観光の「エコ認証」の実効性を高めるには [コラムvol.492]

1.旅行者の「サステナブル」さに対する意識変化

本稿は2023年5月8日に執筆していますが、ちょうど本日は新型コロナウイルス感染症(COVID19)の感染症法上の位置づけが、それまでの2類から季節性インフルエンザ等と同等の5類に移行する日となりました。

我が国では2022年10月から外国人観光客の個人旅行が解禁され、併せてビザ免除の措置も再開されており、観光目的での入国についてはコロナ禍以前と同様の体制となっています。また、全国旅行支援の効果も相まって国内需要も旺盛な傾向が見られます。実際、この4月末から5月上旬の大型連休中の各地の観光地の状況を見ても、活況を呈していたようです。

このように「再起動」した観光ですが、コロナ禍前とは若干異なる変化が生じている点もあります。その一つが旅行者の「サステナブル」な取り組みに対する意識の高まりです。

当財団が日本政策投資銀行と共同で実施している調査でも、欧米豪の高収入層、Z世代と呼ばれる若年層を中心に、海外旅行の際の訪問先や滞在施設を検討する際にサステナブルな取り組みを重視する傾向が強いことが示されています。

国内外の観光地では「サステナブルツーリズム」として各種の対応を進めており、当財団でも機関誌『観光文化』254号の特集や2022年10月に開催した旅行動向シンポジウムにおいて、その概念の整理と再構築、あるいは取り組み事例の収集・紹介を行ってきているところです。

2.観光地や観光産業のサステナブルさを可視化する「エコ認証」

観光地や観光産業が取り組む「サステナブル」な取り組みは、旅行者の意識変化や、社会的な要請に応じるために必要なものである一方で、実際の内容やその水準を客観的に判別するのは一般的には難しいのが現状です。

このため、取り組みの内容や水準を一定の基準に照らして評価し認証する、いわゆる「エコ認証」(エコラベル)と呼ばれる制度が注目されています。

観光地や観光産業の取り組みのサステナブルさを認証する制度自体はそれほど新しいものではなく、2000年代初頭から各種制度が構築されてきており、その「認証の対象(サービス/事業者/地域(観光地))」や「認証制度の運営主体(国/NGO/業界団体)」も様々です。

 

主たる国際的な「エコ認証」制度

    出所)各制度のウェブサイトや各種資料より筆者作成

3.評価が分かれる「エコ認証」の選択要因としての効果

この「エコ認証」の観光における主な機能は、「市場におけるメカニズム、つまり消費者の選択のための要素」(Buckley, 2002)とされています。

このことから、観光研究の分野では「エコ認証が旅行者の観光サービスや訪問地の選択要因となりうるのか」という観点から数多くの研究が行われていますが、評価が分かれているようです。

一例として、いわゆる「サービスマーケティング」の分野では、例えばBaumeisterら(2022)は、エコラベルを航空乗客に提示することは予約行動の変化につながり、環境配慮意識の高い乗客でよりその傾向が強いことを示しています。

また、エコツーリズムの目的地では、環境に関する知識、あるいは環境に配慮した製品やサービスの購入に関心を持つ観光客を引き付けることが示されています(Mihalic, 2000 ; Tseng et al., 2019)。同様に、PerkinsとBrown(2012)も、エコツーリストが環境に配慮した製品やサービスの購入を検討する可能性が高いことを示しています。

一方で、KarlssonとDolnicar(2016)の研究のように、エコラベルは一般的な観光客の需要に大きな影響を与えないが、ニッチな市場が存在し、代替の観光業者の中から選択する際にエコラベルの影響を受ける、といったように条件付きで正の影響を認めているものも見られます。

また、観光地を対象とする「観光地マーケティング(デスティネーションマーケティング)」の分野でも、例えばビーチやマリーナなどを認証の対象とする「ブルーフラッグ(Blue Flag)」制度の効果について検証する研究が複数見られます。この一連の研究でも、例えばCapacciら(2015)が、ブルーフラッグが将来的な国際観光の流れに正の影響を与えることを主張している一方で、McKennaら(2011)は観光客の選択にわずかな影響しか及ぼさないと結論づけているなど、やはり評価は分かれているようです。

4.「エコ認証」制度のさらなる実効性向上のために

我が国でも各地で「エコ認証」の取得や構築を目指す動きが見られ、実際に認証を取得した例も見られるようになっています。

その際、「第三者等による評価」や、「認証プロセスの透明化」などによって、認証制度そのものの客観性・信頼性を確保することが重要であることは言うまでもありませんが、上記の既往研究の結果を踏まえれば、例えば

 ・業界団体や広域的な立場の行政(国や都道府県等)と連携した、認証制度の社会的な認知度向上
 ・現実的かつ実用的な評価項目の設定(認証取得に取り組むことで、無理なく自然に事業者や地域の取り組みのレベルが向上する仕組みとすることで、事業者や地域の認証制度の活用意欲を促す)
 ・認証観光地や認証事業者(施設)の利用喚起方策の実施(クーポン等によるインセンティブ付与 等)

等の取り組みが現在以上に必要になってくるものと思われます。

いずれにしても、認証取得や制度の維持はあくまで手段でしかなく、真の目的はよりよい観光地や観光産業としてのあり方を目指すこと、さらには、それを選択時の参考情報となるよう、わかりやすく旅行者に示すことなのではないでしょうか。

参考資料

  • Baumeister, S., Zeng, C., & Hoffendahl, A. (2022). The effect of an eco-label on the booking decisions of air passengers. Transport Policy, 124, 175-182.
  • Buckley, R. (2002). Tourism ecolabels. Annals of tourism research, 29(1), 183-208.
  • Capacci, S., Scorcu, A. E., & Vici, L. (2015). Seaside tourism and eco-labels: The economic impact of Blue Flags. Tourism Management, 47, 88-96.
  • Mihalič, T. (2000). Environmental management of a tourist destination: A factor of tourism competitiveness. Tourism management, 21(1), 65-78.
  • McKenna, J., Williams, A. T., & Cooper, J. A. G. (2011). Blue Flag or Red Herring: Do beach awards encourage the public to visit beaches?. Tourism Management, 32(3), 576-588.
  • Perkins, H. E., & Brown, P. R. (2012). Environmental values and the so-called true ecotourist. Journal of Travel Research, 51(6), 793-803.
  • Tseng, M. L., Lin, C., Lin, C. W. R., Wu, K. J., & Sriphon, T. (2019). Ecotourism development in Thailand: Community participation leads to the value of attractions using linguistic preferences. Journal of cleaner production, 231, 1319-1329.