.日本の「国際的な渡航に関する管理」指標の推移

では、世界的に見るとより慎重な地域である「アジア・太平洋」に属する日本はどのような状況なのでしょうか。

2019年の国際観光旅客の到着数の上位10か国(フランス、スペイン、米国、中国、イタリア、トルコ、メキシコ、タイ、ドイツ、英国)と日本(2019年の順位は12位)について、同じく「国際的な渡航に関する管理」指標がどのように推移しているかを示したのが下記のグラフです。

図 「国際的な渡航に関する管理」指標の推移
(2019年の国際観光旅客の到着数の上位10か国と日本)

出所)Oxford Covid-19 Government Response Tracker(OxCGRT)データより(公財)日本交通公社作成

これを見ると、日本は2022年6月に添乗員付きのパッケージツアーでの外国人観光客の受け入れが開始されたことで直近では「2:特定もしくは全ての地域からの来訪に対する検疫」となっていますが、2021年1月付近から以降は、ほぼすべての期間でもっとも厳格な対応である「4:全ての地域からの来訪禁止もしくは国境封鎖」として評価されており、コロナ禍前の世界の”観光立国”と比較しても、やはり慎重な姿勢を取っていたと言えそうです。

4.考察

データからもわかるように、「国際的な渡航に関する管理」の政策的な姿勢については、地域あるいは国ごとに特徴が見られますが、これは、それぞれの地域や国の直近の感染状況の他にも、様々な要因が影響していると考えられます。

例えば、一般的に「欧米」の国は個人の自由を重んじる「個人主義」が強いのに対し、「アジア」の国は(個人の自由が抑制されたとしても)社会全体の安定や安全を重んじる「集団主義」の傾向がより強いことが指摘されています(Hofstedeほか,2013 など)。もし地域ごとに国民にそういった傾向があるとすれば、観光政策の決定や実行にも影響を与えていることは十分考えられ、今回見てきたデータとも合致するように思います。

また、地続きで国境を接する国が多い「欧米」地域と島嶼国が多い「アジア・太平洋」地域という地理的な特性の違い(そこに起因する国外との往来に対する意識の違い)、あるいは、その国の経済が観光にどれだけ頼っているか(いたか)という依存度(観光活動を再開することへの期待度)の違いといったものも影響しているかもしれません。例えば、WTTCのデータから観光がGDPに占める割合を見てみると、比較的早期に条件付きながら観光活動を再開させ、直近では「0:制限なし」となっているタイは2019年で約20%、一方で日本は約7%と推計されており、大きな差があります。

5.おわりに

今回の考察はあくまで政策としてたち現れた結果に着目したものですが、その背後にある要因やその寄与、またそこにどのような議論や検討の過程があり、配慮された事項があったのかをより細かく把握、整理することで、我が国の今後の対応にあたって参考にすることができると思われます。

当財団としても上記のような研究を進めることで、我が国の観光「再始動」に向けて寄与できるよう、知見を蓄えていきたいと考えているところです。

参考資料