知れば知るほど世界が広がった1年 [コラムvol.222]

2014.09.09

観光文化研究部  門脇茉海
研究員コラム

◆はじめまして

 今回初めて研究員コラムを書かせていただくことになりました、入職2年目の観光文化研究部 研究員の門脇茉海と申します。
 子どもの頃から、江戸時代の人々はどんなことを考え、どんなふうに世間を見つめながら日々を暮らしていたのか、ということに興味があり、大学、大学院では日本近世史(江戸時代)を専攻しました。また、「歴史の面白さをもっと多くの人に伝えたい」という思いから、学芸員資格を取得しました。大学院修士課程2年になると、「地域の人に地域の文化の面白さを伝えていけるような仕事がしたい」という思いを抱きながら就職活動を始めました。当初は博物館職員や大学職員、行政職員等を志望していましたが、観光を通じて地域文化の面白さを伝えることができると考え、当財団への就職を決めました。
 今回のコラムでは、昨年一年間の業務の中で、社会人一年目の私が経験したことを書いてみたいと思います。

◆「森ってドラマティック・・・!!!」

小笠原の森小笠原の森  出張が多い(平均すると週に1日!)と就職以前から聞いていた財団の仕事ではありましたが、昨年一年間は想像以上に多くの場所へ行く機会に恵まれました。その中で、“小笠原”“屋久島”といった、人文系で文化部で運動嫌いな私にとっては、プライベート旅行ではまず旅行先として選ばなかったであろう、豊かな自然にあふれた場所も訪れました。
 小笠原でも屋久島でも、その土地の自然に精通した自然ガイドさんが解説してくれる、エコツアーに参加しました。小笠原では、たった数メートルしか離れていない同種の植物でも遺伝子レベルで進化が始まっていること等々、ぱっと見では分からない植物の秘密を学びました。屋久島では、一見何の動きも感じられない空間の中で、より良い環境を求めあう植物同士の戦いが、激しくも静かに起こっていることを学びました。
 それまでの私は「森は森」という、固定的で一面的な捉え方しかできていなかった、ということに気づかされました。ガイドさんの解説があることで、一見静かな森の中で、実は様々なドラマが起こっていることを知ることができたのです。

◆自然があるから人の営みや文化が生まれ、歴史になる

 昨年秋、岩手県のある里山で、地域の方と一緒に「お宝」(=エコツアーの素材となるような地域の資源)探しをした時のことです。その里山では炭焼きが昔からの生業とされていましたが、長年利用しているにも関わらず木が減っていかないことを地元の方(30代)は不思議に思っていたそうです。お宝探しを指導してくださったプロのエコツアーガイドさんによれば、ナラは一度切っても切り株の脇から“ひこばえ”と呼ばれる若芽が次々に生えることでその生命を維持しており、その強い生命力は、ナラと共生関係にある菌根菌というキノコの仲間がナラに水やミネラルを供給することで得ているとのこと。このようにキノコに支えられたナラの切り株からひこばえが生えることで、炭焼きのために木を切っても裸山になることなく、山が維持されるとのお話を聞いた地元の方と私は、自然の不思議さとそれに寄り添って成立してきた人の営みに、とても感動しました。
 歴史を専攻してきた者として、その土地の生業はその土地の自然に基づくものである、ということは十分知っていたつもりでしたが、自然と人の営みや文化との密接なつながりをリアルに実感した瞬間でした。

◆新たな世界との出会い、そして視野の広がる喜び

 先日、出張で久しぶりに日光へ行きました。日光は小学6年生の時に体験学習で訪れたことがあったため、「もう十分楽しみつくしている」と考えていました。ところが、それは間違いであったことに気づかされました。ガイドさんの案内で小田代ヶ原から戦場ヶ原まで歩くなかで、当時の私が気付くことのできなかった日光の姿が見えてきたのです。体験学習でのハイキングの最大の目的は、友達と協力してゴールまでたどり着くことだったため、周りの景色はほとんど見えていなかったように思います。それがガイドさんの解説により、豊かな世界の存在に気づくことができました。また、見えるものが変わったのは、昨年一年間で自然との向き合い方を身に付けた、私自身の変化によるものでもあるのでしょう。
 これまで私は、自然に親しむ=アウトドアスポーツ=体力がある人がするもの、と考えていたため、自ら自然豊かな場所を訪れようという気にはなりませんでした。しかし、仕事での訪問を通して、森の中で起こっている自然の営みが生み出すドラマや、自然と文化とのつながりを知り、新たな世界に出会うことができました。そしてそれは、私に新たな旅の楽しみを教えてくれたのです。
 さらに、自然を深くじっくり見る楽しさを知った私は、日本の自然の多様性にも気づくようになりました。小笠原出張の後、長野県飯山市を訪れる機会がありました。飯山市も森に抱かれた地域ですが、その森はブナの森です。小笠原の森はまさにジャングル!という風情ですが、広葉樹のブナの森は穏やかで爽やかな印象を受けました。今年に入ってからは、岩手県と宮城県に出張によく行っています。両県とも同じ東北ですが、荒々しく男性的な花崗岩の三陸海岸と、たおやかで女性的な凝灰岩の松島湾では、風景は全く違っています。このように、同じと思われる“森”“海”でも、その地域ならではの個性があることに気づけるようになったのです。それは、私の自然に対する眼差しが、一歩深いものになったからでしょう。

 出張という形ではありますが、新たな世界と出会い気付いたことで、私の旅は豊かなものになってきました。これからも、自分の世界がますます広がることを楽しみにしています。

三陸の海
三陸の海
松島の海
松島の海

 

 

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