国内旅行市場の国際比較 [コラムvol.505]

日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」によると、2023年の訪日外客数(推計値)は2,500万人を超え、コロナ禍前2019年の8割程度まで回復しました。
2023年10月以降は、2019年同月を上回る、若しくはほぼ同程度の訪日外国人旅行者が訪れており、皆さんの日常生活でも増加を実感することが増えたのではないでしょうか。

一方、国内旅行市場に目を向けてみると、2023年の日本人国内延べ宿泊旅行者数(速報)は2.8億人と、2019年の9割程度となりました(観光庁「旅行・観光消費動向調査」)。1人あたりにすると、年間平均2.2回、国内宿泊旅行に行ったことになります。

日本では、コロナ禍以前から国内旅行者数は漸減傾向にありますが、世界各国の国内旅行市場のなかでどのような位置づけにあるのでしょうか。

国内宿泊旅行が多い国・地域

2023年6月に策定された観光庁・JNTO「訪日マーケティング戦略」で対象としている市場のうち、国内延べ宿泊旅行者数が公表されている国・地域を対象とし、各国・地域の1人あたり国内宿泊旅行平均回数を図表1に示しました。

コロナ禍前の2019年をみると、豪州が最も多く4.6回/人、次いでスペイン、マレーシアが3.5回/人、韓国が3.1回/人と続きます。日本は2.5回/人と、15か国・地域のなかで7番目でした。

2022年でみると、多い順から豪州、スペイン、フランス、カナダと続き、日本は9番目となりました。世界各国と比べると、日本人の国内宿泊旅行平均回数は多いとは言えない状況にあります。

 

図表1 1人あたり国内宿泊旅行平均回数

出典:UN Tourism「Tourism Statistics Database」、国連統計局「Demographic and Social Statistics」をもとに筆者作成

韓国との比較

ここで、上位に位置する韓国を取り上げ、深掘りして日本と比較してみます。

2019年の1人あたり国内宿泊旅行回数は、日本2.5回、韓国3.1回とその差は0.7回ですが、観光に絞ってみると、日本1.4回、韓国2.5回とその差は1.1回に広がることがわかりました(図表2上)。

次に、国内宿泊観光旅行における旅行経験率(1年間に旅行を1回以上した人の人口に占める割合)をみると、コロナ禍前の2019年、日本では国民の約半数が旅行に行ったのに対して、韓国では国民の7割超が旅行に行っていました(図表2下)。

2022年でみても、日本4割に対して韓国は7割となり、日本のほうがコロナ禍の影響を受け、さらに差が開いていることがわかりました。

ここまで見てきたように、日本よりも韓国のほうが、旅行がより身近な存在であると言えるでしょう。

 

図表2 旅行平均回数、旅行経験率の日韓比較

出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」、韓国文化体育観光部「国民旅行調査」をもとに筆者作成

 

さらに、観光に絞って年代別の旅行経験率をみたものを図表3に示しました。

旅行経験率が最も高い年代は、日本では20代(56%)、韓国では30代(81%)となりましたが、日韓ともに40代以降は年齢を重ねるに連れ旅行経験率は減少し、70代以上が最も低くなりました。とはいえ、韓国の70代の旅行経験率は54%であり、日本の20代と同程度、旅行に行っています。70代以上の同行者をみると、韓国では家族・夫婦が8.5割を占めました。

一方、日本の状況を(公財)日本交通公社「JTBF旅行実態調査」を用いて確認したところ、家族・夫婦は6.5割にとどまり、その分、友人・恋人の割合が韓国よりも高くなりました。ただし、同行者については、韓国では複数回答、日本では単一回答で聴取しているため、直接比較はできない点に留意が必要です。

 

図表3 国内宿泊観光旅行における年代別旅行経験率の日韓比較(2022年)

出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」、韓国文化体育観光部「国民旅行調査」をもとに筆者作成

おわりに

今回は、国内旅行市場を国際比較の観点からみてきました。

日本では、コロナ禍以前から旅行経験率が低減傾向にあります。さらに、以前のコラムで言及しましたが、コロナ禍を経て、特に70代の旅行経験率が大きく落ち込み、回復が遅れています。

諸外国では日本より高い旅行経験率が実現されていることから、日本にもまだ伸びしろがあると考えられます。高齢者も含めた旅行経験率の底上げに向けて、諸外国の取組にも注目していきたいと思います。