旅に関する情報発信の持つ意義 ~美しき日本 全国観光資源台帳の公開を迎えて~[Vol.432]

2020.11.04

観光文化情報センター 企画室 副主任研究員 門脇茉海

 みなさま、新しいWEBサイト「美しき日本 全国観光資源台帳(https://www.tabi.jtb.or.jp)」はもうご覧いただけたでしょうか。私の2つ前のコラム「全国観光資源台帳『美しき日本プロジェクト』[vol.391]」で紹介していたもので、当初の予定より遅れたものの、今年の7月1日に晴れて第一次公開にこぎつけることができました。

 このサイトは、当財団が長らく取り組んでいる観光資源研究をベースにした、日本の多種多様で魅力あふれる観光資源を紹介するWEBサイトです。各観光資源の概要に加え、観光研究の視点も織り交ぜることで、資源の魅力の根拠や鑑賞のポイントを解説していることが、このWEBサイトの特徴です。

トップ画面は海と山の2パターン

個別資源ページの特徴
※詳細はWEBサイト(https://tabi.jtb.or.jp/research/howto/)をご覧ください

旅を楽しむ心を失わないために

 2018年度は地元である横浜市を中心に担当していましたが、2019年度は長崎県と東京都の諸島部を担当し、現地調査を進めていました。新型コロナウイルスの流行が猛威を振るいはじめたのは、壱岐と対馬、神津島~式根島~新島の調査を終え、利島への現地調査を計画していた頃のことでした。

 緊急事態宣言発出後は、当財団も原則テレワークとなり、出張はおろかほぼ自宅の玄関から出ない日々が始まりました。外出といえば近所のスーパーに買い出しに行く程度、家族以外の誰とも会話をしない毎日が続く中で、当たり前のように出張に行っていた日々が遠い昔のことのように感じられ、果たして出張や旅行に行ける日が戻ってくるのかと、突然の大きな変化に戸惑う日々が続きました。

 本来であれば、春先のこのタイミングでWEBサイト公開に向けた最終確認作業を行う予定だったのですが、緊急事態宣言が継続する中で、公開に向けた作業の一時中断と公開時期の延期を決めました。それでも、感染者数が日に日に増加し、収束の目途も全く立たず、人びとの心が徐々にささくれ立っていく中で、人の移動を誘発する観光資源を紹介することが正しい行為なのかどうか、大きな迷いと不安を感じていました。

 そのような中、私は長崎県調査の成果を原稿にまとめる作業をひたすら進めていました。長崎で見聞きしたものを思い返し、自分が受けた感動を、試行錯誤しながら言葉に変換する作業を繰り返していくうちに、驚きや喜びといった前向きな感情がありありと思い起され、こんな素敵なものが世の中にあることを、もっと多くの人に知ってもらいたいと、素直に思えるようになっていきました。

長崎県壱岐市:猿岩

長崎県対馬市:和多都美神社

 「旅することは、人間の本能である」と言われます。旅そのものに対する否定的なイメージがつきかねない状況下で、観光資源の魅力と豊かな旅のあり方を発信することは、やはり必要なことであると思えるようになったのです。

観光と地域生活との両立をはかるために

 このWEBサイトのコンテンツは、一般的な観光系のWEBサイトやガイドブックに慣れていると、読みにくかったり、分かりにくかったりするかもしれません。また、旅行者側が守るべき留意点が記載されていることもあります。こうした特徴は、このWEBサイトが、各執筆者が言葉を尽くして、個々の資源の魅力をきちんと伝えることを重視していることに理由があります。

 今から3年前、観光と地域生活との両立について考えたコラム(「観光資源評価研究と地域との接点 [vol.353])の中で、「地域の魅力を資源として活かしていくためには、日常生活を侵害しないことを大前提として、一定の線引きが不可欠」と書きました。

 一つ一つの観光資源に真摯に向き合うと、うわべの飾りではない、本来の良さがみえてきます。こうした旅行者の態度は、観光資源や地域に対する尊敬の念を、自然と育むことにもつながるでしょう。“観光資源の望ましい保全と活用のあり方について一層考えることが、観光資源を評価した者としての責任である”という3年前に抱えていた問題意識、この課題に対する答えのひとつを、このWEBサイトを通して示せたのではと思っています。


 Go To トラベルも全国で始まり、気を付けながら旅を再開させた人も、まだしばらくは…という人もいるでしょう。どんな人にとっても、このWEBサイトが“旅のある豊かな人生”を支えられるよう、ますます充実させていきますので、どうぞご期待ください。

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