農耕型に転換する観光振興 [コラムvol.19]

2008.02.15

研究調査部 山田雄一

◆農耕型に転換する観光振興

 観光のとらえ方、定義には諸説あります。こうした観光定義の「多様性」は、観光に対する社会的認知が広がり、各所で注目されるようになった結果、多様な主体がそれぞれの立場や考え方から「観光」を考えるようになったためと言えましょう。
 ただ、どのように定義が多様化しようとも、観光には、かならず、供給者(地域や民間事業者、NPOなど)と需要者(いわゆる観光客)がセットで存在する事に疑義は無いでしょう。どんなにすばらしい観光地があっても、需要者が居なければ、(地域づくりは成立しても)観光は成立しません。では、需要の動向はどうなっているのでしょうか。
 観光白書の統計手法が変更になったため、中長期的な推移を連続的に示すことは出来ませんが、90年代半ば以降、観光宿泊旅行市場は、減少傾向にあります。近年、国をあげて各所で観光への注目があつまっているにも関わらず、需要が高まっていない状況にあるのです。
 こうした「旅行離れ」は、旅行会社や行政では以前より注目されており、そこへの対処方法を含めた課題意識は少なくありませんが、私は、その中で、違和感を覚える点があります。
 それは、「旅行、観光は、誰でもが、本来はやりたいと思っている物であり、それが実際の需要として顕在化しないのは、なんらかの障壁が存在しているからだ」という物です。
 確かに、各所で実施されるアンケート調査において「やってみたいこと」を尋ねると「旅行」は常に上位を占める存在となっています。女子学生の人気就職先として旅行会社に上位にある状態も続いています。こうした事象から見られるのは、「旅行・観光」への強い注目です。
 しかしながら、一方の「障壁」について考えてみましょう。確かに、現在でも身障者の方や高齢の方を中心に旅行における障壁は残っています。しかしながら、女性の一人旅に代表されるように、以前存在していた「旅行におけるタブー」はそのほとんどがなくなっています。また、交通機関の発達も進み、季節や曜日によってダイナミックに料金が変化するなど自由度も増加しています。このように、旅行のしやすさは、例えば、旅行需要が拡大していた20年前に比べて、格段に向上しているのが実情なのです。仮に、需要の総量が「旅行に行きたい気持ち」と「障害」との相対的な関係で決まるとすれば、障害が大幅に低下した一方で、「旅行に行きたい気持ち」はそれ以上に大幅に低下してしまったという事が言えるのではないでしょうか。
 こうした状況をよりわかりやすく整理するため、市場を「観光旅行を実施しているか否か」「余暇活動の中で観光旅行の優先度が高いか否か」の2軸によって区分してみましょう。
 図上の、市場セグメント1が、現在の旅行観光市場を支えるセグメントであり、「障害」によって旅行に行けない市場がセグメント4です。90年代までの旅行観光市場の増大は、この市場セグメント4から市場セグメント1への流入が支えてきたと言えます。市場セグメント4は、制約を外す(例えば、未婚の男女での旅行をタブー視しない)ことによって、そのまま市場セグメント1に流入する市場であり、観光旅行分野の成長を支える「フロンティア」でもありました。しかしながら、「意志さえあれば、観光旅行はなんとかなる」ようになった現在では、市場セグメント4は、とても小さなものとなっているのが実情でしょう。

観光振興

 では、近年の減少傾向はどのように考えられるのでしょうか。減少するか増加するかは、人口における社会増減のようなもので、転入市場規模と、転出市場規模の差で決定されます。前述したように市場セグメント4は小さな物となっているため、転入する市場規模も小さな物となっています。これだけなら微増、もしくは横ばいとなりますが、同時に転出する市場も一定程度以上、存在するために、市場全体としては減少傾向となったのです。
 では、市場セグメント1からの転出先はどこでしょう。もとの市場セグメント4なのでしょうか。例えば、長く続いた景気の低迷は経済的な理由という障害、制約を高めた事は市場セグメント4への逆流を想起させます。しかしながら、私は、市場セグメント3に転出してしまった人々が少なくないのではないかと考えています。家計消費の動向や、各種アンケート結果などにおいて「経済的」「時間的な」な障害、制約を理由に挙げている人は限定的であるからです。
 確かに、今日でも、観光旅行はやりたい余暇活動の中で上位を占めていますが、それは日常生活上の流れや制約を意識外においた願望的なものと考える事ができます。実際の生活における時間配分、費用配分においては、より優先される余暇活動があると考えるべきでしょう。
 以上の整理をふまえれば、まず、「観光旅行には、皆、行きたがっている」という「常識」は改めるべきでしょう。その上で、「今居るお客様を大事する(市場セグメント1を堅守する)」「余暇活動における観光旅行を、時間や費用をかけるのに値する存在に高める(市場セグメント3→1への流入を図る)」といった取り組みが、重要になってくるのではないでしょうか。
 こうした意識の変化は、狩猟型から農耕型への転換とも表現できます。狩り場となっていた市場セグメント4が縮小した今、市場セグメント1を着実に耕し、その輝きによって市場セグメント3をも取り込んで行く事が求められるようになったと考えられるからです。成熟した市場環境において、市場の維持拡大を図るには、こうした、大きな発想の転換が必要であると思います。

 

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