2019年を持続的な観光振興元年に [コラムvol.386]
料率での宿泊税条例を可決した倶知安町では、多くのコンドミニアムが立地している

各地で続く観光振興財源の確保

 2019年1月7日。出国時1,000円が課税される国際観光旅客税(以下、出国税)がスタートする。年間430億円と見込まれる税収は、観光庁を主体に観光基盤の拡充、強化に使われる予定となっている。
これによって、我が国は観光振興に関する恒久的な財源を得ることとなり、長期的な視点をもった政策が展開されるものと期待されている。

 こうした国レベルの取り組みと並行して盛り上がりを見せてきているのが、都道府県や市町村レベルでの観光財源獲得の取り組みである。我が国では、2002年に東京都が宿泊税を導入した後、後続が無い状態が続いていたが、2016年に北海道釧路市にて入湯税の嵩上げ(100円)を行い、2017年には大阪府が宿泊税を導入、2018年10月には市町村レベルでは初となる宿泊税を京都市が開始した。

 こうした動きに触発されるように、宿泊税や入湯税超過課税の導入に向けた検討が、複数の自治体で行われるようになっている。例えば、2019年4月から大分県別府市では入湯税の嵩上げ、金沢市では宿泊税の導入が予定されている。また、北海道倶知安町では2018年12月の議会において宿泊税条例を可決しており、総務大臣同意が得られれば2019年11月より、町レベルで初めて宿泊税が導入されることとなる。

 倶知安町の宿泊税は、町レベルというだけでなく、もう一つの「初」がある。
それは、料率の採用である。
これまで我が国の宿泊税は、1人泊あたり100円とか200円という人頭税型(定額)であったが、倶知安町の制度は宿泊料金の一定比率、すなわち料率方式を選択したのである。この方式は「国際標準」と呼べるものであり、宿泊費の増減がダイレクトに税収につながるという点で、合理的な制度である。

2019年は観光財源獲得元年

 この他にも、全国の自治体が宿泊税などの導入に向けた検討を進めてきており、2019から2020年にかけて多くの自治体が導入を表明してくることとなろう。
このことは、国レベルの出国税とあわせ、都道府県、市町村が各々のレベルで、持続的な観光振興、観光地域づくりに向けた恒久的な財源を得ていくことを意味している。

 恒久的な財源を確保することは、観光政策を変えていくこととなるだろう。例えば、これまでは、どうしても単年度での成果をめざすことが求められていたが、恒久財源を得た自治体は5年や10年といった時間軸で取り組んでいくことが可能となる。

 もともと、観光地域づくりの取り組みは、短期でその効果を得ることはむずかしい。「成功している」とされる地域は、そこに至るまで5年、10年といった時間を要しているのが「ごく普通」である。つまり、そうした時間軸での取り組みがあって、始めて目に見える効果が得られるのが観光による地域振興だということだ。

 このように、宿泊税や入湯税の嵩上げは、そうした中長期的、持続的な観光地域づくりを実践していくための「原資」を確保する取り組みと整理することができる。
これらの導入が本格的に進んでいくこととなる2019年は、持続性を持った観光振興元年となることが期待できる。

財源確保はスタートでありゴールでは無い

 一方で、これらの財源確保は観光振興における必要条件であっても、けっして、十分条件ではない。

 例えば、地方創生戦略などで設定されているKPIのベースとなったバランス・スコア・カードという戦略フレームは、財務の改善が人的資源(知財)の改善につながり、それが業務プロセスの改善を実現し、顧客獲得へと繋げ、それが財務改善につながるという戦略フレームである。すなわち、獲得された財源が人的資源、知財の強化につながるような取り組みに使われなければ、好循環を呼び込むことはできない。

 2019年を財源獲得元年に止めるのではなく、持続的な観光振興元年としていくには、財源確保にとどまらず、戦略フレームを回していくような取り組みを展開していくことが求められる。
財源確保の「その先へ」チャレンジしていく年としていきたい。

出典:http://www.s-naga.jp/k-page/14bsc.htmlを参考に山田作成