マスコットキャラクターに託した想い [コラムvol.372]

2018.06.20

観光地域研究部 研究員 門脇茉海

 2015年度から2017年度までの3年間、私は富士北麓地域で「REBIRTH!富士講プロジェクト」に携わっていました。3年間のプロジェクトの詳細は、ともに担当していた吉澤がコラムvol.367「REBIRTH!富士講プロジェクト-いつまでも 富士山を世界遺産に-」で紹介しております。

 今回の私のコラムでは、最終年度に取り組んだ「富士講マスコットキャラクター」の作成と、そこから学んだことをまとめたいと思います。

REBIRTH!富士講プロジェクト マスコットキャラクター

 このマスコットキャラクターは、世界文化遺産としての富士山の価値普及に資するため作成したもので、富士講の講員(※「富士講」とは、富士山への登拝を目的として結成された山岳信仰の民間組織、講員はそのメンバー)がモチーフになっています。富士講の修行の様子を表現した「行列する」「拝む」「垢離を取る」「食べる」「歩く」といったポーズに加えて、様々な場面で広く活用できるよう、「笑う」「驚く」「感動する」「手を振る」といった一般的なポーズもあわせて作成しました。 子どもから大人まで幅広い方に親しんでもらえるよう、デザインのテイストはとてもかわいらしく仕上げています。ですが、ただ単にかわいらしいだけでなく、学術調査に裏付けられた“本物”であることが最大の特徴となっています。

“本物”へのこだわり

 イラスト作成はイラストレーターの吉田葉子氏に依頼しました。吉田氏は、ふじさんミュージアム発行の『富士講のヒミツ』でイラスト作成を担当されたほか、同ミュージアムの資料調査に同行して記録作成を担当するなど、富士信仰・富士講に対する理解も深い方です。

 REBIRTH!富士講プロジェクトでいつもお世話になっている学芸員の皆様からも、貴重なご助言をいただきました。

 実は、最初にイラスト案をお見せした時、「富士講のありさまが表現できていない」と厳しいご指摘を受けました。3年間本プロジェクトに関わり、十分知っているつもりになっていたのですが、それをイラストとして表現するには、まだまだ知識が不足していたのです。

 学芸員さんとの打合せでは、明治~昭和期に撮影された多くの古写真や実物の行衣を確認しながら、ひとつひとつ細部のデザインを詰めていきました。

  • 通常の富士山登拝に用いる杖は、どのくらいの長さでどのくらいの太さなのか。
    →通常の登拝に使用する杖は、肩の高さ程度の一般的な断面が八角形の金剛杖。御中道の時には、自然木で作られた、より長く(七尺(2m以上))、より太い「中道杖」を用いる。
  • 足元はどのような服装になっているのか。
    →足元のスタイルは、股引、脚絆、草鞋。御中道の草鞋は稲わらではなく麻で作られているので、一般的なものよりも白っぽい。
  • 鉢巻の結び方は、人によって異なるのか同じなのか。
    →富士講員の鉢巻は後ろ結びなのに対し、強力は鉢巻を額に結ぶ。
  • 行衣の版の大きさや捺される位置はどの辺りなのか。
    →行衣の版は、背中の中央に刷る牛王宝印が中心的存在であり最も大きい。神仏と一体となって登拝するという意味がある。その他は背中の牛王を支えるという位置づけのため、小ぶりとなる。
 

 この他にも、通常の富士山登拝と御中道巡拝(※富士山中で最大の難所である大沢崩れを含む、富士山五合目を一周する最も厳しい修行)とをしっかり描き分けるべきとのご指摘を受けました。富士講の講員の服装で最も特徴的なのは宝冠と呼ばれる頭にかぶる布ですが、これは御中道巡拝時にヘルメットの役割を果たすほか、緊急時にはほどいて包帯やおぶい紐として使えるようにするためのものなので、通常の登拝で着用されることはありません。こうした場面ごとの服装の違いにも留意して作成を進めました。

 一つ一つ自分の目で資料を確認しながらデザインを詰めていく地道な作業を重ねることで、より良いものができていく大きな手ごたえを感じられました。

「富士山登拝」笠に金剛杖
(山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会)

「御中道巡拝」宝冠を着用
(山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会)

「行列する」鉢巻の結び方は人によって異なる
(山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会)

富士講員と強力の服装
(ふじさんミュージアム)

“本物”にこだわることの意義

 このようにとことん“本物”にこだわることには、三つの意義があるのだと思います。

 一つ目は、誤った認識を広めないということです。
 いったん一般の方の目に触れるものとして公開されると、それが真実の姿として広く理解されることになります。そのため、学術調査に基づいた慎重な検討は欠かせません。

 二つ目は、関係者の理解を得るということです。
 吉澤のコラムでもたびたび言及がある通り、REBIRTH!富士講プロジェクトの遂行にあたっては、信仰への配慮が不可欠でした。富士講の方々が違和感を持たないデザインとすることにより、多くの関係者の理解を得ることにつながっていくと思われます。

 三つ目は、観光的な面白さに深みを与えるということです。
 一見するとただのかわいらしい“ゆるキャラ”ですが、実はその一つ一つのデザインに学術的な裏づけに基づいた深い理由があります。そのギャップを切り口として、より深みのある面白さを感じてもらえることと思います。

 今後は、このマスコットキャラクターが様々な場面で活用され、子どもから大人まで、広く富士山の素晴らしさを伝えていってもらえることを願っています。

「手を振る」”かわいらしく”て”深い”デザイン
(山梨県富士山世界文化遺産保存活用推進協議会)

参考

REBIRTH!富士講プロジェクト-いつまでも 富士山を世界遺産に- [コラムvol.367]

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧